2023年3月28日
地域産業を支える一関高専と日本のネットワークを支えるヤマハが生み出す相乗効果。自主性と実践力を育てるIT教育を実現
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IT人材の不足が社会問題化しているなか、企業は即戦力となるIT技術者を求めている。なかでもITインフラにおいて重要な役割を担うネットワークエンジニアは、ITを活用するすべての企業にとって必要不可欠だ。ルーターやスイッチなどのネットワーク製品を展開しているヤマハ株式会社はこうした現状をふまえ、ネットワークエンジニアのスキルアップを目的とした公式認定制度「ヤマハネットワーク技術者認定試験(Yamaha Certified Network Engineer:YCNE)」を展開している。
実習科目を中心とし即戦力となる人材を育成している独立行政法人 国立高等専門学校機構 一関工業高等専門学校では、「YCNE Basic★」をベースとしたヤマハのネットワークカリキュラムを採用。本稿では、同校の情報・ソフトウェア系コースで教授を務める宇梶 郁 氏にお話を伺い、実践的・創造的技術者の育成を担う高等専門学校(高専)とヤマハの支援プログラムが生み出す相乗効果を確認していく。
実践的な教育を目指す一関高専、学生とともにIT人材不足問題に向き合う
岩手県一関市に広大なキャンパスを構える一関工業高等専門学校(以下、一関高専)は、「機械・知能系」「電気・電子系」「情報・ソフトウェア系」「化学・バイオ系」の4コース(系)を展開し、5年一貫教育で高度な専門技術者を育成している高等教育機関だ。
今回、ヤマハのカリキュラムが導入されたのは、プログラミング、アプリ開発、ネットワークシステム、IoT、サイバーセキュリティなどの技術を扱う情報・ソフトウェア系だ。同コースでネットワークなど実習系の科目を中心に担当する宇梶氏は、就職市場の動向について次のように分析する。
「近年では実践的なITスキルを持った人材を求める傾向があり、ジョブ型雇用を導入する企業も増えています。座学や理論だけでなく、実践的な教育を目指している高専は、こうしたニーズに対応できる高等教育機関です。実際、地域企業からも即戦力となるITエンジニアが欲しいという声をいただいており、同校としても地域や社会に貢献できるのではないかと考えています」(宇梶氏)
IT人材不足が深刻化している現状については、学生も敏感に感じとっており、人材が不足している分野で活躍して企業や社会に貢献したいと考える頼もしい学生が増えてきているという。こうした背景もあり、情報・ソフトウェア系では実習的なスキルを習得できる科目が充実しており、手に職をつけたいと考える入学希望者が毎年集まっている。
実践的なスキルを身につけるグループワーク形式の実習科目にも課題が
情報・ソフトウェア系の3年生では、以前より実機を使ってネットワーク機器の操作・設定を学ぶ実習科目が展開されている。当初は実習用のネットワーク機器を十分に揃える予算が確保できなかったこともあり、4~5人で1台の機器を使うグループワーク形式だったという。宇梶氏は当時を次のように振り返る。
「実機を使う意義は、実際に操作・設定を行うことでどのように動作しているのかを理解することですが、4~5人のグループワークでは、操作できるのは1人で他の学生は見ているだけといった状況でした。それでは当然実践的なスキルが身に付かず、大きな課題となっていました」(宇梶氏)
こうした課題を解決するためのアプローチを模索していたところ、ヤマハのネットワークカリキュラムの存在を知り、検討開始からわずか1~2週間程度で学校側を説得し、導入に至ったという。宇梶氏は導入の決め手について次のように説明する。
「ヤマハのカリキュラムを導入すれば、十分な台数のネットワーク機材を揃えられるうえ、ヤマハネットワーク技術者認定試験(YCNE)に対応したテキスト『ネットワーク入門・構築の教科書』を提供してもらえることもポイントでした。同書はネットワークの基礎がよくまとめられており、従来の実習科目の内容も網羅されていました。これまでは私が作った手製のスライドを使って授業を行っていたので、とても助かりました」(宇梶氏)
「実機に触れられて楽しい」ネットワークに興味を持つ学生が続出
