2026年9月29日
「話そうと思えた時点で、もう限界を超えていた」 変化を捉えるAIで、声を上げられない生徒に気づく 高校生が開発した日記ツール「Blesc」
【寄稿】
田 雨竜(Blesc 代表・高校生)
「話そうと思えた時点で、もう限界を超えていた」
中国に住んでいた頃、韓国人の友人から聞いた言葉です。いまも忘れられません。
広尾学園高等学校2年生の田雨竜(でん・うりゅう)と申します。10年間海外で暮らしたあと日本の学校に戻り、現在は生徒のメンタルヘルスを支える学校向けツール「Blesc(ブレスク)」を開発しています。
Blescは、生徒が1人1台端末で毎日短い日記を書き、AIがその生徒の変化を捉え、先生が早めに声をかけられるようにする仕組みです。朝のホームルームの3〜5分で使えます。
アンケートでは見えない生徒がいる
学校には、スクールカウンセラーも、心の健康アンケートも、担任の先生との面談もあります。それでも、本当に苦しんでいる生徒ほど、その仕組みを使いません。
アンケートで「最近、気分が落ち込むことはありますか」と聞かれれば、多くの生徒は「あまりない」を選びます。正直に答えて呼び出されるのは面倒だし、選択肢のどれも自分の状態に当てはまらない。そうして先生の手元には、「全員おおむね元気」という結果だけが残ります。
国が違っても、学校が違っても、声を上げられない生徒はいる。聞かれて答える形では、本当のことは出てこない。だからこそ、毎日の小さな変化から気づける仕組みが必要だと考えました。
先生80名に聞いて、設計を作り直した
最初に考えていたのは、AIが生徒の文章から心の危険を見つけ、先生に知らせる仕組みでした。その考えを確かめるため、全国の先生方80名にお話を伺うと、返ってきたのは予想とは違う声でした。
「これ以上、仕事を増やせない」 「AIがなぜそう判断したのか説明できないと、使えない」
保護者や管理職の方に「なぜこの生徒に声をかけたのか」と聞かれたとき、「AIがそう言ったから」では通りません。どれだけ賢いAIでも、先生の負担を増やし、理由を示せなければ、学校では使われない。この二つの声をもとに、Blescを設計し直しました。
生徒:朝のホームルームの5分間
生徒は、朝のホームルームなどの時間に、1人1台端末から1日1回その日のことを書きます。ブラウザ上で動くため、アプリのインストールは不要です。Chromebook、iPad、Windows端末に対応しています。
書く内容は自由です。勉強、部活、友人関係、進路の迷い。「今日は特に何もない」でも構いません。記述がとても短いときは、AIが前回までの内容をふまえて「最近よく眠れてる?」のように一言だけ質問を返し、書くきっかけをつくります。
変化を捉えるAIのしくみ
Blescの中心にあるのは、「その生徒のいつも」と比べて変化を捉えるAIです。
AIは、日記の文章を意味ベクトルに変換し、書かれている話題や言葉の調子を数値として記録していきます。あわせて、記録した時間帯、文章の量、記録の頻度といった利用状況も見ます。
こうした記録が積み重なると、生徒ごとに「普段の状態」が見えてきます。部活の話が多い生徒、短く書く生徒、夕方に書く生徒。AIはその一人ひとりの普段を学習し、そこからのズレを捉えます。
比べる相手はクラスの平均ではなく、生徒本人です。もともと口数の少ない生徒が短い日記を書いても、それはその生徒にとっての「いつも」なので、通知されません。一方で、毎日たくさん書いていた生徒の記述が急に短くなったり、夕方に書いていた生徒の記録が深夜に移ったりすれば、それは変化です。そして、その変化が一時的なものではなく一定期間続いたときにだけ、先生に知らせます。
生成AIを使うのは、生徒への問いかけの部分だけです。変化の検出は、記録された数値をもとに行っているため、AIが事実でないことをつくり出すことはありません。
先生:通知を見て、声をかけるだけ
先生は、生徒の日記を読む必要がありません。ダッシュボードに届くのは、変化が続いている生徒の通知だけです。
通知には必ず理由を表示します。たとえば「深夜の記録が直近14日中11日」「友人についての記述が2週間でほとんどなくなった」といった形です。だから先生は、なぜその生徒が通知されたのかを自分の言葉で説明でき、面談も具体的なきっかけから始められます。月に1回は、クラス全体の傾向とホームルームでできる工夫をまとめたレポートも届きます。
目指しているのは、AIが答えを出すことではなく、先生が判断するための材料を届けることです。最後に決めるのは、生徒のことを一番よく知っている先生です。
生徒の言葉は、先生にも見せない
日記の本文は、先生には見せません。読まれると分かっていたら、生徒はアンケートと同じように無難なことを書き始めるからです。私自身、日本の学校に戻ってきたばかりの頃は、周りに合わせるのに精一杯で、困っていることを言葉にする余裕がありませんでした。必要だったのは、正直に書ける場所だったと思います。
また、Blescは診断や治療は行いません。必要なときに、スクールカウンセラーや専門機関へつなぐきっかけをつくることが役割です。
学校を変える準備は、できている
Blescのプロダクトはすでに完成しており、学校で実際に使っていただける状態です。京都大学の先生方に力を貸していただきながら開発を進め、これまでにSusHi Tech TokyoやIVSでピッチを行い、ベンチャーキャピタルからも開発資金をいただきました。高校生のアイデアとしてではなく、一つの事業として、学校に届ける準備は整っています。
ここまで来られたのは、話を聞かせてくださった先生方、開発を支えてくださった京都大学の先生方、そして出資してくださった投資家の方々のおかげです。
声を上げられない生徒にも、支援が届く学校へ。これからも、現場の声をもとにBlescを磨き続けていきます。
Blesc
変化を捉えるAIを搭載した生徒の日記ツール
対象:中学校・高等学校
主な機能:生徒の日記記録、AIによる生徒ごとの変化の検出、理由つきの先生向け通知、月次のクラス傾向レポート
料金:生徒1人あたり月額1000円
代表:田 雨竜(Uryu Den)
問い合わせ先:blesc.jp@official.com
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