2014年6月25日
9万人が学ぶ「終わらない学生生活」/schoo WEB-campus
「きんこ~ん かんこ~ん」。授業開始の鐘がなると、次々に受講者から「着席しました」「着席しました」「着席しました」と声が掛かる。といっても、本当に声を出して挙手しているわけではない。
学生代表という若い女性がこちらに向かって授業の内容を説明し、先生やゲストを紹介する。先生は砕けた口調で、今日の授業のゴール設定などを私に話しかけてくる。といっても、教壇に立っているわけではない。
初参加の私は、少し緊張している。恐る恐る「着席ボタン」をクリックしてみた。いきなり、本名・写真付きで「着席しました」が表示される。他の多くの「着席しました」や「○○先生楽しみです」みたいなコメントと共に、チャットの「全体タイムライン」を流れていく。
そう、この授業はインターネットを使ってオンラインで行われている、生放送授業だ。今日は、ワークショップということで、1500人ほどの学生が席を同じくしている。先生が「今日はサーバーを止める勢いで発言・質問参加してくださ~い」などと煽っているが、ヤフーの川邊健太郎副社長が先生の時は、4000人集まって発言・質問しまくっても大丈夫だったというから、この学校のシステムは凄い。
この学校の名前は、「schoo WEB-campus」という。
学校なのに、「school」じゃなくて「schoo」。そこから、授業を始める。
企業理念は「世の中から『卒業』をなくす」こと
「school」=学校には卒業がつきものだが、「schoo」には卒業が無い。つまり学生生活の最後が無い、ということでschoolから最後の「l(エル)」をとって「schoo(スクー)」という名前にした。最後の「l」が、lastの「l」だったのは偶然か。とにかく、schooは「終わらない学生生活」を楽しむことを目指している。
企業理念が、「世の中から『卒業』をなくす」こと、なのだ。
卒業が無いのだから、単位数も出席日数も必要無い。
あくまで、自分の考えで自分に必要なものを必要なだけ学ぶ。そして、人生に役立てる。それが「schoo」の基本的考え方である。
入学資格や入学試験も無い。学びたいと思っているすべての世代のすべての人が入学できる。
そして何よりschooが良いのは、授業料が無い。すべての生放送は無料で受講できる。月に10本でも100本でも無料。録画された授業を、自分の好きな時間に好きなだけ受講したいという人は、月額525円で「プレミアム学生」になれば、すべての録画授業を自由に視聴することができる。
MOOCとschooの違い
昨年来話題になっているMOOC(ムーク)とschooはどこが違うのだろうか。
MOOCとは、「Massive Open Online Course」の略で「大規模オープンオンライン講義」と訳される。MOOCは2012年から米国を中心に注目されて、急速に発展。いまでは数十万人の登録者が世界中で学習しているという。
代表的なMOOC事業主体として「Coursera」や「edX」などがあり、米国はもとよりヨーロッパ、アジアの大学も参加し、世界的な規模に発展しつつある。日本では昨年10月、日本版MOOC「日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)」が設立され、今年4月から講義の配信を開始している。
MOOCの特徴は、大学の講義(動画やテスト、課題)をインターネットで配信~受講すること。必要な講義数の受講などで「修了証」を受けることもできる。大学に通わずに、通学しているのと同じ授業が受けられるようなものだ。
schooは日本でMOOCが動き出す前の、2012年1月にスタートした。
MOOCとの違いはまず、先生が大学の教授や専門学校の講師では無いこと。つまり、一般的な先生では無いこと。そもそも学ぶ目的が「単位取得」や「修了証」、「卒業」や「資格取得」ではなく、ビジネスや社会生活の「実践で使える」事だから、権威や肩書きは必要ない。
schooの講師は、各業界のプロフェッショナルや企業経営の実践者。現場で学んだ知識や経験を受講者に伝えてくれる。あくまで、「実践で使える」ことに、こだわっている。
schooのもうひとつのこだわりは、「生放送」であること。
MOOCや通常のオンライン学習では、録画された動画素材を使って個別に学習するのが普通だ。しかし、schooは全ての授業を「生放送」で行っている。
