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2019年1月22日

県立高校ICT化へチャレンジ 埼玉県が川越南高校で公開授業

2020年教育改革スタートまであと1年。新学習指導要領が示す学び改革、それを支えるICT環境の整備。どの地方自治体でも、どの小中学校でも完璧に準備が整っているところはほとんど無いだろう。中でも、公立高校は理想と現実のギャップが大きく、学校現場も行政側も取り組みの苦労していることだろう。ICT環境整備の予算確保という課題とは別に、大学入試という現実が大きく立ちはだかっているからだ。

大学入試センター試験は今年で終了し、来年度から新たなシステムがスタートする。新しい大学入試ではこれまでの知識や記憶を中心とした学習能力を問うだけでなく、課題を見つけて解決する能力、思考力、表現力などが問われる記述式の設問が増えるという。英語でも「読む」「書く」「聴く」「話す」の4技能が問われる。そして、近い将来にはコンピュータを使った試験「CBT(Computer Based Testing)」の導入も検討されている。当分の間は、現状の延長と現状のままでは対応できない能力の両方が問われることになる。

グループ作りからスタート

グループ作りからスタート

そんな時代の公立高校は、学び改革にどう取り組めば良いのか、1月17日、埼玉県立川越南高等学校のICT化チャレンジ授業を覗いてみた。

この日公開された授業は、2年8組藤元琢也教諭の理科、単元名「有機化合物」と、1年4組春日井優教諭の情報(情報の科学)、単元名「統計を用いたデータ分析」の2つ。

動画とWebサイトで情報収集

動画とWebサイトで情報収集

理科の授業では、はじめに生徒全員が席移動してグループを作るところから開始。演習プリントに示された課題について話し合い「構造式と物質名」の答を導き出す。続いてグループ1台のChromebook PCを利用して、Google Classroom(G Suite for Educationのツールのひとつ)で配付された資料から動画を視聴したり、Webサイトを活用したりしながら「お酒に強い人と弱い人がいるのはなぜか」、「メタノールを飲むと目が見えなくなるのはどんな仕組みか」などの設問にグループで取り組んでいく。答はPCに入力してGoogle Classroomで全員に共有するという授業の流れ。

Google Classroomで答を共有

Google Classroomで答を共有

授業を担当した藤元教諭は、ICTを活用した授業について「動画が簡単に使えるのは嬉しいです。以前は自分で動画を作ったりしていましたが、YouTubeなど探せば、使える動画がたくさんあります。今日の授業では時間が少ないので、Webのリンク先を知らせましたが、自分たちで検索して情報を得るということもやらせています。授業の進め方としては、答やヒントを簡単に言わずに、生徒同士の学び合いを促すように心がけています」と、積極的にアクティブ・ラーニングを進める考えだ。

ChromeBookをグループ毎に配布

Chromebookをグループ毎に配布

ABC別々の動画で学ぶ

ABC別々の動画で学ぶ

情報の授業では、はじめに「アンケートの作成と分析」という表題の資料ABC3種が3分割された生徒にそれぞれ配付される。「○○市 観光アンケート」と題されたアンケート結果を一人ひとりが自分の知っている方法で集計する。その集計結果から、総合評価を高くするためにはどのようなアンケートを作成すれば良いかというのが本時の課題。各自で分析したあとはグループ毎に配付されたChromebook PCを使い、ABCそれぞれに対応した動画で分析方法を学習、それぞれの方法の特徴や情報収集法を話し合う。次に、ABCの分析方法それぞれを学んだ生徒が含まれるようにグループを再編して、互いに学んだ事を持ち寄って課題に向かう。ジグソーパズルを解くように全体像を組み立てていくためジグソー法と呼ばれる、協働学習に使われる手法だという。ここでも答はPCに入力してGoogle Classroomで全員に共有する。

グループのまとめを発表

グループのまとめを発表

授業を担当した情報科の春日井教諭は、「ジグソー法を使った協調学習では、ABCの動画が必要になりますが、YouTubeから適切なものを探しています。あえて難解な素材を選んだりして、簡単に答を提示しないようにしています。自分たちで考えて、自分たちで答を導き出すことを目指していますので、過剰に関わらないようにしています。答を共有するのは、他の人が何を考えているのか知るのにとても良いと思います」と、生徒自らが学ぶ姿勢を大切にしていると語ってくれた。

川越南高校の現在のICT環境は、全普通教室にプロジェクターを配備、全普通教室でのWi-Fi利用可能な環境整備、普通教室で利用できるPCとChromebookがあわせて約80台、それにG Suite for Educationといったところ。

授業を担当した藤本教諭(左)と春日井教諭

授業を担当した藤元教諭(左)と春日井教諭

ICT環境もICT活用授業も、私立の先進校に比べれば、まだスタートラインと言って良い段階だが、埼玉県の公立高校でICTを活用したアクティブ・ラーニングが一気に開花する可能性がある。それは、2016年から進めている「未来を開く“学び”プロジェクト」で取り組んできた「協調学習」の成果があるからだ。なにより、「協調学習」を経験している教師たちは、教師が「教えること」ではなく、生徒自らが「学ぶこと」の重要性を理解している。生徒たちもICTには不慣れでも、アクティブ・ラーニング的な学習方法には慣れている。「自ら学ぶ姿勢」は出来ているということだ。

埼玉県では今後、ICT環境の整備を進めながら、「協調学習」の成果を基盤に、Chromebook+G Suite for Educationを活用して学びの改革に取り組んでいくという。まだ始めていない自治体にとって、ICT環境整備も学び改革も同時に進めるのはとても労力のいることだろう。しかしもはや、大変だろうが始めなければならない時に来ている。全国の公立高校にとって埼玉県の取り組みは大いに参考になることだろう。

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