こうして、情報・ソフトウェア系の3年生の実習科目にヤマハのネットワークカリキュラムが導入された。ルーター、スイッチ、無線LANアクセスポイントなどの実習用機材が提供されたことで、2人1組の実習を実現した。見ているだけという学生はいなくなり、2人で相談しながら主体的に機器の操作や設定を行えるようになったため、学習効果は飛躍的に向上したという。
「学生からは、実機に触れられて楽しかったという声や、実習を通じてネットワーク技術に関心を持ったという声を聞いています。なかにはヤマハがインターネット黎明期からネットワーク機器を提供してきた企業であることを初めて知ったという学生もいて、ネットワーク業界を知るという意味でも効果があったと感じています」(宇梶氏)
また、海外製のネットワーク機器を使った従来の実習と比較すると、ヤマハ製品は日本語の技術情報が豊富なため、学生自身がインターネットから情報を収集して問題解決を図れるようになったことも大きなメリットだ。授業用テキスト「ネットワーク入門・構築の教科書」については学生からもわかりやすいと評価が高く、夏休み期間中に貸し出しを求める学生がいたほどだ。このことからも実習を通じてネットワーク技術に興味を持つ学生が増えたことがうかがえる。
さらに、資格を習得すれば就職活動を有利に進められるうえ、スキルがしっかり身についているかを試せるという意味で、宇梶氏は今回のヤマハのカリキュラムのベースとなっているYCNE Basic★の受験を推奨したという。
「YCNE Basic★を受験したいと自ら手を挙げる学生もいました。今後も実習を通じて、YCNE Basic★を受験する学生が増えることを期待しています」(宇梶氏)
より実務に近いカリキュラム活用も視野に入れ、即戦力IT技術者の育成を加速させる
高専では、プログラミングコンテストやロボットコンテストをはじめ、近年ではCTFのようなセキュリティコンテストも開催しており、習得したスキルを試す場が用意されている。また、大学主催のセキュリティコンテスト(情報機器管理コンテスト)にも一部の学生が参加するなど、外部との交流も活発に行われている。コンテストではヤマハのネットワーク機器も多数扱われており、今回の実習で得た経験が活きてくるのではないかと宇梶氏は期待を込める。
「一般の高校では理論的な授業が中心だと思いますが、高専では理論に加えて実践できる機会を多く設けています。今回のカリキュラム導入で実機をさわってさまざまな問題を解消していくなかで、“実際に手を動かせるエンジニアになれる”と学生に実感してもらえる手応えを感じています」(宇梶氏)
今回導入したYCNE Basic★をベースとしたカリキュラムは、来年度も継続していく予定だという。さらにヤマハではより実務に近い内容の認定資格となる「YCNE Standard★★」もリリースしており、宇梶氏はその内容も注視している。
「上位の認定資格YCNE Standard★★に対応した『ヤマハルーター&スイッチによるネットワーク構築 標準教科書』を拝見し、実務レベルの高度な内容であることを確認しています。具体的な予定はまだありませんが、即戦力となる人材を育成するためにも、どこかで扱えればと構想しているところです。また、今後はネットワーク機器が密接に関わるサイバーセキュリティの領域までをカバーした実習内容にしていきたいですね」(宇梶氏)
さらに宇梶氏は学生の社会での活躍はもちろん、地域の活性化にも貢献していきたいと展望を語る。
「ネットワークエンジニアはITインフラ・サービスの構築・運用に欠かせないもので、即戦力の人材として高専生への期待も大きくなっていると感じています。地域企業からのニーズも高まっているなかで、中東北の拠点都市である一関の高専として高いネットワークのスキルを持った人材を育て、都市圏だけでなく地域の企業でも活躍してもらいたいと考えています」(宇梶氏)
本事例からは、即戦力となる人材育成を目指す高専と、ネットワークエンジニアの育成を通じた社会貢献を見据えるヤマハのネットワークカリキュラムの親和性の高さがうかがえる。 一関高専とヤマハの密接な連携による人材育成の取り組みは、IT人材、ネットワークエンジニアの確保に悩む企業を救う一手となるはずだ。
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