2019年4月17日
アナログ派の塾長さんへ、ICT導入「諦めてる?」「焦ってる?」
学校のICT化はなかなか進みませんが、学びのICT化は急激に進んでいます。特に私学や通信教育、学習塾や進学塾などではICTの活用が当たり前のようになってきています。しかしそれは大手のこと、中小や個人塾などでは簡単に生徒全員にタブレットPCを配付したり、ICTを活用した塾運営などは導入できません。「もうやらない」と諦めるか、「何でもいいから始めよう」と焦るのか。この記事を読んでからしてください。実際に中堅の塾でICTを導入した経験者のアドバイスです。
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業界誌をひらくと毎月のように目にする「ICT」の文字。導入塾で生徒数が増えた、利益が上がったといった記事を読んで「ウチでもICTを導入しないと時代に乗り遅れるかも…」と不安を感じている塾経営者も多いのではないでしょうか。
でも、スマホとかタブレットとか、デジタル系は苦手で・・・そんなアナログ派の中小・個人塾の塾長のために、学習塾としてどのようにICTと付き合っていけばいいかをお話します。
そもそもICTってなに?なぜこんなに騒がれているの?
ICT(アイシーティー)は「Information and Communication Technology」を略した言葉、日本語にすると「情報通信技術」となります。ひと昔前まではパソコンやインターネットのことを「IT(アイティー)」と呼んでいましたが、基本的に同じものだと考えて差し支えありません。
新たに加わった「C」は「コミュニケーション」を指しています。最近の若い人たちにとって、インターネットはただ情報を集めるだけの道具ではありません。Twitterやインスタグラムなどを通じて、世界とつながるコミュニケーションツールとなっています。そして、その変化の要因を作ったのがスマートフォンやタブレットの出現です。
2010年にiPadが発売されて以来、教育の世界でも「タブレットで学びが変わる」と唱える人が出てきました。子供でも使える直感的な操作性、パソコンよりも比較的安く購入できることが、教育活用への期待につながっていったのです。その頃から、従来のコンピュータールーム(CALL教室)のパソコンをタブレットに切り替える学校や自治体が出てきました。
また、文部科学省が主導する教育改革の流れも後押しになっています。2020年度から施行される新しい学習指導要領に、「主体的・対話的で深い学び」いわゆる「アクティブ・ラーニング」が謳わるようになったのはご存知の通りです。この「アクティブ・ラーニング」を実現するにあたって、タブレットをはじめとするICT機器はとても相性がいいツールと言えます。
都内の私立中高一貫校を中心として、生徒たちに1人1台のタブレットを持たせる学校も増えてきました。中には「アクティブ・ラーニング」だけでなく、個々の生徒にあった学習を可能にする「アダプティブ・ラーニング」(適応学習)に力を入れている学校もあります。このようにタブレットなどのICT機器を活用した教育手法は、いつしか「ICT教育」と呼ばれるようになりました。
塾も学校と同じようにICTを導入していけばいいの?
そんな広まりを見せるICT教育ですが、学習塾ではどうなっているのでしょうか。かつてパソコンが一般の家庭に広まった頃、学習塾はいち早く導入を進め、学校より先行して活用してきた歴史があります。しかし、これだけ騒がれているにも関わらず、タブレットを導入して成功している塾というのはほとんど聞かれません。そこには、学校と塾とのちがいが大きく関係しています。
「アダプティブ・ラーニング」(適応学習)を例に考えてみましょう。この記事をお読みの方の中には、個別指導塾の塾長も多いと思います。また集団授業塾であっても、個別指導コースや高校生向けに映像授業コースを併設している塾は少なくありません。わざわざタブレットを導入せずとも、学習塾ではすでに個に対応した学習環境が備わっているわけです。
さらに、顧客である保護者が塾に求めているものも学校と塾とでは異なります。例えば、「反転授業」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。これまで授業中に行なっていた解説授業(インプット)を、映像教材などを使って家庭で学習、学校ではグループ学習などのアクティブ・ラーニング中心の授業(アウトプット)を行うという教育方法です。
学校で「反転授業」が進んでいった場合、なかには「インプット」がうまくできず、授業についていけなくなる生徒が出ることが予想されます。そんな生徒が塾の門戸を叩いたときに「うちは反転授業を取り入れているので基本的な知識は家庭学習で」と言えるでしょうか。塾に対して顧客が現状求めているものは、家庭学習の補完・サポートです。最先端の学びであっても、顧客が買ってくれないことには塾の経営は成り立ちません。
個人塾の塾長がとるべきICT戦略「3つの選択肢」とは?
