2023年1月16日
生徒からも信頼が厚い辞書アプリDONGRIと一つにとらわれないICT活用/桜花学園高等学校
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生徒1人1台端末の導入と並行して、学習支援サービスや校務支援システムなどの活用が各学校の特色や方針によって進んでいる。桜花学園高等学校(愛知県名古屋市)では、教員も生徒も“使いやすいものを使ってみよう”という柔軟なスタンスでICT活用に臨んでいる。使いやすさとシンプルさが魅力の辞書アプリDONGRI(イースト提供)もそうした理由から採用し、利用を開始してから4年になる。ICT全般とDONGRIの活用法について、市田圭教諭(英語科・高校1年担当)と久保田将之教諭(国語科・高校2年担当)に話を聞いた。
100年を越える伝統校の不易流行
桜花学園高等学校は、1903(明治36)年に設立した桜花義会看病婦学校を前身とする女子校。「心豊かで気品に富み、洗練された近代女性の育成」を建学の精神に、「感謝」「規律」「奉仕」「努力」の四訓を掲げ、創立以来、女子教育に徹している。近年は、歴史を積み重ねたバックグラウンドとともに令和時代の多様性を実現するため、新たなビジョンに「共創」「グローカル」などを融合し、時代に即した教育活動を実践している。
現在の全校生徒はおよそ1000名。特進コース、国際キャリアコース、保育コースといった、それぞれに特化したコースを有しており、部活動も盛んで、バスケットボール部やハンドボール部はじめ文化部なども全国大会を制する優秀な成績の数々を収める活躍ぶりだ。
使いやすくてシンプルな辞書アプリDONGRI
同校は2019年度から生徒1人1台端末にiPadを導入。それを機に学習支援に関するツールを端末に集約していった。
iPadを共通で導入してはいるものの、教員も生徒もデバイスやアプリなど一つのものにとらわれることなく、使いやすいものを幅広く取り入れ、希望があれば活用できるようどんどん整備しているという。
それまで推奨してきた電子辞書に代わるものは何か、 OSに内蔵されている辞書は使いやすいかなどを議論の末、信頼ある辞書を独立したアプリで利用するのが良いだろうと判断。iPadと同じく2019年度から辞書アプリDONGRIを導入した。
同校が採用したのは「ウィズダム6辞書セット」。さらに、希望する生徒は「コウビルド英英辞典」も利用している。校内のICT関連を担うICT Solutions代表であり英語科の市田圭教諭は、「シンプルで使いやすいものが良いと考えました。もちろん保護者の負担軽減になる価格も重要です」と、DONGRI導入の決め手を語る。
使うべきところでDONGRIをしっかり活用
授業ではできるだけDONGRIを使うという市田教諭。英単語の学習には無料で使えるサービスもさまざまにあるため、それらも使ってよいことにしつつ、「熟語」などでは辞書の活用を促すという。
「熟語や語法を覚える必要がある時にはDONGRIで調べて、例文も一緒に確認しています。辞書の例文をさりげなくテストに出すこともします。答え合わせの時に『実は辞書から出したよ』と言うと、生徒が辞書をより見てくれるかなと少し期待もしています」。
自身も勉強はシンプルにしたいタイプだと明かす。電子辞書と比べると、DONGRIは端末1台で学べるという利便性がある。また、パッと見た時に一気に見渡せる情報量も大事。端末であれば画面も大きくその点でも見やすい。「たとえば、生徒がGoogle Classroomで出された課題に対して文書をタイピングしているような時、画面にそのままDONGRIを出して使えるためとても取り組みやすいようです」。
生徒に辞書を使いこなしてほしいとの思いから、1年生の最初にうちにDONGRIの使い方を伝えている。Webの翻訳も手軽であり利用する生徒もいるが、しっかりと調べる際にはDONGRIを活用している様子が窺えるという。
先日、生徒が無料翻訳サイトを使って英文を書こうとした際、こんなことがあった。ある海外自動車メーカーが、環境に対する意識や行動を変える楽しいアイデアを募集するサイトを立ち上げ話題となった。その一つが、エスカレーターよりも階段を使いたくなる楽しいアイデアだ。生徒にも「階段の使用を推進する」アイデアを考えてもらい、英語で紹介する活動を行った。その際、無料翻訳サイトを利用した生徒が「階段を使うように呼びかける」を「call to use the stairs」と表現。これを見た市田教諭は、「この場合、callよりも適切な訳語がありそうだね」と声をかけつつ、「利用するように伝える」「使うように説得する」とヒントを出して(「呼びかける」を別の表現に換えて)DONGRI(ウィズダム英和辞典)で調べるよう促した。生徒が“tell” ”promote” ”persuade”といった適切な動詞を見つけることができたところで、“persuade人to do”の語法を生徒と一緒に確認したという。
