2020年4月20日
ICTで学びを保障する“合理的配慮”第2回 「英語の読み書きのつまずきにはICT!」
~英語の読み書きのつまずきにはICT!~
高崎健康福祉大学 人間発達学部 子ども教育学科
村田 美和
英語の読み書きのつまずきは個人の努力では解決できないもの?
英語の読み書きに困難さを感じている子どもは少なくありません。英語で感じる困難さは、これまでの教科学習とは全く質の異なる困難さであり、子どもが一人で抱え込んでいる場合もあります。
日本語の読み書きでつまずいていれば、英語もつまずくであろうことは容易に想像できます。しかし英語でつまずくケースの多くは、日本語の読み書きが問題なく習得できたが、英語だけにつまずくというものなので、大人からも見過ごされがちです。なぜこの様なことが起きるのでしょうか?
背景には、日本語と英語の言語の違いが関係しています。ここで関係してくるのは、「文字」対「音」が1対1になっているかどうかです。例えば、英語の「a」を思い浮かべて下さい。単語の最初にきたとき「apple」、単語の真ん中にきたとき「cake」、単語の最後についた時「camera」、全てaの発音が異なります。一つのaという文字に対して、音は7~8種類あるといわれています。
一方で、日本語はどうでしょうか?「あいす」でも「きあい」でも「ドア」でも、日本語の仮名は、「あ」という文字に対して一つの音しか存在しません。この「文字」対「音」の対応の複雑さが、英語の読み書きの難しさを生み出しています。英語の読み書きの習得は、一筋縄にはいかないのです。
この「文字」対「音」の複雑さに対応できない状況を英語圏では「ディスレクシア」と診断します。優れたスポーツ選手や著名なハリウッド俳優で、自分がディスレクシアであることをカミングアウトしている人も少なくありません。英語圏でのディスレクシアは人口の1割以上ともいわれており、その割合は人種を越えても大きく変わらないと考えられています。医学的診断であるということはつまり、個人の努力では限界があり、個人では解決が難しい問題になります。日本で英語だけにつまずく人にも、よく似た状態が見られます。この様な人たちの英語学習に、ICTは欠かせない存在になりつつあります。
まずはICTで読み上げさせる
印刷された文字を自力で読むことが大変な場合、タブレット等の音声読み上げ機能を使います。本記事の第1回で紹介した方法が全て英語でも使えます。教科書の電子データをAccess Readingで入手し、Word Talkerや、イマーシブリーダーで読み上げさせて、内容を理解するなどの方法です。
ここでよく受ける質問が、「この様に機械を使うと、自力で読む力が育たなくなってしまうのでは?」というものです。少し説明すると、例えば自力で読む場合、10分で1行しか読めなかったら、全文を読み終える前に疲れて途中で辞めてしまいます。
一方、機械では10分で20行読めたとします。この機械の読み上げを継続すると、読む「絶対量」を増やすことができます。量を増やすことにより、文の構成や、パターン、語順などを学習することができ、文を読む時の予測する力もつくため、結果として自力で読むことの助けになることが考えられます。何よりも、ディスレクシアは「言語を理解する力」は担保されているため、読み上げがあれば、その後自力で英語を学習していくことができるのです。
日本の優れた電子教科書
小学校での英語教育の必修化に伴い、教科書会社各社が、電子教科書にも力を入れています。中でも私が注目しているのは、音声読み上げ機能の充実です。画面の単語をタッチしたら音声が出るというのは、読みが苦手な子の学習を大いに助けます。
これは電子教科書にしかできないことです。特に小学生など初期の学習者は、多かれ少なかれ読みにつまずくため、有効であると考えられます。中学生以降の場合は文の量も増えるため、電子教科書よりも、先に触れたAccess Readingがお勧めです。
スペルチェック機能とグラマーチェック機能の活用
英語圏では、ディスレクシアの生徒への試験での合理的配慮として、パソコン上で、スペルチェック機能、グラマーチェック機能を用いて答案を作成し、提出するということが行われています。この機能で代表的なものに「Ginger」というソフトがあります。また、皆さんご存知のマイクロソフトWordでは、綴りのミスに対して赤線を引いて知らせてくれたり、修正してくれたりする機能があります。英語圏のディスレクシアの生徒は、合理的配慮として、その様な機能を試験で使って良しとされているのです。これはつまり、綴りが正しく覚えられないことが、彼らの困難さであり、そこをICTで補うことで、一般の生徒と平等になるという認識が英語圏では共有されているのです。
音声認識を使って話して書く
アルファベットの入力も難しいという人であれば、音声認識を使って、自分が話した英語を文字にするといいでしょう。その際、表示された英語が正しいかどうかは、音声読み上げ機能を使って確認することができます。
つまり、極端な話ですが、英語の読み書きが全くできなくても、英語を話すことさえできれば、その声を文字に落とし込んだり、書かれた文字を音声読み上げで読んで理解し確認することもできるのです。
ICT英語学習教材の充実
ICTがなかった時代は、英語の勉強方法といえば、紙ベースで、読み書きを中心としたものでした。しかし、近年、タブレットに自分の考えた英文を声で吹き込むと、タブレットがその声を解析して正しさをフィードバックしてくれるシステムなど、話す、聞くも含めた英語の4技能を、タブレット端末で練習できるように進化してきています。
これまでは、先生や他の生徒と対面しないとできなかったコミュニケーションの練習が、タブレット端末相手にできるようになってきているのです。子どもたちの英語教育のパートナーとして、ICTは今後も進化していくことでしょう。
イラスト提供:Atelier Funipo
《著者プロフィール》
村田 美和
高崎健康福祉大学 人間発達学部 子ども教育学科
博士(理学)、マイクロソフト認定教育イノベーター。
読み書き障害の小中学生を対象に、テクノロジーを活用した学習の補助と、合理的配慮について研究している。
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