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2015年4月2日

先生のための初級ICT教育講座 Vol.9 「武南学園の中高一貫新設校で見た“未来の学校”」

先生のための初級ICT教育講座 Vol.9
武南学園の中高一貫新設校で見た“未来の学校”
日立ソリューションズ 武田一城

教育現場へのICT導入は、文部科学省や総務省が数年前から実証実験を行うなど、国策レベルで推進されている。その動きの中から広尾学園 中学校 高等学校や近畿大学附属高等学校・中学校、千葉県立袖ヶ浦高等学校などのユニークな活用方法が知られるようになってきた。

本日ご紹介する武南学園も、それらに負けないくらいの先進事例だ。筆者が所属する日立ソリューションズが電子黒板からネットワークまでICT導入に関わるすべてを支援した。一番の特長は、新設校のコンセプトを実現するために、教育ICTのインフラ導入を新校舎建設と一緒に整備したことである。まさに“未来の学校”の実現なのだ。

■武南学園(中高一貫の新設校)について

武南学園

武南学園は、サッカー好きな方はよくご存知の、高校サッカー 全国大会の常連校、武南高校と同じ学校法人が運営している。中学校~高校の6年間一貫教育(2013年4月開校のため、2015年度までは中学校のみ)の新設校である。

従来からある武南高校とは、通りを一本隔てただけだが、その新旧2つの校舎は非常に対照的だ。開校から50年以上の歴史を持つ武南高校は煉瓦造りの重厚な趣で、歴史を感じさせる建物。それに対して2013年春に開校したばかりの新校舎は、コンクリートの近代的な外観で、ICTを利用した最先端の教育に相応しい佇まいとなっているのだ。

■目標は21世紀のグローバルリーダーの育成

新しい武南学園は、21世紀を生きるデジタルネイティブ世代の生徒たちに世界と協調・協働できる力を習得させることをめざしている。そして、この力を中高の6年間で習得するためには、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力などと共に、“ICTの活用能力”が必須と考え、これらを“21世紀型スキル”と呼んでいる。そのため、教育活動全般にICTを積極的に取り入れる環境の構築が必須だった。

■高い理想を実現するために必要だった先進の新校舎とICT環境
新校舎を見て、筆者が一番驚いたのが、各階の中心に設置されたラーニングコモンズと呼ばれるスペースだ。各階には4つの教室があり、扉もなく完全に開かれたつくりとなっており、その中心にあるラーニングコモンズは教室よりはるかに大きくつくられている。学年問わず生徒同士が学びあう教育環境を提供しているのだ。

そして、すべての教室だけではなくラーニングコモンズにも電子黒板が設置されている。面白いことに、この学校にはコンピュータ室や語学教育用のLL教室はなく、代わりに全館無線LAN環境が敷かれている。つまり、武南学園は学校全体がコンピュータ室であり、LL教室なのだ。タブレット端末を持った生徒が「いつでも」「どこでも」「だれでも」ICTに触れられることで、前述の“21世紀型スキル”を習得できる。

つまり、武南学園の高い理想を実現するために、このような先進のコンセプトを実現した新校舎とICT環境の両輪が不可欠だったのだ。

■武南学園のICT導入方針と特長
武南学園は、先進のコンセプトと綺麗な新校舎に目を奪われがちだが、ICT環境については、初めての本格導入とは思えないほど、地に足がついた構成になっている。

まず、新規導入でシステム運用ノウハウがなかったため、校務・教務を問わず、システム導入の発注先を1社に集約した。これは、ベンダー同士に競合させた方が導入コストを抑えられる可能性を理解しながらも、あえて1社に絞ったとのことだ。一般企業のように何世代ものシステム運用経験があるわけではなく、専任のICT担当者もいないことを背景に、システムの運用や管理がしやすく、結果的にコスト低減にもなるという考えからだ。これは、導入時のコストだけでなく、その後の数年間の運用と管理のコストをトータルで見た考え方ができている証拠だ。

また、導入するのが学校であることを考えると、リスクマネジメント的にもこの導入方針は優れている。学校教育は長期で実施するものなので、ICTの導入が失敗したからといって、その学期や年度中に変更することは難しい。万が一にもICT導入が失敗した場合、生徒達の後々の人生にも影響を与えてしまうかもしれない。

そのため、生徒の大事な学習環境に支障をきたさないことをICT導入の第一義とすべきだ。ついては、できるだけ学ぶ機会を失わない、何らかのアクシデントで授業やその他の学習の停滞が発生しないことが、学校へのICT導入の大前提なのである。導入ノウハウがない時点でさまざまなベンダーをコントロールしながら問題なく導入することは、導入範囲のすり合わせなどの難易度が高く非常にリスクがある。ベンダーを1社に絞ることにより、不確定要素を減らすことができる。これらのリスクをきちんと認識して、低減させることができているこの導入方法は、筆者としても正解だと考える。

