2019年4月1日
松田校長が本音で語った「前原小学校が教育クラウドで成果を上げた理由」
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NTTコミュニケーションズは3月7日、小金井市立前原小学校の松田孝校長が教育とICTについて語るイベント「新しい“学び”のPerspective セミナー」を開催した。同校は公立小学校でありながら、最も先進的なICT活用を進めてきた学校であり、その舵取りをしてきたのが松田校長だ。現場では、どのような実践が行われているのか。また多くの学校でICT活用が広がらない理由はなにか。松田校長が本音を語った。
たとえ1人1台が実現できても、今のままの学校ではICTは使われない
松田孝校長は、前任校である多摩市立愛和小学校の時代から1人1台にこだわってICT活用を進めてきた。企業や国の研究事業などと連携しながらICT環境を整備し、現任校である小金井市立前原小学校においても、1~3年生でiPad、4~5年生ではChromebookによる1人1台を実現している。今年度はそうした環境を活かして、総務省の「『次世代学校ICT環境』の整備向けた実証事業」や、IchigoJamを活用したプログラミングの公開授業などに取り組んできた。
そんな松田校長であるが、講演では「どんなに予算を設けて1人1台を実現しても、今のまま学校ではICTは使われない」と参加者らに投げ掛けた。一般的に、企業や行政担当者はタブレットの台数が足りないから現場の教師たちはICTを使わないと考えがちであるが、松田校長はこうした意見に異を唱える。「自分もそう思って、1人1台をめざしてきたが、多くの教師はたとえICT環境が整備されても使わない」と松田校長は打ち明けた。
教師たちはなぜICTを使わないのか。松田校長は「日本の高度成長を支えた専門教科教育の完成度があまりに高く、教師たちに自信と誇りがあるからだ」と述べた。
教師から児童生徒へ知識を伝授する一斉授業などは、ICTがまだ普及していなかった時代に築かれた教授法であり、今も教師たちの世界では重んじられている。
松田校長は「学校現場や教師たちがICTのなかった昭和や平成の教育を再現している限り、そこに必要性はない。だから学校ではICTが使われない」と強調した。外から見れば、新学習指導要領で情報活用能力の育成が明記されたため、学校現場はICT活用が進むと見られがちであるが、学校や教師の本質が変わらない限り、本当の意味でのICT活用にはつながらないというのだ。
そうした前提を踏まえて松田校長は、「教師や学校は、子供たちが生きる未来に対して、確かな時代認識を持つことが重要だ」と述べた。人工知能、自動運転、ロボットとの共生、仮想通貨、5Gなど、テクノロジーの進化によって、子供たちの未来は今とは異なる社会になる。松田校長は「未来を生きるためには、デジタルリテラシーとインテリジェンスが必要であり、そうした学びを実現するためには、個性的な学びができる個別学習を保証することが大切だ」と主張した。
つまり、今のようにICTを効果・効能ベースで活用するのではなく、未来思考にもとづいて「学校とはなにか」「授業とは何か」、そんな問いを突き詰める活動へ発展させるべきだと、会場の参加者らに訴えた。
schoolTaktを活用した「朝ノート」を学級運営に活かす
続いて、松田校長は前原小学校における取り組みをいくつか紹介した。
最初はタイピング。文科省が2014年に実施した「情報活用能力調査」によると、“小学5年生の文字入力は1分間あたり5.9文字”との報告であるが、前原小学校で行った2018年7月の調査では、6年生17.9文字/分、5年生14.2文字/分、4年生11.9文字/分と、全国平均を3倍上回る結果が出た。松田校長は「大学入試や英検などでCBTが導入されるので、学校としては対応していくのは当然だ」と語った。
次に松田校長は、前原小学校が利用する教育クラウドサービス「まなびポケット」を取り上げた。同サービスは、デジタルドリル教材や授業支援ツールなどさまざまな教育コンテンツを共通のプラットフォームからシングルサインオンで利用できるのが特徴だ。前原小学校ではまなびポケットの中から、授業支援ツール「schoolTakt」、デジタル教材「やるkey」「eboard」、英語学習教材「EnglishCentral」、学級経営サポートツール「WEBQU」を利用しており、松田校長は「3年生の英語の発音は本当に綺麗になってきた」など、手応えを語った。