それでは、個人・中小の学習塾の場合、どのようにICTと付き合っていけばいいのでしょうか。3つのパターンに分けて考えてみたいと思います。
パターン1:学校の真逆の道を行き、超アナログ塾をめざす
学校でICT導入が進めば、インプットを中心としたアナログ型の授業を求める顧客が増えるはず。だから、これまでどおりICTなど一切使わずにやっていった方がいい・・・たしかに一理ありそうです。短期的にはうまくいくかもしれません。でも5年後、10年後を考えたならば話は変わってきます。いま国が掲げている入試改革が進めば、顧客が塾に求めるものも変化することでしょう。そのときになってあわててICTを導入しようとしても間に合いません。
パターン2:ICTをガンガン使って、他塾との差別化をめざす
逆にICTを積極的に取り入れて時代を先取り、PR効果もねらって生徒増をはかるのはどうでしょうか。たしかに成功を収める可能性もゼロではありません。一方でリスクも大きくなります。学校で1人1台のタブレットを導入する場合、入学時に家庭負担で購入してもらうのが一般的です。しかし、塾で同じことができるかといえば簡単ではありません。塾側で生徒数に応じたタブレットを用意するだけでも、それなりの投資が必要となってきます。
パターン3:段階的なICT導入を進めながら市場動向を見るバランス型
従来の顧客ニーズに合わせた授業スタイルを続けながらも、部分的にICT導入を進めていくパターンです。これまで顧客に評価されてきたアナログ的な強みはさらに磨きつつ、一方でこれからの市場の変化に遅れることがないよう備えていきます。自分が売りたいものではなく、顧客が求めるものを提供していく。個人・中小塾にとっては、もっとも現実的な選択肢と言えるのではないでしょうか。
失敗しないためのタブレット導入。そのポイントとは?
まず導入するタブレットですが、現状ではiPadがおすすめです。セキュリティや使い勝手という点では、Androidの比較になりませんし、長期的に使うことを考えると、故障も少なく資産価値が減りづらいというメリットがあります。まとまった数のiPadを導入するのであれば、買い取りよりもリースやレンタルの方が有利になる可能性がありますので検討してみてください。
次に活用方法ですが、ファーストステップとして、講師用のiPadとプロジェクタを使った「プロジェクタ投影型の授業」に切り替えてみてはいかがでしょうか。iPadは最も安いモデルでも1台4万円程度。生徒用を20人分揃えるとなると、それだけで80万円の投資が必要になってしまいます。でも、講師用のiPadとプロジェクタであれば、1教室10万円程度からはじめることができます。
しかも板書時間の圧縮、画像・動画を取り入れた授業による理解度アップなど、従来型の一斉授業スタイルでも着実な効果が見込めます。もし費用がかけられるようであれば、天吊型か壁掛け式のプロジェクタにして、無線での接続にすると、ケーブルがじゃまにならず使い勝手が格段にアップします。
【参考記事】まずはプロジェクタ投影から!一斉授業でタブレットを活用しよう
「プロジェクタ投影型」の授業も進み、講師がiPadの使い方に慣れてきたならば、生徒たちにiPadを持たせた授業を試してみてもいいでしょう。例えば「アクティブ・ラーニング型の授業に挑戦したい」ということであれば、まず小学生向けの英語の授業から始めてみるのがおすすめです。
リスニングやスピーキングなどの音声を伴う授業では、タブレットが抜群の効果を発揮します。いわゆる4技能に対応した英語授業を実施する上で、ICTは不可欠なツールと言えるでしょう。また、いきなり本科の授業を変えるのではなく、イベント講座や季節講習などで実験的にはじめてみるのもいいかもしれません。
ICTは成績アップ・生徒増につながる魔法の道具?
業界誌の記事を読んでいると、あたかもICTが「魔法の道具」のように見えてくることがあります。でも、あれだけ「ICT教育」に誌面が割かれている裏には、雑誌を支えるスポンサーの存在があるのはご承知の通り。もちろん有用な情報もありますが、すべてを鵜呑みにするのは危険です。ICTはあくまで目的を達成するためのツールに過ぎません。「成功」をめざすのではなく「失敗しない」こと。これこそが、個人塾の塾長がICTとうまく付き合っていくための一番の秘訣ではないでしょうか。
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