もちろん、ベンダーを1社に集約することが唯一の正解とは限らない。むしろ、ベンダー選定を失敗した場合のリスクもあるのだが、まず、ICT導入により学習の停滞を発生させないことを、常に考慮する姿勢やシステム設計が重要なのである。

■先生のICTリテラシー格差
私が見学させていただいた英語や国語の先生などは、すでにICTを活用した授業に非常に手馴れているように見えた。しかし、この武南学園であっても、全国の学校や教育委員会などで課題となっている、先生のICTリテラシーの格差とは無縁ではなかったようだ。ICTリテラシーは、それぞれの先生が個人的にPCやスマートフォンなどを活用しているかどうかに拠るため、この課題はどこの学校でも起こりうる問題なのだ。

それらの格差を少しでも是正するため、パソコンや電子黒板をそれぞれ単独で導入する予定から、各ICT機器の連携性を重視して導入する方向に変更したそうだ。そして、導入する機器自体も使いやすさやシンプルさなどを重視することで、どの先生でも使えるICT環境をめざした。

■学校ICTの基盤となる3種の機器
学校に本格的にICTを導入する際に、必要と思われる機器がいくつかある。まず、黒板やスクリーンに画像や映像を投影するための装置。PCやタブレットなどの操作端末。そしてそれらをつなぐ無線LANなどのネットワークだ。

1.投影装置としての電子黒板『StarBoard』
まず、武南学園では、投影装置に電子黒板『StarBoard』を採用した。理由は、スタンドアローンで移動できるタイプや黒板の上に設置し横にスライドできるタイプなどの設置場所に応じた選択肢があることが、「いつでも」「どこでも」「だれでも」という武南学園の教育コンセプトにも合致したとのことだ。

2.先生は電子黒板、生徒はiPad(+生徒用端末連携ソフト)による操作
操作端末は、先生と生徒で異なる。先生の端末は、WindowsがインストールされたPCだ。PCは電子黒板に接続されており、実際の操作は電子黒板で行う。手元の端末ではなく、電子黒板を操作することで、これまでの授業と同じイメージのまま、先生は教壇に立つことができる。これまで何年~何十年も続けてきた授業形態から運用やイメージを大きく変えないことは、先生方が使いやすいICT環境の実現のために非常に重要なのだ。

生徒側は、1人1台iPadを持ち、そこには生徒用端末連携ソフト『StarBoard Student Tablet Software(STS)』がインストールされている。電子黒板とタブレットの連携と扱いやすさを実現するためにセットで導入された。これにより、授業中にiPad上で記入した答えがそのまま電子黒板に投影され、その答えについて生徒と先生がディスカッションをしたりすることも容易になる。このような機能は、ICTとしては非常にシンプルな機能ながら、授業を円滑に進め、学習の遅れる生徒が出ないようになるなどの効果が期待できる。

3.無線LANの全館導入
無線LANネットワークについては、各学年に2クラスという小規模なこともあって、コストを重視したアライドテレシス社製の無線LANシステムを導入し、全教室やラーニングコモンズ、職員室などの校舎全体の無線ネットワークを構築した。この全館ネットワーク化により、武南学園の提唱している「いつでも」「どこでも」「だれでも」ICTに触れて学習できる環境が実現したのである。

■未来の学校ICT環境を実現した武南学園
武南学園の事例に触れ、読者の方もこのような先進的な設備で現代の子供達が学んでいることに驚いただろう。もちろん筆者も以下に記載されている事例と動画の撮影のためにお伺いした時は、驚きとともにまさに未来の学校を見ているように感じた。この事例は“21世紀型スキル”の人材育成というこの学校独自のコンセプトと、新校舎建設の時期、そして何より学校へICTを導入する機運が高まっている現状が上手に組み合わさって実現したと思われる。

今後、このような事例が全国に増えていくことで、近隣の学校や教育委員会の良いお手本となり、我が国の学校ICT化が正しい形で進んでいくことを願いたい。

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学校ICTソリューション 紹介ムービー
日立ソリューションズ学校ICTソリューション

武田一城(たけだ かずしろ)
株式会社日立ソリューションズ

情報セキュリティやシステムプラットフォーム製品の新事業立上げやマーケティング戦略の立案や推進を担当。現在は学校ICTソリューションの市場調査等にとくに注力している。また、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の委員会やJNSA(NPO法人 日本ネットワークセキュリティ協会)のWGへも精力的に参画している。さらに、NPO法人日本PostgreSQLユーザ会では、広報・企画担当理事としてオープンソースの代表的なデータベースであるPostgreSQLの普及啓発活動を行っている。

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