2017年8月14日
Win10、読むことに困難のある児童生徒に向けたアクセシビリティ
ユニバーサルデザイン(UD)という概念が近年ではすっかり浸透してきている。では、アクセシビリティはどうか? ICT機器に馴染みのある人には理解が早い言葉かもしれない。
日本マイクロソフトは8日、障がいや病気による困難を抱える児童生徒の進学や就職をITで支援する団体であるDO-IT JAPANの夏季プログラムを品川本社で開催。あわせて、「UDデジタル教科書体」、音声読み上げソフトの「WordTalker」、「AccessReading(オンライン図書館)」の紹介を行った。子どもたちの体験の様子とともに取材した。
Windows 10の Fall Creators Updateに「UDデジタル教科書体」が標準搭載される。日本マイクロソフトの春日井氏は、その理由を「より読みやすい日本語環境をお届けする」ことと「日本ICT教育への貢献」と説明した。
「UDデジタル教科書体」は、学習指導要領に基づいた字体・字形を念頭にデザイン。たとえば、「はらい」や「とめ」など細かい部分も正確な表現がされており、教えやすさにもメリットがある。
Fall Creators UpdateをOSにすれば、同書体が使える環境になることが最大のポイント。書体をわざわざインストールしたり、著作権の有無に注意したりする必要がない。さらに、Fall Creators UpdateはEPUB(電子書籍のフォーマット)にも対応。今後、電子教科書の配布という場面でEPUBの利用機会も増えるだろう。その際に「UDデジタル教科書体」を指定すれば電子教科書にも利用できる。
UDで教科書体をリリースしているのは、現在、モリサワのみ。「名前のとおり、電子黒板やタブレット端末などにも効果的な書体です」とモリサワの橋爪氏は解説する。
見えないわけではないけれど、読むことに不自由さを感じている人(ロービジョン)や、一般的な理解能力などに特に異常はないが、読み書き学習に困難を抱える障がい(ディスレクシア)に配慮したデザインであり、ロービジョン研究の第一人者である慶應義塾大学の中野泰志教授によるエビデンスを取得しているのが特徴と述べた。
イーストの柳氏からはWord文書を読み上げる「WordTalker」が紹介された。Wordにアドインでインストールすることで使用できるソフトだ。利用対象はディスレクシアの人や文字が見えにくい一般の人など。また、「障害者差別解消法」が2017年4月から施行されているので、教育機関・公共団体・企業など合理的配慮を必要とする法人などにも備えとして活用できると説明した。
Windowsに標準搭載の合成音声(TTS)を利用して読み上げる仕組みで、最大の特徴は、読み上げ箇所がハイライトで表示されること。自分が読んでいる部分が一目瞭然で、色もカスタマイズできる。「UDデジタル教科書体」の利用でさらに見やすく、後述の「AccessReading」との連携も可能だという。「AccessReading」の利用者は無償で利用できる。
DO-IT Japanを手がける東京大学先端科学技術研究センターの近藤氏からは「AccessReading(オンライン図書館)」が紹介された。
2007年にスタートし今年11年目を迎えるDO-IT Japanは、同センターが中心となり運営、日本マイクロソフトはスタート当初から共催している。
DO-IT Japanは、障がいや病気のある学生の進学と就労への移行支援を通じ、将来の社会のリーダーとなる人材を育成するためのプロジェクト。「テクノロジーの活用」を中心的なテーマに据え、「セルフ・アドボカシー(自己権利擁護)」「障害の理解」「自立と自己決定」などに関わる活動を行っている。
現在、DO-IT Japanには、読むことが困難な子どもたちが多く参加しているという。学校に行くと紙の教科書しかない。そのデータファイルが入手できるかというと著作権等の壁で子どもたちに届かない問題があった。そこで、「AccessReading」を同センターで開設。著作権を問題なくクリアした形で、小・中・高校すべての検定教科書を対象に電子データをオンライン配信している。
クラウド上でユーザーのみがアクセスでき、年間450冊ほどの教科書を電子化したファイルを、iPad等のアプリで利用できる「EPUB」とWordで利用できる「DOCX」の2種類の電子データで配布。読むことで特別支援を受けている子どもたちやその保護者などが利用できる。
この日公開されたのは、DO-IT JAPANの夏季プログラム。会場に向かうと20名ほどの中高生が、文字の配色や行間など見やすさを調整するといった演習に取り組んでいた。
高校3年生のRさん(女性)は、ノートPCを昨年、iPadを今年購入、「AccessReading」は今年7月に申請したという。
文字の調整では、「これなら見やすいなと思ったのが、原色の反対色を重ねること、たとえば原色の青と赤みたいに背景が濃くて文字も濃くてといったような色のバリエーションがあるといろいろできていいなと。普段、スマホで色反転を使っていて、長く使うと疲れますが、瞬間的に見るには一番見やすいんです」。
「いつも紙媒体を読むときにはこうやって見ます」と持参の拡大鏡をカバンから取り出し再現してくれた。「でもこうしてICT機器を使うと便利で、もう紙で文字を見るのはちょっと(笑)。PCなら自分に合った調整ができるし、私、整理も苦手なのでPCがあると本当にラク。Wordでも使えることを今日知れて良かったです」。勉強や趣味でも活用できそうか尋ねると、「ずっと使えそう。もう離れられない(笑)」と安堵した表情が印象的だった。
日本マイクロソフトの大島氏は、アクセシビリティについて「アクセスのしやすさ」と解説。この日紹介された「読むことに困難のある児童生徒」へのアクセシビリティも、「読めないことでテストで点数が取れない=勉強ができない」とされていたのが、読むことは難しいけれど、テクノロジーを活用することで内容の理解ができ、良い成績を取れることがDO-IT JAPANの活動で実証できていると語った。「AccessReading」で電子教科書などが入手でき、「UDデジタル教科書体」で読みやすく、読み上げしたい人は「WordTalker」を使うという一連の流れが実現した。
テクノロジーの発達によって、それまで難かしかったことができるようになり、進学や就労の可能性が広がっている。誰にとっても使いやすいアクセシビリティとその利用が、社会に浸透していくことがますます期待される。
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