2016年6月27日
LTE iPad導入から9カ月 ICTスモールスタートした古河市のいま
茨城県古河市は2015年9月、市内の小中学校32校へのタブレット端末導入を実施した。通信モジュール搭載モデル学習用タブレット、簡単に言えばLTE対応のiPad。全部で1421台。とはいえ、1人1台なのは数校の小規模モデル校だけ。多くの学校は、PCルーム分の40台というのが実情だ。
教育委員会が主導して進められたこのICT導入計画のコンセプトは「スモールスタート」だ。教育現場のICT活用と言えば、校内LANのWi-Fi化というのがスタートラインと考えられている。しかし、その整備に掛かる費用のハードルは高い。
また、先行して導入したところでも、費用を抑えるためにスペック不足となりトラブルに見舞われるというケースも多い。
そこで古河市は、全国初となるLTE方式、つまりWi-Fiに依存せずに端末が個別で通信できる方式でのiPad利用を決断した。端末の通信料、インフラの整備など課題もあったが、通信会社との交渉の結果、費用もインフラも導入可能なレベルにすることが出来た。そして地域住民にも、携帯端末が繋がりやすくなったというメリットを提供しているという。
スモールスタートは、大きく育てるための第1歩。失敗は出来ない。もちろん、成果も示していかなければならない。そんな古河市で公開授業があるというので、訪ねてみることにした。
6月22日、最初に訪ねたのは、古河市立上大野小学校。ここでは、アクティブ・ラーニングや思考の見える化のためにICTツールを効果的に活用し、「自分の考えを伝えられる子ども」の育成を目標のひとつに設定して活動を行っている。
「朝のスピーチタイム」では、iPadを使って行うことによって表現手段の多様化や表現力の向上はもちろん、プレゼンテーションの内容そのものに大きな成長が見られるようになったという。
髙安聡恵教諭の4年生理科を覗いてみた。注射器に水と空気を入れて圧力を掛けたとき、閉じ込められた水と空気がどのように変化するかを確かめる実験。4人一組になって役割を決め、実験をし、それを写真や動画で記録し、実験結果をまとめて発表するという手順。
実験はもちろん、iPadを使った写真・動画撮影も手慣れたもの。発表用の資料制作もロイロノート・スクールを使って手際よく進められる。
驚かされたのは、発表を担当する児童が出来上がった資料でプレゼンテーションのシミュレーションをしていたことだ。それも、一人だけでなく何人もの児童が小声で練習していた。
それでも、いざプレゼンとなるとなかなか上手くいかない。言うべきことは言えても声が小さくなってしまったり、あらぬ方向を見てしまったり。しかし、この挑戦は必ず成長に繋がることだろう。
2年生の国語は狐塚悠太教諭の、「もっとつたわりやすくなるように、ことばのつかいかたを考えよう」。お絵かき歌のように、「○かいて、△ふたつ、点かいて」という問題で、なにかの絵を完成させるというもの。どんな○を描くのか、△はどの位置に描くのか、点の配置はなど、ことばを上手に使って自分の想定した答を描いてもらえるように工夫する学習。
発表では、子どもが自分たちで考えた問題を発表して、他の子どもたちが絵を描いていく。大画面に一斉に発表される答が、合っていたり間違っていたりで伝え方が正しかったかを確認する。自信満々とはいえないが、落ち着いて発表する姿は小学2年生とは思えないものだった。
6年生は、薄井直之教諭の総合的学習の時間。「上大野小学区について 知る、PRする、改善する」アイデアソン。今時は、「住みよい町の条件・視点」をキーワードでまとめよう。
前回までに各グループがまとめた資料を撮影した写真やネット検索で集めた資料などを、ロイロノート・スクールでまとめながらグループワークを行う。
iPadが活躍するのと同時に、「ベン図」や「Xチャート図」、「ピラミッドチャート」や「コンセプトマップ」など、紙のツールが多用され、思考の見える化のためデジタルもアナログも使える物は何でも使うという姿勢がうかがえた。
中間発表としたプレゼンテーションでは、終了後「はいよくできました、拍手~」とはならずに教師から「今の発表、標識部分は必要か」と、いわゆるダメ出しがあった。これは、プレゼンテーションを小さな成功体験の場に終わらせるのではなく、揺さぶりをかけることで子ども自身にも評価を考えさせ、成長を促すものだという。
午後からは、古河市立大和田小学校で教科におけるプログラミング授業を取材した。
藤原晴佳教諭の3年生の国語は、ゆうすげ村の小さな旅館、めあては「友だちと読み合い、よりよい作品をつくろう」。国語の視点として、「はじめ・中・終わりの文章がつながっているか」、「しかけが入っているか」。プログラミングの視点として、「しかけが表されているか」、「場面に応じて言葉・人物・動きをくわえる」というもの。3年生の取り組みとしては、かなりハードルが高く感じられる。
今時では、これまでScratch Jr(スクラッチ・ジュニア)を使って自分の作った物語をグループのメンバーに聞いてもらってアドバイスを受け、それを参考にして物語をよりよくするためにやることを考えるというもの。
一通りグループでの意見交換が終わった頃、藤原教諭が「じゃぁみんな、今日はせっかく沢山お客様がみえているから、お客様にも話を聞いて頂いて意見をもらおうか」と促す。
はじめは躊躇っていた子どもたちだが、一人二人と大人に近づいていくと次々に語り聞かせる場面が見られた。ふりかえりでは、「ともだちのアドバイスが役に立った」というほかに「お客様に聞いて頂いてアドバイスしてもらえて、よりいいものになった」という感想が散見され、大人の対応に驚かされた。
その他大和田小学校では、Scratchを基に開発されたiPadで動くビジュアルプログラミング環境“Pyonkee”を使った算数や、ロボットボール「Sphero(スフィロ)」を使った図工の授業が公開された。
公開授業終了後懇談した古河市教育委員会 指導課の平井聡一郎課長は、「大和田小学校は文部科学省の情報教育指導支援事業の研究校でもあり、全学年・全教員プログラミングに取り組んでいる。これまでは“探求のプロセス”に沿った取り組みを行ってきた。スモールステップ~協働的学習~評価とフィードバック~相手意識を持った表現力、というものだ。だが、教科でのプログラミングの事例がないので試行錯誤しながら進めている。情報活用教育カリキュラムも毎年作り替えている。プログラミングは英語と共に小中連携の柱になるものだから、今後も積極的に取り組んでいきたい」と語った。
スモールスタートした古河市のICT導入は、試行錯誤しながらも着実な進化を続けているようだ。
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