2019年4月9日
私学の校長へ/ICT教育ってICTを活用した20世紀の教育?
2019年度スタート。まさか、今この時点で「我が校にICT教育を導入すべきかどうか」などと議論している私立学校は無いと思いますが、万一そんなことをやっていたらあなたの学校潰れますよ。今日は、そんな圏外の学校の話ではなく、「うちの学校結構頑張ってやっていますよ。タブレットとかもいろんな教科で活用していますよ」という校長先生に読んで頂きたい。それだけじゃやっぱり潰れますよ。というお話。
ICT教育とはどのような教育か
ICT教育とは。はじめにICT(アイ・シー・ティ)とは、「Information and Communication Technology」のこと。日本語では「情報通信技術」と訳されています。では、ICT教育とは何のことでしょうか。
私は、ICT教育を大きく3つに分類しています。
1) ICTを活用したこれまでの教育。
2) ICTを活用した新しい教育。
3) ICTリテラシーを高めるための教育。
結論から言うと、1)は×、2)3)は○ということです。違いはわかりますよね。
1) は、ICTは使っているけれど中身は20世紀の教育。
2) は、ICTを使った21世紀の教育です。3)は後で説明します。
私の3分類とは別に、教育現場でよく言われていることに「ICTを活用するための授業作り」と「ICTを活用して行う授業作り」があります。前者は授業作りのあり方
として「×」で、後者の取り組みが「○」というものです。「ICTを活用するための授業作り」とは、導入されたタブレットPCや電子黒板を無理矢理使うために考える授業です。教科や単元の流れと関係なく、写真や動画を撮影してみたり、授業支援アプリを使って資料を配付したり、テストを行ったり、発表したりします。
「ICTを活用して行う授業作り」は、本来の授業設計の中で、「ICTを活用してより効率が良くなったり、より効果を高めることが出来る」使い方をするというものです。例えば、板書時間を短縮するためにPDF資料を電子黒板に表示したり、資料をコピーして配付するのではなく授業支援アプリで各自に配付するとか、インターネットの検索でしらべ学習を行うといったものです。わたしは、両方とも間違っているとは思いませんが、それはあくまで移行期を前提とした一時的なことです。それを目的にしていては到底ICT教育の深化は望めません。
ICTの活用に抵抗があったり、懐疑的な教師向けに使われる言い方に「授業のやり方や教え方が変わるわけではありません。ICTは道具なのですから、これまでのやり方で相性の良いところで使えばいいのです」。これはもう最悪の考え方です。実物投影機を使って何かをプロジェクターで大写しして「ICT活用」などという、とんでもない事例を生み出してしまいます。
21世紀の教育のあり方でもっとも重要なのは20世紀の教育からどう脱却するか、「授業改善」「学校改革」をどう実現するかです。「工場労働者」や「サラリーマン」を育成するための一斉・画一教育から、課題を自ら見つけて解決策を考えて発信できる教育への変革です。
第4次産業革命でSociety5.0を目指す社会を生き抜く力をどう育んでいくのか。2020年度から施工される学習指導要領に示された「主体的・対話的で深い学び」をどのように実現するのか。
そのためにはICTを活用した学びは欠かせません。あなたの学校で取り組んでいる「ICT活用」はそうした未来の学びを見据えていますか。これまでやってきたやり方にICTを利用しているだけではありあませんか。「授業改善」「学校改革」を念仏のように唱えてICT活用状況を見直してみてください。
21世紀に欠かせないICTリテラシー
さてもう一つのICT教育、「ICTリテラシーを高めるための教育」。
ICT教育を推進する方々もよく現場でこう言います。「ICTを教えるのではなく、ICTで教えるのです」。つまり、「情報活用能力」とは、ICTの使い方や情報の使い方を教えるのではなく、道具としてICTを利用して教育をするんです。というもの。しかし、これもICT利用に抵抗のある現場の教員などに配慮して言っていることで本当は違います。正しくは「ICTも教える」です。
ICTリテラシー。リテラシー(literacy)とは、元の意味は「読解記述力」のことで、転じていまでは「与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力」という意味ということ。言うならばInput(入力)~Thinking(思考)~Output(出力)という情報処理能力。
新しい学習指導要領の「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成」の項では、「各学校においては、児童の発達の段階を考慮し、言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かしつつ、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする」と明記している。これは、読み書き話す聞くという「言語能力」と「情報活用能力」を同等に必要な資質・能力と扱うということです。
さらに「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」には、「情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また、各種の統計資料や新聞、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とあります。あわせて、「児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動」と「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を、各教科等の特質に応じて計画的に実施すること、としています。
つまり、学習指導要領には「主体的・対話的で深い学び」と「情報活用能力の育成」はすべての教科・学習の場面で計画的に取り組まなければならないということ。「ICTで学ぶ」だけではなく「ICTを学ぶ」ことも必須要件として示されているのです。小学生段階から「ICTを活用した新しい教育」や「ICTリテラシーを高めるための教育」を受けた子どもたちを、「ICTを活用したこれまでの教育」をしているあなたの学校で受け入れられるでしょうか。いま校長であるあなたが取り組んでいる教育の結果は、あなたの退任後に現れるのでしょうが、その責任はあなたにあります。(編集長:山口時雄)
参考記事
<21世紀の学びを実現するために>
□「教育情報化コーディネータ 1級」の田中さんに聞く“ICT導入で目指す授業改革”
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