「Webで調べることを禁止するわけではありません。しかし辞書であれば正しく、幅広い情報を得られると生徒には折に触れて話しています。Webを使ったらちゃんと辞書で見直すようにと」。辞書の使いどころが生徒も身についているようだ。
辞書を使う必然性を感じ取れるように
研究職の経歴をもつ国語科の久保田将之教諭も、授業でICTを多用しているという。DONGRIは授業で必ず使い、難しい語句など毎回プロジェクターに映して生徒と確認している。
「今日は『卒然』『頗る(すこぶる)』を調べました。夏目漱石の『こころ』です。調べた言葉を、スクリーンに拡大して明確に提示できるのが辞書アプリの良いところ。画面に映しながら私が解説をすることで、生徒は目と耳で語彙の理解を深められます」。
国語科でも学年の始めに辞書指導を行うという。1年生では一般的な辞書の使い方を身に付けること、2年生では辞書の使用場面を広げることを目的とした授業を行っている。2年生の授業で使用した教材は、教科書中の「実用の文章」だ。これは、新聞や雑誌など、日常的に接する文章を正確に理解するための学習で用いられる単元であるが、久保田教諭は、辞書指導に打ってつけな単元だと話す。
今回は、柳宗理著「注連縄」(第一学習社『高等学校 改訂版 現代文B』 220-221頁)を扱った授業実践について聞いた。これは、注連縄(しめなわ)が日本文化の源泉であることを説くエッセイだ。見開き1ページに収まる文量は読みやすい一方、日本文化の起源と特質が硬質な語彙で記されている点には読解の難しさがある。例えば「具現化」「シャーマニズム」「不浄」といった抽象的な語には、多くの生徒が読み取りに難しさを感じたことが伺える。そこで久保田教諭はDONGRIの使用を促した。
「『実用の文章』は新聞のコラムのような内容で、いろいろな言葉が使われ、その文体も様々です。普通の辞書に載っていなかったり、DONGRIで調べても少し理解が難しかったりする言葉があるときは、Webのフリー百科事典などを見るよう伝えます。辞書を使う必然性がある教材を選び、分からない語句を調べる際の段階を示すことで、辞書がものを調べる際の入り口となるよう指導しています。」と久保田教諭は語る。
1学期の最終日、「iPadのアプリを全部使ってみよう」という授業を行った際のこと。生徒にアンケートを取ったところ、数あるアプリの中でもDONGRIだけは「絶対に必要」との声が多く寄せられたという。辞書の必要性と、辞書アプリとしての信頼性の高さ。DONGRIは生徒からも好評を博しているようだ。
「ICT×辞書」で言語力の深化を図る
市田教諭は、言語の学習サービスがさまざまに提供されている中、それだけではどうしても「足りない部分」が出てくると指摘する。だからこそ、その部分もしっかりと補っていくことができる「辞書」に意義があると説く。単調な選択肢による問題などの情報に頼り過ぎると、本来、単語が持ち合わせる複数の意味やイディオムなどに理解が追いつかなくなったり、取りこぼしたりすることもあるだろう。ICTが便利な反面、辞書ならではの価値を大切に、今後も授業でDONGRIを多用していきたいと語る。
久保田教諭も、「辞書がなくてはどうしようもない」と語る。久保田教諭が便利でよく見るというDONGRIの「閲覧履歴」。調べた数だけ言葉がズラリと並ぶ。紙の辞書とは異なるICTならではの効用の一つと言える。見返すことで、授業内容を振り返ったり、生徒のつまずきの傾向が見えたり、テスト作成の参考にもなる。クラス間の各授業の共通性を保つのにも役立てられるという。閲覧履歴は学びの足跡そのもの。生徒自身にとっても語彙の強化など効果的に活用できるだろう。
受け継がれてきた伝統に新しい学びを共存させ、教育のアップデートを重ねている同校。今後も一つにとらわれないICT活用と辞書アプリDONGRIの巧みな使いこなしで、学びの深化を図っていく意向だ。
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