2020年7月31日
Monacaによるアプリ制作と発表、他者からの反応で大きく成長した生徒ら/都立新宿山吹高等学校
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新宿山吹高等学校は、単位制・無学年制を採用する定時制課程と通信制課程のある都立校。情報を専門に学ぶ「情報科」は都立で唯一。2017年から3年間、文部科学省のスーパー ・ プロフェッショナル ・ ハイスクール事業 (SPH)に指定された。
個々の成長を促すSPHとしての多様な取り組み
2017年、文部科学省からSPHの指定を受けた新宿山吹高等学校は、「多様な未来に対応する情報技術者の育成」のために「自ら選択する主体的な学び」「社会とつながった実践的な学び」「学びの自己評価」という3つの柱で活動をスタートした。SPHの研究実施において取りまとめを担った和田祐二主幹教諭は、「学校の枠の外でも主体的に活動できる生徒の育成を目指した。決してそれだけではなくて、生徒個々の成長を促し個性を伸ばすことこそを大切にした。」と振り返る。
生徒自ら時間割を決める単位制という同校の特徴を最大限に活かし、情報専門科目、共通科目、総合的な学習(探究)の時間、人間と社会(東京都設定教科)、および課外活動から選び、主体的な学びを実現した。特に情報専門科目は多様な興味関心に合わせて、基礎的なレベル1から専門的で実践的なレベル3、さらに上位の課題研究まで合わせて20もの科目がある。その他SPHの取り組みは、企業訪問や講演会、大学や企業と連携した研究など多岐にわたった。
Monaca活用で実現、身近な課題を解決するアプリ開発を行う「情報システム実習」
SPH以前は座学も多く、社会のシステム開発で使用する開発言語や規模感が高校生には実感のわかないものもあったという。そこでSPHの2年目から、専門科目の中でも実践的な「情報システム実習」で、生徒にとって身近な課題を解決する「アプリ開発」を行うことになった。
和田主幹教諭は、アプリ開発の環境としてMonacaを選んだ。選定理由は、Webブラウザで利用できて環境構築の必要がない手軽さ、HTML/CSS/JavaScriptを用いてiPhoneやAndroidといった端末で動作するアプリを開発できること、Monacaの生徒アカウントにEメールアドレスが不要であることが上げられた。
「情報システム実習」を担当する情報科 富川葵教諭は、授業を行う上での疑問やトラブルへの迅速な対応といったサポート面での手厚さも非常に心強いと語る。富川教諭は、「実践的であること」「技術力に加えて自身で考え課題を見つけ解決できる力を育むこと」「利用者目線で開発できること」にこだわった。限られた時間でこれらを実現すべく、Monacaの公式テキストを手に母校の尚美学園大学を訪ね、効果的な授業の進め方について教授らに教えを請う。アドバイスを活かし1年間の授業は次のステップで進められた。
◆ブレーンストーミングで課題発見力・解決する力を鍛える
前期前半は、課題を発見し解決案を考察するグループワークからスタート。実際に校内で運用され生徒らも利用する「伝言システム」というサービスについて、良い点悪い点をグループでディスカッションし付箋に書き貼り出した。当初は富川教諭もグループに参加することでスムーズに始められたという。その後一人ひとりが改善案を企画書にまとめてプレゼンテーションを行った。慣れてきたところで「伝言システム」以外の任意のテーマについても同様の練習を反復し課題発見力と解決策を考察する力を鍛えた。
◆サンプルコードの改造でMonacaに慣れる
次のステップでは、JavaScriptの基礎習得とMonacaの開発に慣れることを目標に公式テキストやサンプルコードを使った実習を行った。MonacaのWebサイトから入手できる「おみくじアプリ」などをダウンロードして改造することで効率良く学ぶことができたという。
◆基本設計とプレゼン大会
Monacaに慣れてHTML/CSS/JavaScriptの基礎を学んだら、いよいよアプリ開発だ。生徒それぞれがMonacaで制作したいアプリを考え、基本機能をまとめてプレゼンテーションを行った。例えば、自身のお小遣いの残高を管理するアプリ、食品ロスを課題と捉える生徒は冷蔵庫内の食品の賞味期限を管理するアプリ、ロードバイクを組み立てる際のパーツ選びが煩雑だと感じている生徒は、容易に組み合わせて合計金額を出せるアプリを企画した。一人ひとりが好きなもの、こだわりや興味を持っているものを選び、企画を楽しんでいる様子が伝わってくる。
◆3カ月の開発は1人で取り組み、自分で考え解決する力を育む
制作対象が決まったら生徒はそれぞれ一人で開発に取り組む。生徒らの知識や開発経験には差があり、個々の成長のためにそれぞれにあった取り組みが必要なのだという。他の科目ではグループで協働作業も行うのだが、「情報システム実習」は一人で作りきること、何より自分で考えることを、その過程も含めて重視していると富川教諭は語る。解決できない場合、インターネットで類似するソースコードを探し出すためのヒントを与えることもあるという。教諭のサポートを受けながら解決し、その小さな成功体験が自信や満足感につながり次のステップへと進む力になるのだ。教諭は生徒の状況に応じて丁寧に声かけをしつつ、ファシリテーターに徹して成長を見守った。
「情報科発表会」での展示、他者から認められるという体験
こうして完成したアプリは、年度末に開催される「情報科発表会」に展示・発表される。在校生だけでなく、文部科学省や全国の企業、教育機関からも来賓が訪れ大きな反響があった。生徒は、初めて成果物に対する他者からの反応を得て非常に大きなやりがいを体験する。アドバイスや講評を得ることで改良への意欲も芽生える。普段は寡黙な生徒も、自分のアプリについて説明するなど表現への情熱が見られることもあるという。
藤田豊 定時制課程副校長は、「SPHによる『情報システム実習』の取組により、生徒一人ひとりのアプリ制作へのハードルが下がった。生徒たちは、思いを容易に表現できるツールを得ることで、アプリ制作に熱心に取り組めた。発表会等で、アプリ制作の過程などを話す生徒は、キラキラしていた。そして、他者に受け入れられた安心感をもとに、次の学びにつながる意欲が芽生えた。」と生徒の成長を振り返り笑顔を見せた。
情報技術で地域の課題解決を目指したい
SPHでの成果を活かし、2020年度も情報システム実習でMonacaを活用している。今後は上位のレベルにある課題研究というゼミ形式の授業での活用も模索している。地域との協働で、学校周辺の課題解決や地域に喜んでもらえるアプリの企画開発も検討中だという。自分自身の課題を解決するアプリでの成功体験を経た生徒らに、次は第三者の要望に応えることを意識し、使う側から作る側へとステップアップしてほしい、と教諭らの熱い想いは尽きることがない。
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