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2023年2月9日

自由進度学習「YST」と好相性の「Qubena」 児童自ら学びをデザイン/名古屋市立山吹小学校

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小学生が、自らの学びを自らコントロール

ある児童がクラスメイトたちに呼びかける。「みんなー、少しうるさくなってるよ。もう少し静かにやろう」。名古屋市立山吹小学校で実施されている、YST(山吹セレクトタイム)の一コマだ。児童らはこの授業中、自分で設定した教科と課題を、好きな場所で、好きな方法で取り組む。一人で黙々とやっても良いし、友達と教え合ったり、競ったりしながら取り組んでも良い。

驚くのは、これが小学3年生の児童から自発的に出た言葉であるということだ。誤解を恐れず言えば、こうした発言は、「いい子ぶっている」として友達から敬遠されかねない年頃である。しかし、周りの児童たちにそんな様子はまったくない。子どもたちが自ら学習をコントロールしようとする、理想的な学びへの向き合い方がそこにはあった。学びの主体は自分たちにあることを、児童自ら体現して見せていたのである。

名古屋市立山吹小学校

自由進度学習のYST(山吹セレクトタイム)で児童が変わった

YSTは、同校が2020年度から取り組み始めた自由進度学習の通称だ。自由進度学習とは、文字通り学習者が自分に合ったペースや方法を自由に決める学びのスタイル。自己調整学習の一つで、近年高い注目を集めつつある。

山内敏之校長

同校の山内敏之校長は、「イエナプランとの出会いがYST導入の大きな契機になった」と明かす。「それまで、子どもたちにとって勉強は『やらされる』ものでしかありませんでした。しかし、イエナプランのブロックアワー(子どもが自ら立てた学習計画に基づいて学びを進める学習)で、目を輝かせながら学ぶ彼らの姿に衝撃を受けました。私が教員としてずっと目指していた、しかし実現できていなかった光景を目の当たりにしたからです」。

イエナプランはドイツ発祥の教育手法。子どもの個性を尊重しながら自立的・協働的に学ぶことが特長で、YSTもそのエッセンスを踏襲している。山内校長は言う。「同じ年齢の子たちが、同じ内容を、同じペースで、同じ方法で学ぶ……明治以来、150年続いてきた日本の教育システムです。しかし、習熟度の違いへの対応にはずっと苦慮してきました。加えて、常に他の子と比較される環境にもなるため、自己肯定感を下げてしまう子もいます。もう、これを変える時期に来ていると思いますし、そのためのYSTでもあるのです」。

何のために学ぶのか、どんなふうに学ぶのかを大切に

YSTの時間には、学年や時期に応じて週に5~10コマが割り当てられている。児童らは、国語・算数・理科・社会・生活の中から、取り組む教科と学習内容を自由に選ぶことが可能だ。

実施にあたっては、まず教員が1週間の学習の予定にあたる「週計画」と、各教科の「単元進度表」を作成。単元進度表には、目指すゴールや使用できる教材などが幅広く設定されており、児童が自ら選択できるようになっている。例えば算数では、目指すゴールに応じて教科書・プリント・Qubenaなどのデジタル教材から選ぶことができる。

次に、児童らは週計画と単元進度表をもとに、その週の時間割を自ら計画する。最終的に目標達成できていれば、ペースの設定も自由だ。もちろん教員もアドバイスなどを行うが、あくまで学びの主語は児童。教員は伴走者として、そのサポートや軌道修正に徹するスタンスと言えるだろう。最後に成果物を確認し、ルーブリックなどを用いてPDCA的に振り返りを行う流れだ。

ここでポイントとなるのは、単元進度表を示す際に「学びの価値をインストラクション」する過程があることだ。その単元で学ぶ内容と日常生活のつながり、身に付く力などを示して意欲を高め、動機付けを行う。また、振り返りの時間を中心に、学習の心構えや学びのバランスのとり方などを示すことも特長だ。何を学ぶかではなく、どう学ぶかという「学び方」のレクチャーである。

こうした環境が生徒の主体性を引き出すのだろう。冒頭の児童のように、自分に最適な学びの環境を自分で創造しようとする子どもたちが育っているのだ。

YSTの週計画と単元進度表の概念図

教室のいたるところに「学び方」のヒントが掲示されている

「学びの主体」を子どもたちへ

しかし、いわゆる個別最適な学びであるため、教員の労力や理解度の把握という点で課題もあったのは事実だ。

YSTの授業を実施中の成田教諭

同校で5年生の担任を務める成田真也教諭は言う。「子どもたちがそれぞれの単元においておさえるべきところをおさえているか、理解度をはかることが大切です。その上でどんな学びを進めていけば良いか、振り返ることができます」。

学習データの蓄積や管理も可能なQubena

そこで同校が活用しているのが「Qubena(キュビナ)」だ。QubenaはCOMPASSが提供するAI型ドリル教材で、2022年9月から学習eポータルとしてのサービスも展開を始めた。学習者が解いた問題の正誤をもとにAIが間違いの原因などを解析し、個々に最適な問題を出題できるようになっている。漢字の書き取りや英単語の筆記、コンパスや分度器を使った作図などに対応していることも特長だ。また教員用のQubenaマネージャーでは一人ひとりの学習状況やクラス全体の理解度を見取ることができる。これにより、劇的に環境が変わったと言う。

「子どもたちが自分で学習計画を作るまでは良いとしても、理解度の確認はやはり関門でした。以前はチェックテストを作成していましたが、まずその負担がなくなったのは大きいです。何より、教員側が『この問題を出したいな』と思うところを、狙ったように押さえてくれるのでいいですね。自由進度学習とQubenaは、極めて親和性の高い組み合わせだと思います」。

特に、低学力層をいかに取り残さず、かつ主体性を奪わないかにはいつも腐心してきたが、その懸念もなくなった。また、反転授業を取り入れ、予習の教材としてもQubenaを活用している。当該教科・単元を苦手とする児童が、事前にそれを克服した状態で授業の導入を行えるようにもなったと言う。

「令和の日本型学校教育」をすべての学校で そのためにICTは不可欠

2021年まで同校に教諭として勤務し、YST実践の旗振り役となった岩本歩氏(名古屋市教育委員会)は、胸を張ってこう語る。「子どもたちは、自分で決めた目標を『守りたい』『達成したい』という気持ちを(本能的に)持っています。学ぶ力はあるわけですから、私たちがやるべきは『学び方』を教えること。それがYSTです」。

YSTでQubenaを活用する児童ら。正誤に友達と一喜一憂

山内校長も「『令和の日本型学校教育』でも示された『個別最適』で『協働的』な学びという2本の柱を、普通の公立学校で、すべての子どもたちに、すべての教員が実施できるようにしたい。これを一体化して充実させるにはICTが不可欠です」と述べる。

同校のYSTおよび自由進度学習のさらなる波及は、Qubenaという推進力を得て、ますます加速しそうだ。

関連URL

Qubenaの事例紹介まとめページ

名古屋市立山吹小学校

ナゴヤ・スクール・イノベーション

「Qubena navi」

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