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2016年4月4日

「Amazingな学びを創ろう」 ~愛和小学校・松田校長2年半の挑戦~

第1フェーズ「1人1台iPad至上主義」

2013年10月。協力企業を探して100台のiPadを借り受けることに成功した松田。ID・パスワードの他、通信の設定、アプリのダウンロードすべて自分でやり、児童一人ひとりに1台ずつ「大切に使えよ」「壊すなよ」「勉強しろよ」などといいながら手渡した。貸与期間は翌年3月までの半年間。この間に、なんとしてもiPad活用の結果を示さなければならない。なぜなら4月以降の1人1台が続けられないから。何が何でも「1人1台」は死守しなければならない。そう信じていた。

取り組むテーマは「1人1台で学校を変えることができるか」だ。もとよりiPadを「教えるツールではなく学ぶためのツール」だと思っているから、利用制限もマニュアルもなしでとにかく好きなように子どもたちに使わせる。iPadリテラシーは瞬く間に向上した。

アプリゼミの実証授業風景

アプリゼミの実証研究授業風景

そうした背景があるから、「ロイロノート・スクール」や「アプリゼミ」の実証研究は、スムーズ且つ効率的に行うことができたのだ。1人1台iPadで、学力向上が図れたかどうかは正確に立証できないが、小学1年生が自分の判断で個々のレベルにあった「アプリゼミ」の問題に朝学習で取り組むという習慣が身についたり、観察~まとめ作成~発表といういわゆるプレゼンテーションの流れを一貫して行えるようになったり、明らかにこれまでにないスキルを身につけていることは間違いがない。

4月の「1人1台タブレット環境とロイロノート活用による公開授業」を経て、6月に開催した公開授業「「iPadの日常化による新しい教育Styleの創造―iPad最後の挑戦」」は、多数の教育関係者、企業関係者、保護者などで大盛況だった。子どもたちがiPadを自在に使う授業風景は新鮮だった。だが、教師たちの熱気はまだ感じられない。
1人1台iPadの存亡を賭けた2月の授業公開は中止になってしまったが、3月にはパナソニック教育財団の実践研究助成特別研究指定校に選定され、助成金を得られることもあり次のステップへの挑戦権を得ることが出来た。

スクールタクトの実証研究授業の様子

スクールタクトの実証研究授業の様子

実践研究の研究テーマは、「タブレットPCの日常化が拓く新たな教育Styleの創造 」。この研究テーマに相応しいコンテンツはないだろうか。松田はインターネットのSNSで、面白そうなLMS(授業支援システム)に目を付ける。それが、現在の「スクールタクト」。当時はまだ正式な名前もない、会社もない、開発途上のアプリだった。

松田から無理難題を押しつけられたアプリ開発者の後藤正樹さんだったが、夏休みが終わる頃にはプロトタイプを完成させ、9月に行われたパナソニック教育財団の第1回研究授業に間に合わせてきた。アプリを使い声を出さない話し合い活動には賛否両論あったが、「新たな教育Style」が生まれたことは間違いなかった。

愛和小第1期卒業生はiPad卒業生だった

愛和小第1期卒業生はiPad卒業生だった

10月に行われた第2回の研究協議会では、教師たちから「授業で使うなら研究会でも使うべきなのでは」と提案があり、「スクールタクト」を使った研究協議会が進められた。教師から積極的にICTを活用しようとする姿勢の表れだったかもしれない。

その後、「スクールタクト」や「ロイロノート・スクール」を使った授業のやり方は、「協働学習」、「アクティブ・ラーニング」を推進する流れをつくっていくことになる。

そして、2915年3月、卒業式でのiPad卒業証書の授与で「1人1台iPad至上主義」は幕を閉じることになる。

第2フェーズ「STEMの萌芽」

「スクールタクト」の開発者、後藤さんと初めて出会った2014年7月のある日、校長室のソファーに座って松田の用事が終わるのを待っていると、「ジャジャジャジャン」みたいな効果音のあと、何か動く音が聞こえてきた。

足下を見ると、ロボットが近づいてくる。レゴのマインドストーム EV3だ。

「これいいですよ。プログラミングしていろいろなことができるんですよ。5~6台買っちゃおうかと思っているんです」と、子どものような笑顔で松田が動かしている。

6月の公開授業時既に、教室に3Dプリンターを持ち込んでデモンストレーションを行ったりしていたが、この頃から、松田のSTEM志向は本格的に始まったのかもしれない。夏休みが終わり新学期が始まる頃には、授業にViscuit(ビスケット)やScratch Jr(スクラッチジュニア)、レゴ マインドストーム EV3を取り入れようとしはじめていた。

