2018年9月18日
脱“ブラック”は可能か 文科省「統合型校務支援システム導入の手引き」の中身
教師が「ブラック職業」と言われて久しい。何がブラックなのかというと、第1の理由は「長時間労働」、第2は「無給残業」だという。どちらも時間外勤務が元凶だ。教師という職業を体験したことのない私でも、「先生の仕事って大変だろうなあ」という想像はつく。教室の授業以外にも授業計画の作成や資料作り、テスト作りに採点、成績管理、家庭環境や健康状態への配慮、クラブ活動から保護者への対応、教育委員会や自治体からの調査や報告書などなど。
文部科学省では2018年8月30日、教師の長時間労働を解消するための対策手段として「統合型校務支援システムの導入のための手引き」を公表した。統合型校務支援システムがなぜ「ブラック解消」に役立つのか、どうすれば導入が進むのか手引きの中身を覗いてみた。
ブラックの実態
公開された「統合型校務支援システムの導入のための手引き」の関連資料中に「業務一覧」というのがあったので、プリントして眺めてみた。驚いた。6ページにわたっって、びっしり業務が書き込まれている。大分類は「児童生徒の指導にかかわる業務」、「学校の運営にかかわる業務」、「外部対応」の3つ。その下に中分類が38、小分類が104ある。「これは先生の仕事だよね」という当たり前のものから「ええ~そんなことまで」というものまである。例えば「教員は、地域行事等に参加する」「教員は、地域住民等からの要望・苦情を受け付ける(対面・電話・メール・書面)」「教員は、学校ホームページの作成を行う」忙しいわけである。
「統合型校務支援システムの導入のための手引き」の「はじめに」では、2016年度の教員勤務実態調査で教員の1週間当たりの学内総勤務時間(持ち帰りは含まない)は、小学校で57時間25分(2006年度調査比で4時間9分増)、中学校で63 時間18分(2006年度比で5時間12分増)となっており、教員の業務負担の軽減は喫緊の課題だとしている。
1週間40時間労働を基準に算定すると、小学校でも1カ月で約70時間、中学では90時間を超えて過労死基準(80時間)を突破。もちろん、持ち帰りや居残りを正確に算出すれば小学校でも80時間を超えることになるだろう。実態として確かに“ブラック化”は進行しているようなのだ。
手引きでは、「学校における働き方改革により、教員が心身の健康を損なうことのないよう業務の質的転換を図り、限られた時間の中で、児童生徒に接する時間を十分に確保し児童生徒にとって真に必要な総合的な指導を持続的に行うことのできる状況を作り出すことが求めらる」として、統合型校務支援システムの導入促進を薦めている。
「統合型校務支援システム」の導入が進まない理由
統合型校務支援システムとは、「教務系(成績処理、出欠管理、時数管理等)・保健系(健康診断票、保健室来室管理等)、学籍系(指導要録等)、学校事務系など統合した機能を有しているシステム」を指し、成績処理等だけなく、グループウェアの活用による情報共有も含め、広く「校務」と呼ばれる業務全般を実施するために必要となる機能を実装したシステムのこと。
文部科学省の調査によると、統合型校務支援システムの整備率は、2017年3月1日時点で学校全体の48.7% に留まっており、依然として半数以上の学校で、統合型校務支援システムの導入が進んでいないのが現状だ。
統合型校務支援システムを導入していない理由としては、「導入したいが 予算を確保できない」が46.2%を占めている。
また、市区町村では、「導入の必要性を感じない」が16.6%、「導入したいが調達できるだけの事務体制がない」が15.3%を占めており、統合型校務支援システムに対する理解の不足や統合型校務支援システムの導入を推進する体制(=人材)の不足が課題だとしている。
手引きでは、こうした課題を解決する方法として、「予算(導入費用)の確保」、「統合型校務支援システムの必要性の理解」、「事務体制の整備」と題して解決策を提示しているので、教育委員会や自治体の担当者、校長などには参考にほしい。
「統合型校務支援システム」の導入効果は
統合型校務支援システムの導入効果について手引きでは、定量的効果(業務時間の削減等、数値化できる効果)と定性的効果(教育の質の向上等、数値化できない効果)があるとしている。
