2016年8月4日
筑波大生が世界初のウェアラブルデバイスで挑戦 〜Imagine Cup 2016 取材レポート〜
〜Imagine Cup 2016 取材レポート〜
筑波大生が世界初のウェアラブルデバイスで挑戦
7月27日〜29日(米現地時間)の3日間、米マイクロソフトのシアトル本社で学生向けITコンテスト「2016 Imagine Cup World Finals」が開催された。今年で14回目を迎えた同コンテストには、世界35カ国から自国の国内予選を勝ち抜いたファイナリストが集結。日本からは筑波大学チームが出場し、ワールドチャンピオンをかけて世界中の学生たちと熱い闘いを繰り広げた。
世界最大の学生向けITコンテスト
Imagine Cupとは、国際競争力あるIT人材の育成を目指した学生向けのITコンテストで、マイクロソフト創始者ビル・ゲイツの発案によって2003年に始まった。テクノロジーを使った社会の課題解決に役立つソリューションや新たな価値を提供するプロダクトやサービスなどを創造し、競い合う。この10年間にImagine Cupに参加した学生は約190カ国のべ165万人以上にもなり、世界最大の学生向けITコンテストだ。
Imagine Cupは、ゲームコンテンツを対象にした「ゲーム部門」、ITを駆使して社会課題の解決を目指す「ワールドシチズンシップ部門」、テクノロジーの新たな使い方を提案する「イノベーション部門」の3つの部門に分かれる。日本から出場した筑波大学のBiomachine Industrial チームはイノベーション部門に出場した。各部門で1位に選ばれた計3チームが最終決勝戦に進み、その中からワールドチャンピオンが決まる仕組みだ。
“30倍の視力が手に入るデバイス”
大会初日は、3部門に分かれて各国が審査員の前でプレゼンテーションを披露した。チームごとに10分間のプレゼンテーションと20分間の質疑応答が与えられ、すべて英語で行われる。
筑波大学Biomachine Industrialチームが発表したのは、人間の視覚機能の拡張を可能にしたウェアラブルデバイス「Bionic Scope」だ。頭に装着して使用できるヘッドマウントディスプレイ型で、奥歯を噛みしめたり、大きな瞬きをすることでズームインやズームアウトができる。光学30倍ズームが可能で、遠くのものを見る時にフリーハンドで、見たいポイントを鮮明に焦点化できる、いわば“30倍の視力が手に入るデバイス”だ。脳から目の周りの筋肉へ送られる電位信号を特別なセンサで皮膚の上から読み取ることで、カメラを制御する仕組みを実現した。電位信号を用いた視覚拡張デバイスのインターフェースは、既に特許も出願している。
Imagine Cupでは、単にプログラミングのスキルなどの技術力を争うのではなく、テクノロジーを利用したソリューションが社会で広く普及するためのビジネスモデルや、実用性を説得するためのデータなども求められるのが特徴だ。学生たちが考えたプロダクトやソリューションが世の中にどれだけインパクトを与えることができるのか。この部分をどれだけアピールできるかが勝負の分かれ目になる。
筑波大の学生たちは、「Bionic Scope」の用途として、コンサートやスポーツ観戦などエンターテイメントの利用はもちろん、災害時における行方不明者の捜索、空港や人が多い場所での警備などにも利用可能だと説明した。世界のどの国にとっても警備の強化や自然災害時における対策は重要な課題であることから、Bionic Scopeは多くの国にとって新たなソリューションになるとアピールした。
優勝はルーマニアチーム
大会2日目は、前日のプレゼンテーションの結果発表が行われた。「ゲーム」「イノベーション」「ワールドシチズンシップ」の各部門から、それぞれ1位〜3位の入賞チームが発表された。結果は以下の通り。残念ながら、日本チームは入賞を逃したが、それぞれの部門で1位に輝いたチームが最終決勝に進んだ。
ゲーム部門:
1位:タイ 2位:インドネシア 3位:ブラジル
イノベーション部門:
1位:ルーマニア 2位:スリランカ 3位:アメリカ
ワールドシチズンシップ部門
1位:ギリシャ 2位:チュニジア 3位ハンガリー
大会最終日は、各部門の1位に選ばれたタイ、ルーマニア、ギリシャの3国がワールドチャンピオンをかけて3分間のプレゼンテーションを披露した。審査員には2名の専門家のほか、スペシャル審査員として「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」に出演したハリウッドスター ジョン・ボイエガが登場し、会場を沸かせた。
最終決勝の結果は、医療用のウェアラブルデバイス「ENTy」を発表したルーマニアが優勝を獲得した。ルーマニアのチームは、上半身に装着するセンサ付きベルトと専用のアプリを開発し、患者の姿勢をリアルタイムにデータ化して記録することで、目眩などバランス感覚が影響する病気の診断に役立つソリューションを発表した。既に豊富な実証研究のデータも揃えており、ENTyを利用すれば、従来の治療方法を一歩前進させることができると説得力あるプレゼンテーションを披露した。
テクノロジーは何のために必要か
Imagine Cupは、将来を担う若い学生たちがテクノロジーを使ったものづくりを通して成長できる場を提供している。世界最大のITコンテストといえば、どれだけ技術力に長けた学生が集まるのかと思ってしまいがちだが、筆者がいろいろな国の学生にインタビューをしたところ、「プログラミング歴は1年足らず」「自分はデザイン担当なのでプログラミングはあまり出来ない」という声が多く聞かれ、それぞれ得意分野を持った学生たちがチームを組んで挑戦していたのが印象的だった。
一方で、学生のテクノロジーに対する意見として、「テクノロジーは課題解決のためのツール」「ITはこれだけ普及しているので、何かの課題解決にテクノロジーを生かしたい」などと話す学生も多かった。テクノロジー自体が、これまでにない新しいモノや価値を創り出せるツールだからこそ、世の中を良くするためのソリューションを作りたい、そんな学生の想いがImagine Cupを通して伝わってきた。
日本では今、プログラミング教育やSTEM教育といった分野への注目が高まり、2020年度を目標に小学校におけるプログラミング教育必修化も進められている。プログラミングを学ぶ必要性や学ぶメリットなどさまざまな議論もなされており、それらは広くプログラミング教育が普及するためには必要でもあろう。しかし、テクノロジーがツールであるからこそ、大人は子供たちに対して、“何を変えたいと思っているのか”“自分が感じている問題意識は何か”を問いかける姿勢を忘れてはならない。Imagine Cupにおける学生の挑戦を見ていると、彼ら彼女らを突き動かす原動力にこそ、学ぶべき点が多くあるといえる。(取材 神谷加代)
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