2016年5月11日
「未来の君に会いに行く」人口知能(AI)型教材“Qubena”
Edtech最前線
「未来の君に会いに行く」人口知能(AI)型教材“Qubena”
~シンギュラリティを生き抜く子どもたちへ~
その少年は変わっていた。周囲からは“宇宙人”と呼ばれ、自分では“異端”だと思った。小学校3年生で、図書館にあった100冊の伝記本を読破し、偉人たちが何を行い、どう生きたかを知った。そして悟った。自分のミッションは「人間はどう生きるべきか、どう進化すべきかを突き止め、それを全人類に伝えること。そして、世界を平和にすること」なのだ、と。
少年の名前は、神野 元基(じんの げんき)。1986年生まれ。現在は、世界初の人工知能(AI)型教材“Qubena(キュビナ)”を開発したCOMPASSのCEOだ。
神野は、少年時代を北海道網走で過ごした。小中高と勉強は出来たが周囲に認められることはなかったという。異端だったからだ。何でも知りたい子どもだったが、情報収集には苦労していた。高校1年の時、家にインターネットが引かれた。全世界に繋がった気がした。そして、自分の部屋が世界になった。
高校を卒業すると神野は、北海道の大都会札幌を飛び越え一気に東京へ向かった。ミッションの実現を目指し、大きく踏み出すために。
シンギュラリティがやってくる
とにかく数学が得意だった神野は、試験科目が数学と小論文だけという優位性を活かして慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に入学した。神野に言わせると、SFCでのキャンパスライフは「変人ばかりで楽しかった」という。変人で異端だった自分にピッタリだ。自由に何でも研究できる、村井純研究室での学びも、神野を成長させたという。
大学在学中、毎年米国ラスベガスで開催される、最も歴史と権威のある世界最大のポーカーイベントWSOP “World Series of Poker” に参加。世界中から集まった数千人の中で19位となり、一躍注目を集める。その後、起業に参画して成果をあげるなどしたが、ミッションに従って“人間はどう生きるべきか”を追求するために、米国シリコンバレーに向かうことにする。2010年のことだった。
シリコンバレーでは、人の表情から感情を読みとる新しいサービス「感情センシング」を開発して、会社を設立する。人種や国籍、文化の異なる人と人の間に生まれる感情の差異を埋めてコミュニケーションを円滑にする、画期的なサービスだった。
シリコンバレーでのある日、神野はその後の生き方を変える出合いをする。
“シンギュラリティ”、だ。
“シンギュラリティ(Singularity)”とは、技術的特異点のことで、人工知能が人間の能力を超えるときのこと。それは2045年だとされている。そのとき何が起きるか。人類が抱える様々な課題、資源・エネルギー、労働、貧困、病気、死などすべてから解放されてユートピアになると予測する楽観論者もいれば、人間以上の知能にとって人間は不要になり全滅させられるとディストピアを説く者もいる。いずれにしても、人間の能力で考えても予測できない未来がやってくる可能性があるのだ。
“シンギュラリティ”に出合って神野は、歓喜も絶望もしなかった。
ただ、自分のミッションに少しだけ変更を加えることにした。2045年の“シンギュラリティ”に向かう時代に生きる子どもたちに、このことを伝えなくてはならない。そして、生き抜く力を身につけさせなければならない。
神野は、日本に帰ることにした。そして、八王子で学習塾を開いた。塾に来た子どもや保護者に向かって神野はこう言った。「いいですか、みなさん。消防士さんや大工さんに憧れないでください。2045年には、いまある仕事の99パーセントが人間の仕事ではなくなってしまいます。みなさんに必要なのは、“未来を生き抜く力”です」。
“シンギュラリティ”に向かって生きていく子どもたちに、本当に必要なことを教えてあげたかった。しかし、成績が上がらないと親は塾をやめさせてしまう。「もっと大切なことがあるんですよ」といっても、耳を貸してもらえない。ならばと、成績が上がる塾にすることにした。子どもたちの個性に合わせた指導で、塾は地域で一番の評価を得るまでになった。
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