定量的効果では、統合型校務支援システムを導入している一部の自治体で、導入後の業務削減時間を測定し、その結果を公表している。例えば、教員一人あたりにして、札幌市では年103時間、つくば市では年89.2時間、大阪市では年224.1時間などの定量的削減効果を示している。
特に大きな成果をあげている大阪市が2011年に実施した学校実態調査では、校務に関して手書き処理であるにもかかわらず、膨大な調査事務や、それに伴う情報管理が要求されることが明らかになったということだ。成績処理や出欠管理など手書きであるが故に転記ミスのチェック・書き直し・検算などの余計な負荷がかかる。限られた日程から時間内に処理しきれずに成績処理等の業務を自宅へ持ち帰らざるを得ない場合があり、結果的に情報漏えい等のリスク管理も生じる。
また、部活動に加えて、いじめや不登校問題、保護者や地域との対応など対処すべき課題が増えており、これらに対応するため会議や研修会なども増加傾向で、いわゆる教員の本来業務に時間を割けない実態があったという。
こうした現状において教育現場の教頭・教員の校務負担軽減の取組みとして校務のICT化を推進する必要があったため、大阪市は2013年から456校1万6600 人の教職員を対象に校務支援ICT活用事業を導入した。
統合型校務支援システムの導入による定性的効果としては、「児童生徒に関連する効果」、「教職員に関連する効果」、「外部(保護者等)に関連する効果」の3 点を挙げている。
児童生徒に関連する効果は、大きく「学習指導の質の向上」と「生活指導の質の向上」の2つ。児童生徒の情報を統合型校務支援システムに入力し、電子化することにより、これらの情報を必要に応じて、関係する教職員の誰もがいつでも参照・共有でき、学校全体でよりきめ細やかな学習指導や生活指導を行える。
教職員に関連する効果は、大きく「コミュニケーションの向上」、「業務の質の向上(品質・スピード・平準化)」、「教員の異動への対応」、「セキュリティの向上」に分類。統合型校務支援システムの導入により、教職員の日常的な事務業務全般が効率化され、業務の負担軽減や作業品質の向上につながる。また、統合型校務支援システムの導入を契機に、各自治体で統一化したデータベースにてデータ管理をすることで、USB等による利用データの外部持ち出しを禁止したり、強固なセキュリティ対策が施されたサーバでデータを管理したりできるようになるため、情報漏えいリスクが低減する。
外部に関連する効果は、大きく「通知表等への記載内容の充実」と「外部対応の充実」に分類でき、統合型校務支援システムの導入効果は、児童生徒及び教職員だけではなく、保護者や近隣住民等の外部への情報発信の充実にもつながるとしている。
導入効果をあげるために何が必要か
手引きでは、実際に統合型校務支援システムを導入して効果があったという例も紹介しているが、どうすれば効果を上げることが出来るのか。そのポイントは、手引きの第2章「統合型校務支援システムの基本モデルの定義」に示されている。それは「業務改善」の視点を持つことだという。
せっかくシステムを導入しても、学校でこれまで行っていたやり方・方法を変えることや、自治体毎・学校毎のローカルルールを変えることへの抵抗から、これまでの業務のやり方を続けてしまい、「導入したのに使われない」、「かえって業務負担が増加した」、「これまでのやり方に合わせるためにパッケージシステムのカスタマイズが増加し、導入コストが高騰した」といった結果を招いてしまうことがあるという。
「業務改善」を成功させるためには、各学校で現在行っている業務と統合型校務支援システムの導入後の業務を比較した上で、現在の業務において見直すべきポイントを明らかにする必要がある。校務の情報化を推進する際の課題として、「校務の業務内容・範囲や役割分担が定義されておらず、学校毎に異なる」ことや、「非定型の業務が多く、業務定義や体系化が行われていない」ことが挙げられる。
手引きと一緒に掲載されている、「統合型校務支援システムの導入のための手引き(別紙1)業務一覧」などを参考に、自分の学校の教職員業務の整理を行い、校務支援システムで行うべき業務、本当に教師が行うべき業務などの検討・見直しを行う必要がある。それがきっと、脱「ブラック」への第1歩となることだろう。
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