EV3を使ったプログラミング授業

EV3を使ったプログラミング授業

そして、11月に開催した授業公開「i和design-ICT/授業公開」では、「スクールタクト」や「ロイロノート・スクール」を使った協働授業はもちろん、はやくもViscuitやScratch Jr、レゴ マインドストーム EV3を使ったプログラミング授業を展開してみせた。

思い立ったらすぐやる校長、付け焼き刃でもなんとか形にしてみせる教員、逃げずにチャレンジする子どもたち。そんな三位一体の取り組みが、愛和小学校の「新しい学び」を前進させる。愛和の子どもたちに感心させられるのは、失敗してもめげないことだ。これだけ次々に新しいことをやっていたら失敗なんか気にしていられなくなのだろうか。

「Chromebook」を使った授業風景

「Chromebook」を使った授業風景

2015年4月、児童数の増大に伴いWindowsタブレットとChromebookを導入。iPadでは利用できなかったプログラミングツールも使えるようになった。

5月には、子ども向けのSTEM教育に特化した学習スクール「STEMON」を運営する中村一彰さんの協力で、総合的な学習の時間でのプログラミング授業を開始する。正規の教科で10数時間のプログラミング授業を行ったのは、公立小学校としてはおそらく日本で初めての試みではないだろうか。

6月、総務省の「先導的教育システム実証事業」で取り組んできた実践例を紹介するイベント「i和design公開プレゼンデーション」を開催した。

クラウドを活用した学びの実証事業の発表だけに、「クラウド+EdTech+マルチデバイス」をテーマとした内容だったが、玄関脇で出迎えたロボット「Pepper」に参加者は驚かされた。「20年後の未来から逆算した教育」を標榜する松田の決意の表れである。

もちろんプログラミングやEV3、グーグールアースの活用などSTEM系の試みを随所に取り入れたイベントに仕上がっていた。「未来を先取りする学び」=「STEMのようなもの」が、松田の中で形作られようとしていた。

□ 第3フェーズ「エバンジェリスト宣言」
エバンジェリストとは、元々キリスト教の伝道者のことだが、業界ではIT環境のトレンドや最新テクノロジーをユーザーに向けて分かりやすく解説し、普及を図るのが主な任務とされている。「エバンジェリスト宣言」とは、松田がICT教育の伝道者になろうとしているということである。

プログラミング体験で歓声が

プログラミング体験で歓声が

2015年8月、夏休み期間を利用した教師による教師のためのICT活用セミナー「i和design 2015 夏~教員セミナー~」を開催した。仕掛けたのは松田だが、企画や運営、講師を務めたのは愛和小学校の教師たち。

校内ICT推進独裁者である松田の下、次々に様々なチャレンジを強いられてきた教師たちだが、2年間で身につけたスキルでiPadを操り、自信に満ちた表情でプレゼンテーションを行う。当初から使い込んでいるロイロノート・スクールや自分たちも開発に参加したスクールタクトはもちろん、取り組んでから半年足らずのプログラミング授業も自分ものにしている。

Minecraft Eduのワークショップ

Minecraft Eduのワークショップ

10月の終わり、プログラミング教育の実際を公立小学校で参観・体験できるイベント「i和design-Programming Festival」を開催した。学校を、教師や企業関係者だけでなく保護者や地域にも解放し、ICT活用授業やプログラミング教育を多くの人々に身近に感じてもらおうというイベントだ。

全校朝会で松田は、「みんなが大人になっている20年後の2035年には、ロボットと一緒に暮らす時代になっているだろう。今日のめあては、『プログラミングを楽しもう』だ」と挨拶して「Pepper」が登場。体育館は子どもたちの歓声につつまれた。

プログラミング中心の公開授業はもちろん、STEMツールを使ったワークショップも盛況。「こんなイベントに、もっと多くの先生たちが参加できたらいいのに」、取材していた筆者の思いつきだが、松田も同様に考えたようだ。愛和小学校で培ってきたICT活用法やSTEM教育のノウハウを一人でも多くの人に伝えたい。役立てて欲しい。

参加者をサポートする松田校長

講習会で参加者をサポートする松田校長

学校を飛び出してみることにした。

12月にはLudix Labに協力して、愛和小学校のSTEM授業をダイジェストで体験できる講習会を実施。参加者から大きな反響があった。

2016年2月には、ICT CONNECT 21の「教育現場発!ニーズをシーズへ」SWGの要請を受け、東京学芸大学の教職課程の大学生にICT教育を知ってもらう勉強会を開催した。現役教師でも教師のたまごでも構わない。とにかく一人でも多くの教師にICT活用授業やSTEMを知って欲しいのだ。

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