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2017年9月27日

「iPad×Ruckus無線LAN」ICT教育環境整備で21世紀のまちづくり/伊那市

「iPad×Ruckus無線LAN」ICT教育環境整備で21世紀のまちづくり/伊那市

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長野県伊那市。2006年、伊那市、高遠町、長谷村が合併した人口約7万人のまち。東に南アルプス、西に中央アルプスという二つのアルプスに抱かれ、その間を流れる天竜川や三峰川沿いには平地が広がる自然豊かなまち。市内を南北に走る中央自動車道や国道153号などの幹線道路が整備され、東京・名古屋のほぼ中間に位置していることから、商工業にとって優良な立地条件だという。

取材した東部中学校

取材した東部中学校

長野県の市町村として3番目の面積を誇る伊那市は、都市部から山間部まで環境の違いが大きい。市内に21校ある小中学校でも、県内最大の生徒数900名近い東部中学校から、全校生徒40名足らずの新山小学校まで様々。山間部では少子化、高齢化、過疎化が進み、学校の統合か存続かが話題になる。伊那市では、山間地域の存在価値を下げないためにも学校を存続させる方針を掲げている。そのための重要な手段として、ICTの活用がある。

学校と学校を結んだ遠隔授業はもちろん、協働学習、教材開発、伊那市を飛び出して日本、世界との交流、そして学校や教育現場を越えて伊那市の21世紀のまちづくりまで視野に入れたICT活用を目指している。

ICT活用教育を積極的に進める、伊那市教育委員会の竹松政志さんと、東部中学校の足助武彦教諭に話を伺った。

スモールスタートから未来を見据えた取り組みを

伊那市では2014年、iPad300台の導入を決めた。導入検討を始めたきっかけは、PC教室の機材更新だった。タブレットだと動画や写真の撮影が容易にできて、授業での多彩な活用も可能だ。それに、PCに比べて廉価だというのが決め手になったという。タブレットを導入するなら当然、無線LANも必要になる。最大の課題は予算確保。全校全教室一括配備、などという大胆な政策を実施できる自治体はほとんどないだろう。

だから、無線LAN導入と予算は切り離せない関係にある。しかし、無線LAN導入で失敗するケースの多くが、価格で決めてしまうことだ。

伊那市教育委員会 竹松政志さん

伊那市教育委員会 竹松政志さん

無線LAN導入に当たり教育委員会では、AP(アクセスポイント)の評価テストを実施した。評価テストについて竹松さんは、「コストパフォーマンスを検討するために、候補に挙がったAPの評価用機器を借用して、評価テストを行いました。ここ東部中学の理科室に設置して、校内各所で受信してみました。その中で、理科室から別棟の職員室まで届くものがありまして、それがラッカス(Ruckus)のAPでした。よく届くなあ、という印象でした。自治体ですから入札を行わなければならないですが、参考機種として性能レベルの基準としました」と、ラッカスが採用された経緯を説明してくれた。

教育情報化コーディネーター 竹生秀之 氏

教育情報化コーディネーター 竹生秀之 氏

伊那市の無線LAN導入に当たりアドバイザーを務めた、教育情報化コーディネーターでテイクオーバル代表取締役の竹生秀之氏は、「今の社会は、どこへ行ってもネットに繋がるのが当たり前です。家でも職場でも街角でも。自由にアクセスできないのは学校の中くらいです。そんな状況ですから、ICT導入時に無線LANをどうするかは大きな課題です。とにかくインフラが繋がることが基本です。予算の問題などでスモールスタートするケースは多いですが、重要なのは目先の要件だけを考えるのでは無く、少なくとも5年後の将来を見据えて取り組むことです。アクセスポイントの性能や価格はもちろんですが、設置費用の多くを占める配線にも気を配らなければなりません。場合によっては初期工事で拡張時を想定して2回線引いておくとか」と、拡張やバージョンアップを念頭に置くことが大切だという。

伊那市の導入初期はPC教室の更新というのが前提だから、無線LANもPC教室だけという計画を進めていた。しかし、せっかくタブレットを使うのだったら普通教室でも使いたい、という要望などもでてきて、「積極的に使う学校は、PC教室以外でも使えるように検討してみようか」と、竹松さんたち教育委員会を動かしたのだという。

東部中学校 足助武彦 教諭

東部中学校 足助武彦 教諭

足助教諭は当時を振り返って、「東部中では、理科室で使いたいという要望があり、PC教室と同時に設置しました。その様子を見ていた先生たちが、自分たちも使いたいと言い出しまして、総合的な学習の時間の“クラスの取り組み”で使いたいとなり、そうなると普通教室で使えないといけないですし、理科室に行って他の教科の授業をやるわけにもいかないので、普通教室でも使えるようにと要望しました」と話す。

普通教室の無線LAN設置といえば、1教室AP1台が基本だろう。しかし、各教室への配線やAPの設置台数を考えると出費は大きい。また、まだ児童生徒1人1台iPadになっているわけではないので、全教室同時に使用するわけでもない。

廊下に設置されたラッカスのAP

廊下に設置されたラッカスのAP

そこで考えたのが、校内どこでも無線LANが使用可能な配線を行い、APは必要に応じて移動する、というもの。利用頻度の多い教室のフロアーの廊下に2~3台APを設置して、教室をカバーする。「よく届く」ラッカスのAPだから可能になったアイデアだという。

