2020年4月27日
体育ICT研究会の「同時双方向型の遠隔体育の授業実践」
同時双方向型の遠隔体育の授業実践
東京学芸大学 准教授 鈴木直樹
【寄稿】
1.はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛により、多くの学校が臨時休校となり、遠隔授業に注目が集まっています。また、体力不足への懸念から家庭での体育に注目も集まっています。そして、多くのスポーツ選手や学校教員が動画情報をクラウドサーバーにあげてシェアをしたり、YouTubeで身体活動を促す動画を配信したりしています。このような取り組みは、家庭での身体活動の促進につながっているとは思う一方で、近年、海外などで拡がりをみせる代替体育の考え方を促進させてしまうのではないかと懸念しています。
すなわち、学校外での体育的活動をすれば体育は免除されるという考えと共通した認識を強調させてしまうように思います。体育は身体活動を積極的にする時間、身体を積極的に動かすことで、体育の学習保証ができるという考え方と結びついていると思うのです。確かに、同時双方型の遠隔体育は、課題提示型やオンデマンド型の遠隔体育に比べ、解決しなければならない問題も多く、実施には大変な苦労を伴うと思います。しかし、結果的に「同時双方向型でなくても課題提示型・オンデマンド型でよい」という認識は体育不要論へとつながっていくと思うのです。こういった大変な時期ではありますが、やはり体育の指導には教師や学び合う仲間が必要不可欠だと私は考えます。
私たちは、これまで遠隔体育の取り組みについて、学校間でのやり取りに焦点を当てて取り組んで来ました。しかし、今回は、学校と家庭を結んだ同時双方向型の遠隔体育実践を紹介し、その成果と課題について整理していきます。
2.意外に「フツー」
遠隔体育を実践してみると、多くの人が「意外にフツーだった」と言います。体つくり運動や表現運動などの個人種目などの場合、対面型で行なっている授業と変わらずにできるのも特徴だと思います。しかも、普段の体育授業では、1人の先生と複数の子供の集団という関係性で授業内の人間関係が作られますが、遠隔体育では、参加者にとっては、自分と多くの個人という関係で人間関係が構成されることになります。すでに授業システムにおける個のあり方が異なっているといえます。
実際にやってみると、課題を提示し、活動をするというところは、場は異なるもののあまり問題なく行えます。また、教師と子供の間のやり取りも、若干の遅延はあるもののさほど気にならずに行えるものです。遠隔体育に取り組む前には、そんなことできるのかと思いますが、やってみると意外に「フツー」という先生方の感想を聞くことができます。ただし、学校と家庭をつなぐ場合に、最も異なるのは環境です。運動するには小さいスペースしかなく、用具が不十分であるという制約条件の中で遠隔体育は実施されることが多いと思います。
3.体つくりの運動の実践
2020年4月に小学校4年生から6年生を対象にして遠隔体育の授業実践を行いました。
実践の1つ目は体つくりの運動です。今回の授業実践では、体を巧みに操作して「バランス」をとる運動を内容としました。授業の冒頭で、教師は動きを提示して活動に取り組ませました。子供達の全身が写るように端末を適切な場所におけば、一人一人の動きによりよく焦点化することができ、子供達の課題を明確に把握することができます。個人として画面に映し出されることから、子供達自身も大勢の中の一人ではなく、教師と対峙する個人として自分を認識し、積極的に取り組んでいました(写真1)。
その後、教師から提示された活動をベースに、それぞれの場所で、バランスをとる運動を工夫して遊びました。教師は全体を観察しながら、声をかけていきます。声をかけられた子供はもちろんですが、他の子もその評価と共に、その評価された対象をまなざすことができ、動きの修正に生かすことができていました(写真2)。
また、通常グループで作成する学習カードは、記録係が中心になって作成することが多いですが、オンライン上で、協働作業をすることも可能になり、みんなで同時に一枚の学習カードを作成し、集団の成果とすることが可能です(写真3)。
さらに、参加者をいくつかのグループに分けて活動させて、グループ学習させ、その活動を録画することもできます。録画した内容は、子供や教師が振り返りに活用し、学習や指導に生かすことが可能です。
