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2016年10月31日

子どもたちが主役「古河市教育ICTフォーラム」で師弟がプレゼン競演

今から50年ほど前、私が小学校5~6年生の時の担任は平林先生という男性教諭だった。私は平林先生から、私の人生において欠かすことの出来ない2つのスキルを教えてもらった。1つは16mm映写機の使い方。もう1つは、発表の楽しみである。テーマを考えて、図書館で調べて、模造紙にまとめて、みんなの前で発表する。そう、今で言う“プレゼンテーション”だ。

10月22日、茨城県古河市が開催した「第3回古河市ICTフォーラム」では、沢山の先生、子どもたちがプレゼンテーションを行った。もしもこれが、「師弟対決プレゼン合戦」だったら、間違いなく子どもたちの圧勝を宣言するだろう。

1年小泉敢三朗さん 「どうぶつえんにいってきました」

1年 小泉敢三朗さん
「どうぶつえんにいってきました」

子どもたちの素晴らしいプレゼンテーション、その1。
“すべてノー原稿であること”。
つまり、発表内容を全て記憶している。スライドのテキストなんていらない。
だから・・・
子どもたちの素晴らしいプレゼンテーション、その2。
“スクリーンを見ないでプレゼンテーションしている”。
下手くそなプレゼンテーションで見られる、ありがちなシーン。「スライドが表示されたスクリーンに向いたまま、そこに書かれたテキストを頼りに話し続ける」、といったシーンがまったくない。子どもたちは手元のiPadを操作しながら前を向いてプレゼンしている。
その上・・・

6年 勝 葉月さん 私が学んだこと

6年 勝 葉月さん 「私が学んだこと」

子どもたちの素晴らしいプレゼンテーション、その3。
“アクションを使った表現”。
高学年の児童は、小さかったり、形式的だったりはするものの手や体の動きを加えた表現に挑戦している。もちろん、自然に出ているものではなく「プレゼンにボディアクションを加えよう」とう課題に沿った挑戦。学びの一環なのだ。
そして何より・・・
子どもたちの素晴らしいプレゼンテーション、その4。
“表現力が豊で内容が素晴らしい”。
プレゼンテーション作成ソフトといえば「PowerPoint(パワーポイント)」が定番だが、ICT活用教育の現場では今、「ロイロノート・スクール」が定番になっている。写真や画像、テキストから手描きの絵や文字も作成でき、それらを自由に構成して発表順に並び替えたり入れ替えたり、音楽を付けたりして多彩な表現でプレゼンすることを可能にしている。

3年 染谷瑞希さん 中村俐琴さん 山崎聖菜さん 「プログラミング的思考について」

3年 染谷瑞希さん 中村俐琴さん 山崎聖菜さん 「プログラミング的思考について」

低学年ほどシンプルで創造性が豊か、高学年になると型どおりの作りに見えるものもあり、これは指導教員の影響か、PowerPointを作成ツールに使っていたことも原因なのかもしれない。

もちろんテーマの違いもあるだろう。低学年では「遠足」や「夏休み」、「学校行事」など自分の身近な体験の感想を発表していたものが、徐々に「学校の歴史」「授業の内容」など発表テーマを決めたプレゼンに移行。高学年では、「避難生活」や「持続可能な社会」、「住みやすい街」といった社会性のあるテーマに取り組んだり、「良いスピーチとは」というプレゼン技能の解説まであって高度な内容へと変化していた。

5年 鈴木陽奈乃さん 橋本愛菜さん 「外国語活動に関する学習成果についての発表」

5年 鈴木陽奈乃さん 橋本愛菜さん 「外国語活動に関する学習成果についての発表」

驚いたのは、「外国語活動における学習成果」と題した発表。プレゼン中にネットでフィリピンと生中継をして会話するというもの。20年前の通信会社のイベントなら、何週間も準備し、何百万円の予算をかけて行っていた“海外中継イベント”が、なんとほぼ無料で出来るのだ。しかも、本番で繋がるかどうかのリスクも極めて少ない。

デモンストレーションを行った2人の児童は、なんの躊躇いもなく21世紀のテクノロジーを駆使し、すべてのプレゼンテーションを英語で行った。

もうひとつ・・・
子どもたちの素晴らしいプレゼンテーション、その5。
“素晴らしいプレゼンテーション技術は学校で学んだということ”
様々な分野で“天才”、“秀才”と呼ばれる子どもが登場する。その多くは、親から受け継いだ才能や、親の指導によって生み出されるが、古河の子どもたちの素晴らしいプレゼンテーションは、学校における学びによって生み出されたものである。

上大野小学校で「プレゼンテーション型授業」に取り組む 薄井直之教諭

上大野小学校で「プレゼンテーション型授業」に取り組む 薄井直之教諭

「プレゼンテーション力の向上」をICT活用のテーマとして取り組んでいる、上大野小学校のプレゼンテーションの基本は「原稿を見ないで話す」、「相手を意識する」、「自分の言葉で伝える」であり、プレゼンテーションの目的は「相手に伝わることが大事」だという。

こうした指導を受け、学び、実践している子どもたち。今回のステージに立ったのは学年1人、クラスで1人だったかもしれないが、同レベルや続くレベル、始めてできたレベルまで多くの子どもたちが、プレゼンテーションを学び、体験し、成長していく。それが学校における学びの力なのだろう。普通の人が出来るようになっていくのが、“学び”である。

さて、子どもたちのプレゼンテーションの素晴らしさを伝えるだけでレポートが終わってしまいそうだが、先生たちの「ICT活用」プレゼンテーションだって素晴らしい内容のものばかりであることは間違いない。

古河市らしい取組だと、iPadの野外活動での利用が挙げられる。古河市では、市内全小中学校へのiPad導入に当たり、全教室Wi-Fi化ではなくセルラー方式(携帯電話などの公衆無線通信網を利用した方式)端末の導入を選択した。費用が格安だからだが、それが、教室外、学校外でのiPad利用を可能にしている。

エバンジェリスト報告では、修学旅行でのグループ活動でバラバラに行動しているとき、iOS デバイス同士でビデオ通話や音声通話ができる「FaceTime」を利用して、行動報告や友だち捜しを行った事例が報告された。小学校では、野外観察や遠足、社会科見学などの校外活動が多く、その時の連絡、検索、記録などで、野外でも通信可能なタブレットの活用範囲は広いという。

「師弟対決プレゼン合戦」で、敗者扱いしてしまった先生方だが、落胆しないで欲しい。なぜなら、この素晴らしい子どもたちのプレゼンテーション能力を育んだのは先生たちなのだ。

私が、40年間の“情報伝達業界”での活動を振り返って、平林先生から学んだことが原点だったと感謝するように、先生の教え子たちもきっと“ICT活用能力”や“プレゼンテーション能力”について、先生方から学んだことを感謝する日がきっと来るはずだ。

第3回古河市ICTフォーラム

第3回古河市ICTフォーラム

このレポートは、「第3回古河市ICTフォーラム」のほんの一部に過ぎない。モデル校の取り組みもエバンジェリストの発表も、子どもたちのプレゼンテーションも本当に素晴らしい。古河市のこの取り組みは、市長をはじめ、議会、教育委員会、学校長や教員たちが子どもたちの未来のために一致して進めている。

ICT導入で困ったり、悩んだり、躊躇したりしている自治体や教育委員会、学校関係者の方々。是非、実際のフォーラムに参加して、その場の空気を体感して欲しい。次のフォーラムは、2017年2月の予定。決まり次第、ICT教育ニュースで告知する。(取材:山口時雄)

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