「生徒会の子どもたちが使いたいと、放課後に貸し出して持ち歩いていろいろなところで使っています。APの設置していない体育館でも使えたとか。小さな小学校だと、校庭でも繋がるということで理科の観察などに利用しているという報告もあります」と、足助教諭。

ラッカスのAPはなぜ「よく届く」のか

なぜラッカスは「よく届く」のか。
ラッカスのテクニカルディレクター小宮博美さんに訊いてみた。

ラッカス テクニカルディレクター 小宮博美 さん

ラッカス テクニカルディレクター 小宮博美 さん

ラッカス無線LAN AP(アクセスポイント)の最大の特徴は特許技術のBeamFlexで利用されている「Ruckusビームフォーミング」だという。「Ruckusビームフォーミング」とは、APがクライアント(利用端末)を見つけるとその方向に向かって電波を絞り込む機能のこと。APから放出される電波は一般的に360°方向に平均的に出力される。満遍なく行き渡るかわりにパワーは薄まってしまう。

「Ruckusビームフォーミング」では、クライアントを見つけると電波の方向を絞るのでクライアントは強い電波として受信が可能になる。つまり、届きやすいということだ。さらにBeamFlexにはクライアントの移動を追跡する機能もあるので、タブレットを持ち歩いても最良の通信状態が維持される。

また、クライアントと通信するときは直進方向だけでなく反射を含むあらゆる方向をスキャン(最良ルートの探索)する。だから、APとクライアントの間で最も強く速く結ばれるルートを見付けだして繋ぐ。教室の隅のクライアントも見逃がさないのだ。

「Ruckusビームフォーミング」の解説図

「Ruckusビームフォーミング」の解説図

ラッカス無線LAN APの重要な特徴として小宮さんはもう一つ「Airtime Fairness」を挙げた。

移動可能なラッカスのAP

東部中の移動可能なラッカス AP

「Airtime Fairness(エアタイム フェアネス)」とは、各デバイスの論理データ速度にかかわらず、接続されているすべてのクライアントが公平に同じ時間のエアタイム(通信時間)を得られるようにするためのラッカスAPの機能のこと。

「伊那市さんのようなクライアントが同一機種、同一性能の場合は問題ないのですが、大学などでBYOD(個人所有端末持ち込み)を導入している場合、タブレットだったりノートPCだったり、スマホだったりデバイスがバラバラなことがあります。そんな時、古い機種や性能が劣る機種があるとその機種の通信で時間が取られてしまい、他のデバイスまで遅く感じたり繋がりづらく感じてしまいます。そうならないように公平に通信時間を割り当てるのが“Airtime Fairness”です」と小宮さん。

1人1台iPad環境

無線LANが支える1人1台iPad環境

伊那市では今年、450台のiPad追加導入に合わせて30台のAPの増設を行った。もちろん「よく届く」ラッカスのAPが選定された。

伊那市の無線LAN管理について竹生氏は、「なにかトラブルがあると“無線が繋がらない”からはじまるが、実際に検証してみると他の要因で繋がらないことが多いです。伊那市の場合には、全部の学校がひとつのネットワークで繋がっているので、AP全体を教育委員会に設置したラッカスのコントローラーで一括管理することができています。現在96台を管理していますが、これまでトラブルはありません。ただし、設置場所を変えるために移動中のものが認識されないということはあったみたいですね」と笑顔で語った。

ICT活用教育で目指す伊那市の未来

伊那市と教育の未来について竹松さんは、「伊那市では、新産業技術推進としてIoT、スマート農業、ドローン、そしてICT教育を柱に掲げています。人口減少対策、産業振興など様々な課題解決の為にICT教育は欠かせないという認識です。市内21校すべてをネットワークと無線LANで結んで交流することで、学び合ったり、郷土愛を醸成したり。継続的に取り組んでいるネットワークを使ってプレゼンし合う交流では、市内だけでなく、国内では三宅島とやったり、カンボジアの学校との交流も実現しました」と、ICTで様々な交流の可能性が拡がると語る。

1人1台iPadでの授業風景

1人1台iPadでの授業風景

市内のICT実証校6校を巡り、プログラミング教育の小中連携に取り組んでいる足助教諭は、「伊那市型プログラミング教育の実現を目指す“プログラミングキャンプ”では、単に2020年からの必修化のためにプログラミングを学ぶだけで無く、IoTでの実用まで考えてて取り組んでいきます。ここの子どもたちが伊那市で生きていく将来のため、小中高、そして大学まで連携して、かれらが伊那市で産業を生み出す2030年まで見据えています」と、長期ビジョンの一端を語ってくれた。

積極的に学びにICTを活用しようという伊那市の取り組みに対して、「伝統的な教育のやり方は不要なのか」といった意見も寄せられるという。伊那市では、信州大学次世代学びセンターと協働で、ICT活用と伝統的学びを結びつけて、教員の研修や機器の検証などしながら「伊那市情報化ビジョン」の策定を進めているという。

伊那市が取り組む、ネットワークを活用した“2020年プログラミング必修化”の先を見据えた「地方発の未来の学び」に今後も注目していきたい。

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