1. トップ
  2. ズームイン
  3. 佐賀県に学ぶ。自治体が失敗しない教育現場へのICT導入

2016年7月26日

佐賀県に学ぶ。自治体が失敗しない教育現場へのICT導入

佐賀県に学ぶ、自治体がICT導入で守るべき事

最後に、自治体が教育機関にICTを導入していく上で、最低限守らなければならないことを田中氏に訊いたところ、以下の3つにまとめてくれた。

第1は、外部の意見を聞くこと。ICTの専門家ではなく学校の仕組みや教育現場を分かっている人。例えば、教育情報化コーディネーターの上位級(1級/2級)など。そして、専門家にはお金を掛けること。整備を成功させるために責任ある確かな情報や専門的な知見を期待するなら、メーカーや販売会社の担当者の助言では不足だという。ネットワークインフラ、クラウドの利用、LMSなどの教育系システム、情報端末、教育系コンテンツ、保守メンテナンス、教員研修、情報モラル教育、システム監査、改善検討と対応、事業評価、、、この様に多岐にわたる整備を、少人数の担当者で対応することが困難になっている。事業が大きくなると、多くの施策が企画されるが、過剰な施策については取り下げる(やめる)ことも重要。内部で指摘し難いことに対して、根拠を提示して取り下げを提言することも外部専門家に求められる。結果として、それがコストや現場の負担削減にもつながると語る。

第2は、計画から実施までの時間差を考慮して、“今一番先進的なもの”に拘らず、最先端で無くても普遍的という視点があってもいいという。計画時点で一番先進的なものは陳腐化も早いので、実施段階で最先端のままとはかぎらない。また、自治体として動く場合の計画~試行・検証~導入は数年単位になることもあるので、丁寧に試行・検証・省察・改善を繰り返していくことが重要だ。一時の成果やデータを鵜呑みにするのは危険だという。

3つめは、開かれた環境を構築すること。ICTは、教師と子どもを、学校と家庭をそして社会と繋がるためにあるもの。学校にしか存在しない様な特殊な物では無く、学習がどの場面でも継続するような環境を作ることが大切だ。家にある物が学校でも普通に使えるということ。インターネット接続環境はもちろん、メールやSNSなど外と繋がるツールもあっていい。佐賀県の高校では、生徒にメールアドレスを与えていないという。高校は社会と近い学校だからこそ、社会で活用されているツールを日常的に利用することも大切なのではないかと話す。

そして田中氏は、もう一つ大切なこととして、「教育機関でのICT活用で重要なのが、情報リテラシーの一環としての“情報モラル”教育だ。機器の整備や授業内容にばかり目を向けて、情報モラル教育、特に情報セキュリティやコンプライアンスの指導まで手が回らない傾向が見られるが、決して怠ってはならない」と付け加えた。

小学校で「情報モラル」の指導をする田中氏

小学校で「情報モラル」の指導をする田中氏

今回のインタビューの前後で、SEI-Netから情報が漏洩するという事件が起きた。このことについて田中氏は「17歳の少年が学校のネットワークに不正にアクセスし、サーバに保存されていたであろう個人情報などを大量に盗み出す事件が発生している。ICT利活用を推進してきた地域の一員として残念でならない。たらればになるかもしれないが、このような兆候に気が付いた時点で、環境面のセキュリティ対策は当然のこと、県内の高校生に対して不正アクセス禁止法などの法令に関する理解を促す指導が徹底されていたらと思う。被害者にならないための情報モラル教育だけではなく、加害者にならないための情報コンプライアンス教育が必要。佐賀県に限らず、どの地域でも起こり得る問題と捉えてもらいたい。スマートフォンや携帯型ゲーム機などの利用は低年齢化していることを考えると、小学生やその保護者から対象としてよい。盗難、暴行、それらと同列で不正アクセス禁止法や個人情報保護法やウイルス作成罪などについて常日頃から意識し合うように、大人も子供も共に知る必要がある」と、警鐘を鳴らす。

2020年に向けて始めること

2020年に向け、「1人1台情報端末」「プログラミング教育必修化」「アクティブ・ラーニングの実施」など大きな目標が掲げられ、それに向かったICTの活用が叫ばれている。

自治体や教育委員会、学校では、それらの実現に向けて見えない圧力に押しつぶされそうになっておるかもしれない。何をすべきなのか、何から始めるべきなのか。

佐賀県の「全部まとめてやる」方式がある一方で、茨城県古河市が始めた「小さく始めて大きく育てる」方式というのもある。いまのところどちらの評価も定まっていない。

先進の気風で全国に先駆けて取り組んだ佐賀県だが、このやり方は、よほど優れたプロジェクトマネジメントが継続できる保証がない限り薦められないと田中氏は言う。1人1台の整備というのは、裾野が広くリスクも広がる。課題も露見しやすくなる。課題が小さいうちに改善できなければよいが、対応を見誤ると後に大きなリスクとして現れる。小手先の誤魔化しがきかない規模だ。そして、改善する際には当初の目的やビジョンが常に問われる。そこがブレてはならない。ましてや教育委員会の人事異動に左右さるようでは、この規模の整備は発展しないだろう。子供達の未来を考えると、ICTの利活用は推進しなければならない。しかし、大きな失敗も出来ない。特に、子供達の未来に影を落とす様なことはあってはならない。行政は失敗を認めたがらない傾向(俗に言う、行政の無膠性)が強いが、ならば小さな一歩でもいいから無理なくできるところから歩き出し、絶えず改善を繰り返していくことが大切なのだろう。

小さな失敗を繰り返して、大きな成功=「子どもたちの未来」に辿り着くために。

関連記事

JAPET「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」の締切を31日まで延長

「小さくはじめて大きく育てる、ICT教育古河モデル」の神髄/古河市教委

1人1台の情報端末は必要か?〜佐賀県の事例から〜/田中康平の<教育現場レポート>

自律的な学習者への第一歩に 自己効力感の向上 活用事例多数紹介 すらら 活用事例のご紹介
ユーバー株式会社

アーカイブ

  • ICT要員派遣はおまかせ! ICTまるごとサポート 詳細はこちら
  • 事例紹介作って掲載します。 ICT教育ニュースの楽々 事例作成サービス