「生放送」は、受講者が授業に参加することで一緒に学びながら交流するというコミュニケーションを生み出す。意見や質問を投げかけると、先生が授業中に取り上げてくれたり、仲間が賛同してくれたりする。実際の教室で行われる「協働学習」のような、個別学習にない学びの場が創出される。コミュニケーションを楽しみながら、さらに学びを深めていく。そこから、「楽しい学習体験」が生まれる。
それを森健志郎社長は、「ラーニングエンターテインメント」と呼び、「学ぶことは、楽しいこと。学ぶことは、最高の娯楽である」と語っている。
想像を超える学びの場ができていく
schooの受講者は現在およそ9万人。毎日4~5本、毎月150本程度の授業が生放送される。生放送された授業はそのまま「録画授業」として保存され、いつでも好きなときに授業が受けられるようになる。録画授業は900本以上がストックされているが、今日も増え続けている。
schooで行われる授業のすべては、schooの事務局が企画立案する。スタッフのアイデアはもちろん、受講者の要望、公認団体からの提案などあらゆる要素から厳選する。これまで、受講者が楽しめる、受講者の役に立つと判断された授業を次々に実施してきた。
そして今年6月、授業の目的をより明確にするため、新たに学部システムを導入した。これにより、カリキュラム化された生放送・録画授業で、一つの分野を体系立てて学べるようになった。
これまで積極的に授業を行ってきた「スタートアップ」「WEBデザイナー」の2学部に加え、基本的なビジネス英語を学ぶ「グローバルビジネスパーソン学部」、 自分に合ったメイクや美容に関する知識、女性ならではの生き方やキャリアを学ぶ「キレイ女子学部」を創設することで、今までの「schoo WEB-campus」になかった新たな領域にも進出した。
大学の授業をオンラインで提供するMOOCとは一線を画してきたschooだが、今年、東京大学i.school、法政大学キャリアデザイン学部と次々に提携を発表。大学発の授業を開始した。MOOCも始めるのか。
いや、そうではないようだ。
schooは、森社長の言う「もっと、世の中に、学び続ける人を増やすために」、「すべての学びの集約」を目指していくのだという。具体的な内容は聞かせてもらえなかったが、幼児教育から学校教育、高等教育、社会人教育、生涯教育…などなどあらゆる教育をschooでやってしまおうということらしい。壮大なプランだ。
それはまさに、「想像を越える学びの場」であり、「新しいラーニングエンターテインメント」なのかもしれない。
・・・・・・・・・・・
ところで、私のschoo初体験はどうなったのか。
ワークショップは進み、受講者にアイデアの提出が求められる。多少の躊躇いはあるものの、受講者として越えねばならない壁と覚悟し、いくつか投稿してみる。即、タイムラインに表示される。
「先生、私のアイデア拾ってください!」。ちょっと願う。
先生が取り上げたアイデアについて寸評などすると、「なるほど」「なるほど」と同意の書き込みと共に「○○は××ということですね」などと、スクー教務課から補足説明が入ったりもする。ライブ感あるなあ。
「それでは、ここで皆さんから質問を受け付けます。『チャット』ボタンを『質問』に切り替えて、どんどん質問してください」と、学生代表の司会者がコメントする。
質問ボタンに切り替える?うん?ないなあ。あれ?しばし呆然。あらためて、授業のタイトルを確認してみる。あっ、これって先週の授業じゃないの。
なんと、生放送開始ぎりぎりに授業案内のメールをクリックした私は、「生放送」と間違えて、先週の録画授業に参加していたのでした。それでも、「着席しました」やアイデア投稿が録画された他の受講者のライブ投稿に混ざって表示されるものだから、すっかりライブ気分になってしまっていたんです。
もちろん、その後本物の「生放送」体験もしました。先生に書き込みを拾ってもらうなどという「ラッキー」には巡り会えませんでしたけれど。当たり前ですよね、講義も出ないでワークショップだけ顔を出すような学生は勉強不足です。
読者の皆さんも一度、興味のある授業をみつけて「生放送授業」体験してみませんか。忘れかけている「学びの楽しさ」を思い出すかもしれません。
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