以上のように、テクノロジーの特性を生かすと、体つくりの学習をよりよくすることも可能になります。
4.表現運動の実践
次に、表現運動です。表現運動では、音楽を使用することも多いと思います。しかしながら、オンラインで結んで同時双方向で授業実践を行う場合、どんなに安定したシステムでも多少の遅延が生じてしまいます。その為、それぞれ遠隔で同じタイミングで動きを合わせることには難しさがあったりします。そんな難しさがある一方で、オンラインミーティングシステムの特性を使うとよりよい活用ができたりします。
授業の冒頭では、リズムダンスと創作ダンスを行いました。写真5・6のように先生が音楽に合わせて動きを示しながら模倣して練習しました。その後、音楽のイメージに合わせて動きを自分たちで創作し、踊りを考えました。子供達が踊っている様子を教師は声をかけていきました。ビューを変えることで、子供達の実態に応じてみんなを見ながら踊ることも自分だけを見て踊ることもできます。先生は、フィードバックを個別にチャットで送っておくこともできるし、全体に声をかけることも可能です。一人ひとりをよく見るということができるのもこのシステムの特徴です。
また、中心となる展開では、音楽からイメージする動きを個々人が工夫して表現をしていきました。そこで、創作表現を自己評価しながら動きを修正させました。その際、自分のビデオを固定にしてミラーリングの効果を使うことで、自分を鏡で見るように確認しながら、動くことを可能にしました。また、音楽に合わせて動きをそれぞれがイメージして動きを考えた後、小グループに分けて、グループ学習を実施しました。
4人ひと組のグループになり、そこで順番に動きのイメージを出し合います。そして、実際に動いて見ながら話し合います。オンライン会議では常に対面しているので見られている感覚が強い一方で、なかなか話すタイミングが掴みにくいので、グループの話し合いでは順番に意見を出し合い、やって見て話し合いました。そうすると、だんだん口数も増えてきました。
このようなグループ学習(写真7)では、教師は一つのグループに入ることしかできないので、他のグループの様子がわかりません。そこで、他のグループの子供に撮影係を決めて、その子にレコーディングを許可して、撮影をさせ、授業後に提出させれば、話し合い場面の評価とそれを次の指導に生かすことが可能になります。
グループ学習後、発表する際、発表者以外はビデオを非表示とし、それらがディスプレイに表示されないように設定すれば、発表者だけをスクリーン上で観察が可能になります。また、
さらに、まとめの話し合い場面では、ディスプレイの目の前に座り、しっかりと顔を合わせて話し合い活動を行うことができました(写真8)。
以上のように、テクノロジーの特性を生かして遠隔体育に取り組むことで、対面型の授業と同様、もしくはそれ以上の効果を引き出すことが可能です。
6.まとめ
これらの工夫は、学習評価をよりよく実践することと深く結びついています。このように、同時双方向型の遠隔体育の実践を通し、学習評価の重要性を再確認しました。より良い学習、より良い指導には適切な評価が必要であり、テクノロジーの利活用は、より良い評価システムを構想できる可能性を見出すことができました。学校教育における体育の価値は、身体活動をさせることではなく、身体活動を通して心身ともに健康で豊かな生活を送るために必要不可欠な資質能力を育むことが目的であると思います。
新型コロナウイルスの感染拡大によって学校の休校が続き、体力低下が懸念される中で家庭での身体活動の促進が急務となっていますが、この学びは、活動量の保障だけでなく、心と体を一体とした質の高い体育的学びの中でこそ見出されるべきだと思います。やはり、人と人との豊かなコミュニケーションを基盤とした同時双方向型の遠隔体育こそテクノロジーの特性を生かした未来の体育の一つの形を示してくれるものではないでしょうか?
今回、遠隔体育への取り組みを通して改めて確認できたのは、「教育は人なり」という教育の原点でした。
※本実践で使用したオンラインミーティングシステムは、Zoomです。
※本論稿や遠隔体育実践に関するご質問は鈴木直樹(nsuzuki@u-gakugei.ac.jp)までお願いします。
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