2014年4月21日
先生一人ひとりが生き生き働けるために/SENSEI NOTE
3月24日、小中高校の先生だけが利用できるSNS、「SENSEI NOTE(センセイノート)」がスタートした。SNSとは、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略で、人と人とのつながりを促進・サポートする「コミュニティ型の会員制のサービス」と定義されている。代表的なSNSにFacebookやTwitterがある。
およそ100万人いると言われる先生たちになぜ「SENSEI NOTE」が必要なのか、「SENSEI NOTE」では何ができるのか。「SENSEI NOTE」の創案者で運営会社LOUPE の浅谷治希CEO & Co-Founderに話を訊いた。
■全国の先生たちが孤立しているという現状
浅谷は、大学卒業後勤務した大手教育出版社を、教育と根本から向き合いたいと26歳で退社。何をしたら良いのかつかめずにいた2012年8月に高校時代の友人と約10年ぶりに再開する。その同級生は、先生になっていた。「生徒がどんどん成長していく様子にワクワクして仕方ないし、だから先生という仕事は面白い」と、満面の笑みでそう話す友人を見たとき、こんな先生がいることに感動したという。
一方で、そんな先生たちが激務に追われ、悩みや課題を一人で抱え込んでいるという現状を同級生から聞いて初めて知り、衝撃を受けた。同級生の、先生たちの役に立てないだろうか、頑張る先生が報われて欲しいという気持ちが芽生えたという。
転機はすぐにやってきた。2012年11月、偶然知ったスタートアップウィークエンドに参加することになった。米国のNPOスタートアップウィークエンドは、世界が抱える社会的な課題を技術的イノベーションで解決しようとする起業家支援の組織。毎年世界各地で起業アイデアのコンテストを行っている。
浅谷は、週末の54時間と限られた時間内で行われるこの大会に参加、「SENSEI NOTE」のアイデアコンセプトをプレゼンし、チームを結成し、プロトタイプを制作して実際のユーザーまで獲得してみせた。もちろん東京大会の優勝者となった。
その後の世界大会では112チーム中8位という好成績を収めた。しかし、浅谷にはコンテストの結果が出る前に、「SENSEI NOTE」を事業化すると決意していた。
2013年2月、「SENSEI NOTE」を実現するために株式会社LOUPEを設立する。浅谷が始めに取り組んだのは、先生の声を訊くこと。
先生たちの勉強会、セミナーやイベント、プライベートな飲み会、様々な場所に出かけていって先生たちの生の声に耳を傾けた。約1年間で話を訊いた先生は数千人に上る。
話を訊けば訊くほど、先生たちの悩みが多いことを知る。小学校の先生たちは指導方法や学級経営で、中高の先生たちは教科に関連した沢山の課題をかかえているという。もちろん「いじめ」や「保護者」や「ICTの活用」、小さなものから大きなものまで多くの課題について話しを訊くうち、浅谷は確信する。悩みや課題は沢山あるだろう、しかし一番の課題は、個別の問題では無く「先生たちが孤立している」ということだと。
学校の職員室には同僚の教師はいるが、満足できるコミュニケーションがとれない環境なのだという。気軽に相談できる人がいない。同年代の人がいない。また、他の学校や地域の先生と情報交換する機会がない。誰かに何かを訊きたくても相手がいないのだ。
とにかく先生たちはみな一人、孤立している。
だから「SENSEI NOTE」では、多くの先生が集まることだけで意味があり、集まることだけで価値がある。
■「場」は作るが「場」の雰囲気は決めない
「SENSEI NOTE」の事業化計画では当初、サイトの有料会員制や先生が持ち寄った知恵を有料で提供することによって、知恵やツールを提供した先生にもフィードバックするというシステムを想定していた。
しかし、公務員である先生が給与以外の収入を得ることは法律の制限などで困難であることから、開発の過程で「場の提供」に特化する方向へと転換した。
「SENSEI NOTE」について浅谷は言う、「先生だけのFacebookみたいなものですよ。場を提供するだけで、場の雰囲気を決めたりはしない」と。先生たちは、自由にその場を訪ね、質問したり、発言したり、話しが合いそうな人を見つけ出して話しかけたり、グループのようにメッセージを交換し合ったり、また興味のある新しい知識に耳を傾けたり。様々な形のコミュニケーションに参加することができる。だからここでは、全国の先生たちをつないで「先生たちの孤立を解消する」というのが構想だ。
そのために「SENSEI NOTE」は、「交流」「相談」「情報収集」の三つの機能を用意している。
「交流」では、自由投稿コーナーやメッセージ機能を使って、地域や学校を越えて全国の先生とつながることができる。互いに声を掛けあったり、自分で探し出したり、交流のきっかけは様々だ。相互に承認し合った先生同士なら、回りを気にすること無く、1対1でも複数でも思い切り話しをすることが出来る。
「相談」は、先生たちが抱える悩みや課題を「質問板」に書き込み、他の先生からアドバイスを受けるというもの。人数が多いので様々な立場や経験から多種多様な意見・回答が寄せられる。その多様性こそが、大勢の先生が集まる「SENSEI NOTE」の最大のメリットでもある。
「情報収集」は、外部の専門家が情報を発信するコラムを購読するなどして、学校以外の情報に触れるもの。反転授業などICT関係やキャリア教育、発達障害系の話題や歴史や文化を学ぶテーマなど、先生たちの知識や教養の醸成に役立つ内容が予定されている。
これらの機能の使い方、雰囲気作りは、利用者に委ねられている。
スタートして間もないにもかかわらず、質問板には意見やアドバイスなど熱心な反応が長文で多数書き込まれる。活発な交流が始まっているが、SNSでありがちな「荒し」や「トラブル」は全くないという。実名利用を基本としているが、質問板などは匿名投稿も可能にしている。それでも、モラルが守られているのは、参加者が全員「先生」だからかもしれない。
■「SENSEI NOTE」から生まれるもの
教育現場では得られないような、素晴らしい学びのコミュニティが出来そうですね」という質問に、浅谷は「やっぱり生の方がいいですよ」とあっさり否定した。
「特に勉強会などは、互いに顔を合わせてやった方が効果的ですね。教え方のコツとかいっても、表情や身振り手振りが重要ですし、資料だってすぐに提示できます。ただ、それがすぐに出来ないなら、そういう機会が容易に作れないなら、このサイトがリアルの置き換えとして役に立てるとは思います」と、浅谷は控えめだ。
しかし、年内1万人を目標と掲げている参加者数は、スタート数週間で数千人まで達していそうな勢いである。
全国の先生がつながって多くの交流が生まれれば、そのパワーが「リアルの置き換え」に留まるとは思えない。想像をこえるコミュニケーションが、大きなブレークスルーを生み出すことだろう。
浅谷は事業化について、現時点で公表できる状況では無いと言うが、既に明確な未来が見えていることだろう。
ベンチャービジネスでは、創業者が事業を売却して利益を確保するという手法が多く使われるが、浅谷は「この事業は絶対手放さない」と力を込める。使命感と覚悟をもって始めたからだ。
「SENSEI NOTE」は今後、「先生一人ひとりが生き生き働けるために」という浅谷と仲間たちの目標に向かって、更なる変革と進化を続けていくことだろう。
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