2017年12月18日
私学校長へ まだ間に合う“来年度導入する1人1台端末”は何を選ぶべきか
流行やトレンドでなはなく、教育のICT化は今、真剣に取り組まなければならない重要な課題である。2020年から実施される次期学習指導要領では、テーマとされる「主体的・対話的で深い学び」を実現するためにも、ICTの活用が重要だと示されている。ICT教育の基本は1人1台の情報端末である。では、何を選べばいいのだろうか。
Windows+Officeだけでは乗り切れないICT教育現場
「学校で使うPC(パソコン)?WindowsにOffice入れておけばOKでしょ」
まさかそのような認識の方はいないと思うが、教育現場では今でもサポートの終了した「Windows XP」搭載マシンが現役で頑張っているという話を訊くと、そんな校長もいるかもしれないと思ってしまう。因みに、サポート終了を「修理不能」くらいに思っている人もいるかもしれないが、セキュリティ更新プログラムが提供されないということで、とんでもなく危険な状態にPCを置いていることになる。
いまや教育現場で使用されるデバイス(端末)は多種多様、それらを動かすオペレーションソフト(OS)も様々だ。これまでのように「Windows+Office」で万事OKというわけにはいかない。莫大な予算を投入して揃えた設備、機器が「失敗した~」となることもあれば、高額な負担を保護者に求めてBYOD*にしたのに、「ゲームばかりで勉強に使わない」というクレームの嵐に晒されることだってある。
*BYOD:Bring Your Own Device」(自分のデバイスを持ち込む)の略
ひとまず、私がこの5年間で見てきた教育現場で1人1台情報端末として使用されているデバイスの種類を挙げてみよう。( )内はOSの種類。
<タブレットPC>
・iPad(iOS)
・Androidタブレット(Android)
・Windowsタブレット(Windows)
<ノートPC>
・Windows PC(Windows)
・MacBook(Mac OS)
・ChromeBook(Chrome OS)
<2 in 1>
ノートPCの機能、性能があり、キーボード部分を外すなどしてタブレットPCとしても利用できるタイプ。主にWindowsとChromeBookの機種。
多種多様とか様々とか云ってもこれだけの種類なのだが、どれかを選定しなければならない。では、何を基準にして選べばいいのだろうか。
タブレットとPCは何が違うのか
今私たちの生活に最も近いデジタルデバイスは、スマートフォン(スマホ)である。携帯電話の所有率に占めるスマホの割合は約7割だが、中学生では8割、高校生ではほぼ100%がスマホを持っているという。
スマホはただの電話ではない。インターネットに接続してWebサイトを閲覧できるし、メールもLINEやTwitter、InstagramなどのSNS、写真や動画も撮影出来るし、ビジネスソフトデータの閲覧や編集までできる。それも指先で画面をタッチするだけでできるのだ。
つまり、機能はほとんどPC並なのである。そのスマホから電話機能を無くして、画面を大きく見やすく扱いやすくしたのがタブレットということ。だから、スマホ世代である若者にとってはとても馴染みやすく、使い易いデバイスなのである。
MM総研調べによる2016年国内タブレット端末のOS別出荷台数シェアはAndroidが3年連続で1位を獲得。2位はiOS、3位はWindowsとなっているが、メーカー別ではAppleのiPad(iOS)がシェア42.3%で1位となっている。
つまり、iPadは日本国内で一番多く使われているタブレットということになる。あわせて、同じiOSを搭載しているiPhoneはスマホ・シェアの約5割を締めており、デジタルデバイスとして最も身近で使い慣れているということにある。もちろん、授業で利用できるアプリも充実しているし、バッテリーの持ちが良いという評判もある。
Androidタブレットの一番のメリットは、メーカー数社が競合することによる価格の低さだ。また、機種の種類や価格帯もバラエティーに富んでおり、選択肢が多くなっている。予算が最大の導入障壁となる教育現場では優位性があるだろう。
iPadとAndroidがスマホの拡大版だとしたら、WindowsタブレットはPCのダウンサイズ版といったイメージだろうか。ホーム画面もWindows PCと同じ、普段使い慣れたパソコンの操作やソフトもそのまま使えるというメリットがある。
PCの特徴は、タブレットではできない複雑な作業や高度な処理ができることだろう。キーボードやマウスが使えることも便利だし、プリンターやハードディスク、DVD、USBメモリーなど外付けの機器の接続の容易さも大きなメリットだ。かつて教育現場でシェアほぼ100%といわれていたWindows PCだが、最近ではプログラミングやクリエイティブ作業などを中心にAppleのMac OS PCがPC教室などに設置されるケースもある。またBYODのデバイスとしてMacBook(ノートPC)を利用するケースも見られる。
ビジネスソフトの定番「Microsoft Office」はかつてWindows PCでしか利用できず、Windows PC寡占状態の原因であったが、いまではApple PCでも利用できるようになったので機能格差は減少いたといえる。