最後に松田校長が紹介したのは、まなびポケットで提供されているサービスのひとつ、「WEBQU(ウェブ・キュー・ユー)」と授業支援ツール「schoolTakt」を利用した朝ノートの活動だ。通常、朝の会といえば、教師が出欠を取り、日直や係がその日の連絡を伝える時間であるが、前原小学校では児童たちが、その日の健康状態や思っていること、言いたいことを自由にschoolTaktに書き込み、クラス全員で共有するという。
たとえば、「今日も元気」「寝坊した」と書き込む児童もいれば、「昼休み一緒に遊ぼう」と皆に呼びかける児童もいる。また、自分の好きなことや気持ちをイラストで表現する児童もいる。子供たちは、それぞれに“見られることを前提に”思っていることや今日の気分を書いて発信し、schoolTaktの機能である「いいね!」ボタンやコメント機能で交流し合うというのだ。
松田校長は、朝ノートで行われた子供たちの交流をschoolTaktの「発言マップ」で可視化し、誰が誰にコメントをしているのかなど人間関係を分析し、学級運営に活用した。具体的には、児童も教師も学級集団に対する関係性を意識するように、「クラスとは何か」を問いかけるよう導いたという。その結果、6月時点ではバラバラだったある学級は、12月時点で親和型と呼ばれるまとまりある良い学級へ変化。同じ傾向の結果は、他の7学級でも得られた。
児童たちは朝ノートについて、「みんなからコメントをもらえて嬉しかった」「朝ノートを通じて普段喋らない人と話せた」「友達のいいところに気づくようになった」といった好意的な意見が寄せている。松田校長は「ICTを使うと人間の良さが損なわれるという人もいるが、むしろ逆。アナログで見えなかった関係性をたくさん作ることができ、リレーションを重視した学級運営ができる」と述べた。学級運営の手立てとしてICTは有効であり、授業にとらわれない日常的なICT活用こそ、児童たちの変容が見られるというのだ。
小金井市教育委員会はChromebookを導入。行政から見たメリットは?
続いて、小金井市教育委員会 統括指導主事 平田勇治氏も登壇し、Chromebook導入に関する教育委員会の視点を述べた。同市では、今年度から小中学生7300人に対して3人に1台の環境を5年間で整備していく。端末はChromebookを選択した。
平田氏はChromebook導入の経緯について、限られた予算の中で情報端末に求めた条件としては、「リモートメンテナンス」「OS自動アップデート」「セキュリティの高さ」の3点だったと述べた。もちろん、長時間バッテリーや日本語キーボードなども重要であったが、長期的に見て費用対効果が高いのは、クラウドによる教育環境を築くことだと判断した。これによって、サーバーの保守が不要になり、すべての端末を一括管理できる。小金井市では端末が増えても、ICT支援員は従来の2名体制で運用できているというのだ。
また同氏はChromebookのメリットについて、「起動が早い」「直感的で操作がわかりやすい」「(低価格なので)端末の台数を増やすことができる」と述べた。教師たちは“使いたい時に使えない”、“使い方がわからない”といった点にICT活用の不安を感じるようだが、Chromebookはこれらの不安解消にもつながると同氏は述べる。Chromebookの導入当時には、デジタル教科書の使用や、文部科学省から提供される小学校英語のDVDの視聴、プリンター印刷などには不安感もあったそうだ。ただ、現在では、マルチOS対応やWEB配信サービスによってデジタル教科書の利用環境が整いつつあり、小学校英語のDVDやプリンター印刷も、ネットワークを経由して対応ができているという。Chromebook導入時は学校現場での前例が少なく課題もあったが、Chromebookの使い勝手は日々進化をしており、今後のさらなる進展にも期待感を頂いている。
限られた予算で台数をそろえたい自治体にとっては、Chromebookの価格帯は魅力的だといえる。今後、小金井市のようにChromebookを選択する自治体は増えていくことが予測されるため、学習に活用できるコンテンツや教材が充実していくことを期待したい。
松田孝校長による全国セミナーの開催
松田孝校長の講演を中心とした今回のようなセミナーは、5月から全国の各都市でも開催が予定されているそうだ。(以下の関連URLより、近日詳細を公開予定)。
セミナー会場に参加するからこそ分かる前原小学校でのリアルな実践の様子や、松田孝校長の言葉から発せられる熱量を、ぜひ皆さんにも肌で感じ取っていただきたい。
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