2021年12月16日
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第16回 目の不自由なこどもへの合理的配慮(後編)
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第16回
「ICT機器を活用した目の不自由な子どもへの合理的配慮」(後編)
⑴ 読むことに関する困りごと
視覚障害がある児童が教科書を読む際に感じる困難さは、対象となる文字が小さいために見えない、フォントのタイプにより文字が細くて読みにくい、行や文字の間隔がつまりすぎて重なって見える、コントラストが悪いためはっきり見えないなどが主な原因となります。
これらの困難さに対しては、従来は拡大印刷などの技術を用いて大きな教科書等を作成するのが一般的な支援の形でした。一方で拡大印刷を用いた支援では教科書が大きくランドセルに入らない、分冊になりページが変わってしまうため教員側で進行方向に配慮が必要であったりとさまざまな学習上の課題が存在しました。
最近ではデジタル情報としてテキスト情報を受け取ることでPCやタブレット端末内でデジタル図書として教科書を閲覧することで、文字サイズやフォント、背景色などの変更が可能です。
慶應大学を中心として授業中に教科書をデジタル図書として使用することを想定したアプリ(UDブラウザ)の開発も進み、文字サイズやフォントの色、書体の適正化や音声の読み上げ、教科書への書き込み等が可能となりました。また教員が指導する際もページを指示することで指定のページへ移動できる機能など、現場の声を反映させて授業を行う際に課題とされてきた内容に対する改善が日々行われています。
次に問題になることは教科書の文字情報を入手することが難しいという点です。この課題に対する一つの解決法は東京大学が実施している認定教科書の文字情報を受け取れるサービスである「Access Reading」の活用があります。Access Readingでは、視覚障害だけではなく、読み書き障害や肢体不自由など印刷物による読むことに困難があり、特別な支援を必要とする児童生徒に向けた教科書・書籍の電子データを提供しています。
導入時のポイントとしては、文字サイズやフォント等をいくつか提示して本人の読み心地を聞きながら、無理なく読める最小の文字サイズに設定することが重要です。必要以上に文字サイズを拡大してしまうと、1画面で表示される文字数が少なくなり文章を形態として認識することが困難となるため内容や文脈の読み込みが難しくなる傾向があります。
もし文字サイズをかなり大きくしないと読めない場合は、音声読み上げ機能を利用することをおすすめしています。そして、「読むことの本質は、情報の入手であり文字を読字できることではないこと」を共有することが重要です。児童たちが将来的に、文字情報をどのように入手していくかの引き出しを増やすことが教育の現場では求められています。
⑵ 知ることの困難さ
見ることや読むことに続く課題は「知ること」にあります。例えば、明るさがわからない、色の違いがわからないなど、視力や色覚の低下や特性により「知る(認識や識別する)こと」の困難さが生まれます。
これら困難さに対するスマホやタブレットの背面カメラの物体認証機能を利用した便利なアプリが多数存在していますが、今回は導入に使いやすい代表的なアプリである「Seeing AI」(提供:Microsoft)とその内容について紹介します。
Seeing Aiでは、端末の背面カメラと画像や文字認識機能を利用して、文字情報や色情報などさまざまな視覚情報を音声に変換することが可能ですが、とくに児童への導入時に最適なものについて紹介します。
1) 短いテキスト:この機能ではテキストの上にカメラをかざすと、自動的に読み上げられます。まずはかざすだけで文字情報を音声として得られるという体験が、見えないことと読めないことが別であるということを知るよい機会になります。
2) ドキュメント:カメラを印刷ページの上にかざすと文章全体を捉えた時に自動的にキャプチャされてテキスト化されます。テキスト化された後は再生ボタンを押して、単語の強調表示を同期させながら、テキストの読み上げを行ったり、プラスボタンとマイナスボタンを使用してテキストサイズの変更が可能です。1)で慣れたあとは印刷物全体を読む練習をする際におすすめの機能となります。
3) シーン:この機能は、映った風景の全体的なシーンを音声で説明してくれる機能です。精度的にはまだ開発段階といえますが、写真に撮ることで風景を音声で理解できるようになる体験はとくに児童の好奇心を高めるのに役立ちます。
4) 色:この機能では認識した物の色を読み上げさせることが可能です。この機能の精度もまだ開発中なレベルと言えますが、色覚特性を有する児童も存在するため一つの手段として色の違いを音で知れる体験はとても新鮮です。
5) ライト:この機能では、周囲の光の量を検出し、背面カメラが捉えた風景の明るさに合わせてトーンのピッチが高くなります。光を感じることが難しい児童では、明るさという概念を音に変換して認識できることで、世界が広がったと感じる児童もいるようです。
以上のように、たった一つのアプリの存在を知るだけで、視覚に障害のある児童の学びへの意欲を大きく向上させる可能性があると私は信じています。
視覚に障害のある児童への合理的配慮の本質は、前回の記事でお伝えした児童との関わり方の3つのステップの徹底であると私は考えます。まずは難しく考えることなく教員のみなさんが見ることの多様性を知り、アプリやアイデアの引き出しを増やしてWhyよりHowで児童と一緒に考えるスタンスを持つことが重要です。本稿がすべての児童がより学びやすく、すべての教育がより教えやすくなる一つのきっかけになれたら幸いです。
イラスト提供:Atelier Funipo
執筆者プロフィール
三宅 琢
株式会社Studio Gift Hands 代表取締役
公益社団法人NEXT VISION 理事
労働衛生コンサルタント・メンタルヘルス法務主任者として、働く人々のメンタルヘルスケアから人材育成まで職場で起こるさまざまな課題の解決やヘルスリテラシー向上のための教育・育成を行う産業医。iPhoneやiPadを活用した視覚障害者や発達障害者への情報支援をはじめ、建築や空間デザインの力で自ら治る未来医療の実現を目指し、病院デザインのコンセプトディレクターを務める等、医療、デザイン、建築の領域を超えた情報障害者への情報処方を行う眼科医。短歌やマネジメント本の執筆、日テレSocialの体コンデショング動画の監修や日本の伝統美の価値を伝えるEdge of Japanの運営支援を行うなど、マルチメディアでの対話を軸として社会課題を解決する社会処方を提案する社会医。三つのスタイルで人が豊に生きるためのウェルビーイングに関する哲学教育を行う医師、活動家。哲学・理念
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