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2016年8月24日

いくぜ!1人1台BYOD! 佼成男子の男気チャレンジ

~佼成学園中高ICT導入の記録~

中学2年生約120名を前に、学年主任が檄を飛ばす。

ホールでのiPadの配付風景

ホールでのiPadの配付・設定風景

「いまから全員にiPadを配付する。こういうものを手にしたら、男子中学生が興味を持ちそうなことは決まっている。そうだ、ゲームとアダルトだ。でも、安心しろ。このiPadは、ゲームはできないし、アダルトサイトにも繋がらないようになっている。じゃあ何に使うのか。決まってるだろう。勉強するためだ。いいか、このiPadはなあ、勉強のためだけに使うんだ。わかったか。」「はい!」と生徒たち。

佼成学園中学校・高等学校は2016年度、BYOD方式による全生徒1人1台iPad導入を決定。昨年度導入した高校2年に加え、本年度は中学1年から高校1年の配付を実施した。来年度の新入生に導入することで、全校生徒1人1台BYODを実現する。

教室で配付されて盛り上がる生徒たち

教室で配付されて盛り上がる生徒たち

BYODとは、「Bring Your Own Device」(自分のデバイスを持ち込む)の略で、企業の従業員や児童生徒が私物の情報端末を企業内や校内に持ち込んで使用することを意味する。

「佼成男子」と呼ばれる男子校、佼成学園の何が「男気チャレンジ」なのか。それは、iPadを個人所有で一斉購入し、それを学習以外に使用できないように設定してしまう、という大胆なやり方にある。

iPadといえばタブレット市場で高い人気を誇るエンターテインメントデバイス。ゲームに動画、ネット検索にSNSなど、遊ぶためのツールと言っても過言ではない。そのツールを「学びのためだけに使う」と、思い切った限定利用を決定した。一斉購入のiPad以外に、自宅で使用しているiPadの使用も認めたが、既存のデータはすべて消去し、設定はすべて学習専用仕様にリセットするという徹底ぶりだ。BYODで導入した私物の端末を、学校が学習専用に設定し、完全に管理してしまう事については、個人資産という観点から危惧する声も聞かれる。

ICT教育導入を進めてきた簗瀬 教頭

ICT教育導入を進めてきた簗瀬 教頭

佼成学園のICT委員会委員長としてICT教育導入を進めてきた簗瀬 誠教頭に訊くと、「ICT導入にあたり、レンタルにするか、BYODにするか、可能な者だけ利用する、にするのか迷いました。しかし、学習機会の公平性と将来的な必要性から全員BYODと決定しました。学習専用に設定して学校が管理することについては、保護者の皆様に理解していただいています。むしろ、保護者からゲームに嵌まってしまうことへの不安の声もあり、“学習専用、学校管理”に対する否定的な声はありません」とのこと。

管理については、中学と高校で多少の差異がある。中学生ではブラウザは「i-フィルター」を利用しネットアクセスのセキュリティ管理を徹底しているが、高校生ではiPad付属のブラウザを利用して、ブラックリスト方式の管理を行っている。

配布後IDの設定などを行う生徒たち

配布後IDの設定などを行う生徒たち

厳しいセキュリティ管理について簗瀬教頭は、「ICT導入先進校のように、自由に使わせてやりたいとは思うのですが、導入初期ということもあり誘惑に負けない設定にしました。Appストアもその設定では使えませんが、生徒が本当に必要なアプリのダウンロードを提案した場合にはできるように対応します。ただ単に制限するというだけでなく、社会性を考慮した情報リテラシーの育成も進めていきます」と、厳しく管理するだけでない運用を考えている。

導入後のICTを活用した授業設計や教員研修など、ICT導入で欠かせない利活用計画について簗瀬教頭に尋ねると「いやぁ、あまり細かなことは決めていないんですよね。まあ、一番大変なスタートを切ることが出来たんですから、本校の教員は皆いずれ取り組んでくれることでしょう」と、“男気”で解決するつもりなのか、やや楽天的なようにも見える。しかし、現在に至るまでを振り返ってみると、無計画に“男気”だけで進められて来たわけではないようだ。

2011年、文部科学省が公表した「教育の情報化ビジョン」の基づき、佼成学園でもICT導入に向けた動きを模索。電子黒板研修や公開授業の見学を参考にして、電子黒板の導入検討を開始。

2012年には、先進的と言われた韓国のICT教育事情を視察。電子黒板に加えて教育用情報端末、デジタル教材、学習支援プラットフォーム等総合的なICT環境整備の検討を開始した。

2013年にはICT委員会を設置。可動式液晶電子黒板SHARP BIG PADを2台導入し、ポータブルプロジェクターとともに試験的運用を開始した。秋にはICT委員会から職員会議に対して、「全教室への電子黒板プロジェクター設置」「全教室のWi-Fi環境の整備」「iPadの生徒1人1台BYODによる導入」の3項目を提案した。

2014年には、高2の1クラスにモニターとしてiPad1人1台を導入。ベネッセの授業・校務支援サービス(現Classi)のモニター校に参加して実際の運用を経験。広尾学園中高や近畿大学附属高校、桜丘中高など先進校の視察も重ねた。

スタートから5年目の2015年、中高校棟全HR教室、理科実験室、高校棟特別教室に電子黒板型プロジェクターを設置。各教室のWi-Fi環境を整備。BYODのiPadで高1全員の利用開始。学校側は、生徒がiPadを持つなら指導する先生方にも必要だろうと全教員にiPadを貸与する“男気”を示した。

そして今年春。中1から高2までのiPad1人1台BYODを実現させた。
ところで、佼成学園が大胆なiPad1人1台BYODによるICT活用教育に取り組む目的は何か。簗瀬教頭に訊いてみた。

今年7月英語の授業で

今年7月英語の授業で

「本校がICT教育を推進する理由は、生徒たちにこれからの社会を生き抜く力を身につけさせるための“生徒の学びの変化”、“教師の指導の変化”、そして社会の動きや変化に対応できるような“学校の変化”を実現することです。生徒も学び、教師も学び、成長する学校にするために重要な要素がICT活用だと考えています。1人1台BYODにしたのは、デジタルネイティブの生徒に相応しいツール(教具)を持たせる事による、キーコンピテンシー(主要能力)育成のためです。そして、具体的な目標としては、当然ですが第1に『学力の向上』、そしてもうひとつは本校らしいテーマとして『コミュニケーション能力の向上』を掲げています」

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生徒たちは手慣れた感じ

これからの時代、「希望する大学に合格するためにも、大学に合格した後も、大学を卒業して社会に出てからもICTを活用する能力は求められることでしょう」と、簗瀬教頭は言う。

そのために、思い切って、「やるぜ!佼成男子」で始めた1人1台BYOD。計画的な教員研修やICT機器の利用義務化など、ICT活用のための施策を強要したりはしていないが、ほとんどの教師が何らかの形でICT機器の活用を始め、教師、生徒ともコミュニケーションツールとしてのICT利用を始めているという。

1に「学力向上」、2に「コミュニケーション」。佼成学園におけるICTで重要なのは「C」=Communicationだと、簗瀬教頭は力を入れる。男気チャレンジで「エイヤッ」と始めた「1人1台BYOD」。どのような展開になっていくことか、見守っていきたい。きっと、これからBYODで1人1台を始めようという私立学校の「3年かかることを1年でやる」参考になることだろう。to be continued.

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