2017年4月26日
校長先生に読んでほしい「21世紀の日本を支える“教育の情報化”って何? 」
「大半の校長先生ってICT使っていないし、興味ないし、やる気も無いし、デジタルなんかお呼びじゃないんだろうなぁ」というのが、私の偏った見方である。
この見方の裏付けは、私学の校長宛に送った「ICT教育アンケート調査」の回収率が極めて低かったことくらいしか無いので、エビデンス(科学的根拠)というほどものは何もない。公的機関の調査結果でも、「教師のICT活用指導力」や「ICT研修を受講した教師の割合」、「ICT環境の整備状況」などといった項目はあるが、「校長のICT理解度」や「教育委員会のICT導入やる気度」みたいな調査項目は見たことがない。あれば教えて欲しい。
早めにお詫びしておくが、今この記事を普通に読んでいる校長は、そんな偏見の対象でないのは勿論のことである。お許し願いたい。本当にこの記事を読んで欲しいのは、ネットもメールもSNSも使わない「ICTくらい知ってるよ。電子黒板使うことだろ」、と仰るような校長である。
だからICT教育ニュースの読者である先生方、ICT活用を推進したい学校関係者のみなさん。あなたの近くの校長先生のPCを動かしたり、タブレットPCを手渡したりして、この記事に触れてもらいたい。あなたの学校のICT推進にほんの微力でも役に立てるかもしれない。
さて本題だが、昨年は、4月に開催された産業競争力会議での文部科学大臣の発表をはじめ、日本再興戦略、ニッポン一億総活躍プランなど、日本の未来を方向付ける戦略計画がいくつも発表された。それらのどれもが掲げるのが、「少子高齢化」や「第4次産業革命」といった社会や世界の変化に対応する人材育成の重要性である。そしてキーワードが「教育の情報化」。学校経営に欠かせない「教育の情報化」について考えてみる。
日本の子どもの情報活用能力は劣っている
日本の子どもといえば、算数・数学や理科など基本的な学力が高い上に、スマホもゲームも自在に操り楽しむ、世界最先端の“デジタルネイティブ”の印象が強い。しかし、昨年12月OECDが発表した国際的な学習到達度調査「PISA2015」の調査結果で、日本の15歳の生徒の“読解力”が低いという結果が明らかになった。
それによると、日本の平均得点は、調査に参加した72の国と地域のうち、”科学的リテラシー”が2位(前回調査では4位)、”数学的リテラシー”が5位(同7位)、と向上したものの、”読解力”が8位(同4位)と順位を下げた。日本の”読解力”の平均得点は前回の538点から、今回は516点へと低下した。
「PISA」はこれまで筆記による調査を実施してきたが、2015年度からコンピューター(PC)を使った調査へと移行している。文部科学省では、このことにより、紙ではないPC上の複数の画面から情報を取り出し、考察しながら解答する問題などに戸惑いがあったのではないかと、今回の”読解力”の成績低下について分析している。つまり、”読解力”そのものが低いのではなく、情報活用能力が低いのではないかということである。
PCを使った試験は、「CBT(Computer-Based Testing)」と呼ばれ、2020年以降の大学入試改革にも採用が検討されている。これまでの入試は、紙ベースで試験が行われており、問題のインプットも回答のアウトプットも紙で行われてきた。CBT では、問題の提示も回答もPCで行われる。そのうえ、大学入試改革では、記述式の導入も検討されていて、PCで記述回答することが求められる可能性が高い。
今現在、あなたの学校で、あなたのクラスで、紙に文章を書くよりPCのキーボードでタイピングする方が早い生徒はどれくらいいるだろうか。因みに、私が記者会見に参加すると、紙のノートにメモを取るのはほとんど私だけ。他の記者はノートPCを開き、ブラインドタッチ(キーボードを見ない)で、手書きより速くメモを取る。私は別に不自由はしていないが、あなたの生徒は試験会場で、どうなるのだろうか。書きたいことは決めているのに、時間内に半分しかタイピングできない。その結果が、「能力が無い」と判定されてしまう。それがCBTなのだ。やはり、情報活用能力は必要ではないか。
これまでの「教育の情報化」の課題
文部科学省では2011年に「教育の情報化ビジョン ~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指して~」を発表。「教育の情報化」が目指すものとしては、「情報教育」「教科指導におけるICTの活用」「校務のICT化」の3つの側面からの“教育の質の向上”だとして、教育の情報化に取り組んできた。
こうした動きを受けて、教育の情報化が一気に加速するだろうと予測して、ICT教育ニュースは2013年1月にスタートした。だから、ICT教育ニュースのコンセプトも「情報通信技術(ICT)を活用した21世紀にふさわしい学校教育の実現を目指すニュース・情報Webサイト」としている。しかし、一気に加速はしなかったのが現状である。
昨年7月発表された「『2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会』最終まとめ」の中で、上手くいかなかった原因・課題をいくつか提示している。
「先導的な教育環境を構築し,ICTを活用した教育実践の事例の構築等を行ってきているが,学習指導要領と関連付けてどのような資質・能力の育成に効果的か,教員の指導力の向上にどのように結びついているかなどの点について,十分な検証がなされておらず,これらの実践事例がICTを活用した授業モデルの構築につながっていない」
「先導的な教育環境というモデルだけでは,多くの学校にとってハードルが高いものとなっており,一般的な学校で広く取組が可能な中間的なモデルの提示が求められている」
まったくその通りである。ICT活用を前提としていない現行の学習指導要領の下で、性能基準が十分示されていないICT環境を使って、一部の先導的な学校や教師が取り組む高度な「教育の情報化」では、普及もしないし効果の検証もままならないということだろう。スタート段階では、無理もないことである。
だがしかし、2020年からの新しい学習指導要領は、「教育の情報化」を前提としている。それで十分かどうかは、まだまだ検証が必要だろうが、ひとまず積極的に取り組む方向性は示されている。そして、これからが「教育の情報化」の本番のスタートなのである。多くの学校関係者はこれまで、「教育の情報化」に「乗り遅れ感」があるかもしれない。万が一、「乗り遅れ感」も「先走り感」もない校長や関係者がいるとしたら、今こそ覚醒して欲しい。いま始めなければ、本当に乗り遅れてしまう。あなたの学校の生徒たちは、21世紀を生き抜けない人になってしまう。
これからの「教育の情報化」
先に紹介した「最終まとめ」の「基本的な考え方」では、次のように述べている。
「202年代に向けた教育の情報化は,情報セキュリティの確保を大前提として,授業・学
習面と校務面の両面でICTを積極的に活用し,教育委員会・学校の取組を効果的に支援
することを主な目的とする。
・これからの社会において必要となる,主体的・対話的で深い学びという“アクティブ・
ラーニング”の視点からの授業改善や,個に応じた学習の充実
・情報モラルを含む情報活用能力の育成
・エビデンスに基づいた学校・学級経営の推進
・教員一人一人が力を最大限発揮でき,子供と向き合う時間を確保できる環境の整備」
そして、国をはじめ、地方公共団体(教育委員会)、学校、家庭の役割を明確にし、その責任を果たしていくことが重要だとしている。
では何をどうすれば良いのか。第2回につづく。
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