さて、米国の教育現場で50%以上のシェアを占めるデバイスがなにかというと、それはChromeBook(クロームブック)である。Chromebookは、Googleが開発しているオペレーティングシステム「Google Chrome OS」を搭載しているノートPC。最大の特徴はすべての作業をWeb上で行うため、本体にはブラウザ以外のソフトウェアのインストールも記憶装置も不要だということ。だから当然、廉価である。日本で米国ほど普及しない原因は定かではないが、「ネットに繋ぐだけで利用できる」というメリットが、「ネットに繋げないと利用できない」というデメリットとして受け止められれているのかもしれない。PCは自分専用、自分だけのものという概念から、利用したいときに利用したい人が安全に使えるPCという概念に切り替えると、これほど便利な端末はないだろう。
小中高で異なる1人1台端末の選定基準
文部科学省のICT環境整備基準では、2020年までに学びの場面で1人1台情報端末環境を整えることとし、最低でも3クラスに1クラス分の端末が必要だとしている。ここでは、そのあたりから全校1人1台までをカバーする前提で話を進めたい。
「どの端末を選ぶか」は「どのような学びを実現するか」と同義語である。機種選定では、「格好いい」「こどもに人気」「価格が安い」「使い易い」など様々要素で検討して良いのだが、「実現したい学びのビジョン」なしで導入しても意義はほとんどない。
予想外に必要になりそうなキーボードのタイピング能力
大学の先生が「最近の学生は、理科系に入学してきてもろくにパソコンのタイピングが出来ない」と嘆く。
でも、学生たちは「高校生のほぼ100%はスマホを持っているし、普段の生活でも授業や情報収集にも使っているし、キーボードよりも文字を打ち込むのだって早い。いずれワープロは音声認識で話せば書ける時代になるのだから、タイピング技術なんてさほど重要な能力だと思わない」というだろう。確かに、科学技術の進歩、とくにAI系の進化の速さを考えれば、キーボードの必要性など無いのかもしれない。
しかしここで、現状でも未来でもない少し先、2020年から教育界で起こる重要な変革に目を向けたい。それは、「大学入試改革」である。センター試験は廃止され、「大学入学共通テスト」が導入される。2020年の変化としては「国語・数学における記述問題」と「英語の4技能評価」。
中でも英語については民間試験の導入が検討されている。採用の前提としては、「現に民間事業者等により広く実施され、一定の評価が定着している資格・検定試験を活用する」としている。何になるかはまだ決まっていないが、CBTが導入される可能性がある。
CBT(Computer Based Testing)とは、コンピューターを利用して行う試験のこと。紙を利用した試験と異なり、受験者ごとにランダムな問題を出せる、利用者の好きなタイミングで受験できる、瞬時に採点できるなどの利点がある。英語の資格・検定試験であり評価が定着している「英検」や「TOEFL」などでも既に導入しており、教室での一斉放送による音声聞き取りの問題や採点の手間などを考慮すると、CBTの活用は現実的と言える。
そうなれば、学力はもちろんだがタイピング能力が採点に大きな影響を与える。答が分かっていても、タイピングで書き切れなければ採点されることがないからだ。記述式の問題が増えれば、採点方法が課題となる。人力で行うのがこれまでのやり方だが、AIを活用すればより短時間に採点が出来るようになり、記述式問題の導入もしやすくなる。そのためには、CBTを使ったテストにする必要がある。ますますタイピングの必要性が高まる。少なくとも中高では、キーボード付きの端末は必須デバイスである。
タブレットとPCどちらを選ぶかではなくどう使い分けるか
1人1台端末として、「タブレット」、「ノートPC」、「2in1」かの選択肢を示した。では、私学の小中高では何を選択すれば良いのか。答は、どちらかではなくどちらもである。タブレットには直感的に操作できたり、授業支援アプリや学習アプリが使い易いメリットがあり、PCには文字入力やマウス操作がしやすいというメリットがある。それらを活かす使い方とは。
例えば高校では、キーボード付きのPCは必須デバイスである。であればノートPCをBYODにして、授業で常用する端末とする。授業支援アプリやコミュニケーションアプリを使うときは各自のスマートフォンを活用する。
小学校低学年では扱いやすいタブレットを基本とするが、高学年になったらPC教室や可動式のノートPCを使ってキーボードのタイピングに慣れる学習も必要になるだろう。もちろんプログラミングにPCは欠かせなくなる。
概略をまとめると、小学校1・2年(タブレット)、小学校3・4年(タブレット+PC)、小学校5・6年(PC+タブレット)、中学校(PC+タブレット)、高校(PC+スマホorタブレット)といったところか。デバイスの寿命は長くても5~6年だから、私学の場合、小学校入学でタブレットPC、中学入学でノートPCをBYODにするのが基準ではないかと考える。
さあ、校長先生、あなたの学校では1人1台情報端末に何を選びますか?相談できる人がいない人は、是非ICT教育ニュースまでメールしてください。お待ちしています。
(編集長:山口時雄)
相談メールは、info@ict-enews.net まで。
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