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2020年1月1日
2020年新年にあたり 学びとICT、2020年に始まらなかったこと
明けましておめでとうございます
いよいよ2020年が始まりました。教育界的には、2020年度は重要な年になるはずです。なるはずでした、ともいえるかも知れません。とにかく2020年度から小学校で正式に新学習指導要領が実施され、21年度中学校、22年度高校へと続きます。また、大学入試改革もはじまり、教育現場では「新しい学び」の実現を目指すことになります。年の初めは「始まる話」が相応しいのでしょうが、ひねくれ編集者としては、始まらなかった話ではじめたいと思います。
始まらなかったことといえば、新しい大学入学共通テストでの「英語4技能の民間試験活用」です。昨年11月1日、萩生田文科相が会見し「自信を持ってすすめるシステムになっていない」と2020年度からの導入を延期、5年後採用を目指す、と発表しました。7月にTOEICが参加申込を取りやめたあたりから怪しい雰囲気はあったのですが、有名大学が次々と採用しない方針を決めたり、全国高校長協会から「試験の周知に計画性がなく、詳細が明確になっていない」などとして実質的な延期要請があり世間的な関心を集め始めました。決定的だったのは10月、萩生田大臣のテレビ番組での「身の丈」発言でした。住む地域や家庭の経済状況で不公平は生じないかという懸念に対して「身の丈にあわせてがんばって」と格差を肯定するような発言をしたというものです。これに対して国会で野党が激しく反発、導入を延期する野党提出法案の審議を与党に求める方針を決めました。こうした圧力を受けて、萩生田大臣の延期会見になるのですが、民間試験の活用では以前から「試験会場」「試験監督」「セキュリティ」「試験費用」「異なる試験の評価方法」など多くの課題が示されていました。突然課題が噴出したわけではありません。そもそもこの制度改革は下村元文科相時代に国の方針を受けて始まったもので、Society5.0を目指す日本にとっては欠かすことの出来ない英語能力の抜本的改善を目指す素晴らしいアイデアです。しかし、実施を急ぐあまり根本的な課題に目を背けて見切り発車をしてしまいました。なにより新時代のSociety5.0を視野に入れるのであれば、ICTを活用したCBTの導入は最低限必要だったはずです。
CBTとは「Computer Based Testing」のことで、コンピュータを利用した試験です。今回の民間試験の中に「○○CBT」「××CBT」とあるのがこれになります。本気で民間試験を採用し不公平にならないようにするなら、1社のCBT試験を採用すべきです。もちろん厳正なコンペを行って決定します。試験会場は、各高校のPCルームです。会場費用は掛かりませんし、第三者の試験監督が立ち会えば公正性やセキュリティも確保できます。自分の通っている高校で受験できるのですから、受験のために遠出する交通費は必要ありません。また、大学入試専用のテストを設定すれば、何回もお試し受験できるメリットを無くすことも出来ます。高校に通っていない大検資格者は、最寄りの高校で受験可能にすれば不公平はなくなります。今すぐ出来るのかということですが、全国規模では無理です。だから、ビジョンを明確にして準備する必要があるのです。5年後にどのように試験を実施するのか、2020年は構想をまとめる重要な年になるでしょう。
ところで高校の教育現場のみなさん、2020年度からの民間試験導入がなくなって、ホッとしていませんか。たしかに早急な民間試験対応の必要はなくなりましたが、高校における英語4技能がなくなるわけではありません。2022年度に実施される新学習指導要領では「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」を働かせ、情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図るために必要な「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の資質・能力を更に育成することを目指す、としています。これはつまり、英語でディスカッションして英語でプレゼンテーションできる能力を育成することを意味しています。大学入試の民間試験がなくなっても、「英語4技能」を学ぶためのカリキュラムはすぐに必要になります。
英語4技能の民間試験につづいて始まらなかったのが、大学入試共通テストの「国語と数学への記述問題導入」です。こちらの課題もいまさらというものです。50万人の記述回答を誰がどのように採点するのか、採点基準は守られるのか、公正・公平は担保できるのかと導入決定時点で誰でも思いつきそうなことです。採点を請け負う会社では、システムも経験も問題ないとしていますが、「人間が行うのにすべて同じ基準で採点できるのか」という単純な疑問を試験実施前に納得させることは出来ません。これこそICT活用の場面です。試験をCBTで実施してAI(人工知能)が採点すればよいのです。
AIには人間の脳と同じ働きをする「汎用型AI」と単一の処理に特化した「特化型AI」がありますが、「特化型AI」はめざましい発展を遂げています。チェスや囲碁、将棋といった人類の中では知能が高い人たちが職業としている分野では既に、AIが名人クラスを破っています。自動運転や自動翻訳、スマートフォンやスマートスピーカーでユーザーの要望に的確に答えてくれるのも、客からの電話の問合せやクレームに応えるのも、1秒間で株の売買を決断するのも、一人ひとりの子どもたちに最適な学習方法(アダプティブ・ラーニング)を提供するのもAIの得意分野となっています。AIが記述式回答の採点を行った場合、回答の行間を読んだり、回答者の個性を感じ取ったりしてプラス評価の採点をすることは苦手でしょうが、いくつかの回答例に沿って同じ基準で公平に評価を行うことは可能です。50万人の回答を一人のスーパー採点者が同じ基準で採点するのに比べたら頼りないかも知れませんが、公正・公平、大量、迅速、実現可能性といった基準で比べればAIが圧倒するのは間違いありません。現段階でこの課題に対応出来るAIサービスは存在していませんが、開発は急速に進んでいて実現可能なようです。センター試験クラスの大規模な試験に「記述式」の導入を検討するとき、CBTやAI採点の導入を考えないこと自体がSociety5.0時代からほど遠いと言わざるを得ません。
ところで先生方、「記述式」ときいて「手書き」をイメージしていませんか。もちろん現在の技術で、手書きの記述式答案用紙を一瞬にしてデジタルデータに変換することも可能なのですが、大学入試でそんなことは出来ません。コストのことや読み取り間違いなど考えたら当然CBTが導入される事になります。そうなればタイピングの能力が必要です。1000文字の素晴らしい回答が頭の中にあっても、時間内にタイピングできなければ答えられないのと同じ事です。新しい学習指導要領では「情報活用能力」の基礎として「タイピング」も含まれています。紙やマークシートの入試は近い将来CBT+記述式に変わります。2020年は、新しい学びのスタート地点となるはずです。
最後に、はじまりそうなことをひとつ。「1人1台情報端末」や「ICT環境整備」に向けた国の本気の取り組みです。砂に水を撒くように血税が消えていかないように、教育現場も自治体も、産業界も保護者も未来を見据えてICT教育に取り組んでいきましょう。(編集長 山口時雄)
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