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2021年10月21日

続・iPadではじめる!先生のためのICT入門講座 【第7回】インクルーシブ教育

【第7回】藤田 武士先生(茨城県立協和特別支援学校)
社会とつながる学び!iPadを活用したインクルーシブ教育

「わが校でも今年から1人1台のタブレット端末を導入します」突然の発表に驚いたのもつかの間、教員用ということで1台のiPadが配布されました。「急に言われても、いったい何からはじめていいのかさっぱり・・・」。本連載では、そんな困った状況におかれた先生たちのために、学校でタブレット端末を使うためのポイントを解説。iPadを活用した学びを実践している先生たちの活用事例をもとに、ICTが苦手な先生でも取り組める具体的な活用方法をご紹介します。

 

iPadの普及から10年。教育ICTの原点に立ち返る

iPadが日本で発売となったのは2010年5月のこと。いまでは考えられませんが初代のiPadにはカメラすらついていませんでした。そして翌年、東日本大震災の直後にiPad2が発売。これを機に、どうやってこの新たなテクノロジーを教育で活用していこうかと、一部の先生たちを中心に研究が始まりました。

当時、その導入や活用に最も積極的だったのはどんな先生だったのでしょうか。子どもたち一人ひとりの特性に寄り添い、ハンディキャップのある子どもたちを支えるために、貪欲にテクノロジーを取り入れてきた教育のプロフェッショナル。そう、特別支援学校の先生たちです。

今回はそんなICTと深い関わりをもつ特別支援教育の現場から、茨城県立協和特別支援学校の藤田武士先生を取材。「社会とつながる学び」をテーマにお話をお聞きしました。1人1台端末が当たり前になりつつあるいま、特別支援教育におけるICT活用を知ることで、あらためてその原点を見つめ直していきます。

校舎内はWi-Fi完備!1人1台環境の特別支援学校

1人1台iPadの環境で取り組む授業づくり

県西部に位置する茨城県立協和特別支援学校は、主に知的障害のある児童・生徒およそ210名が在籍する学校です。2021年度の学校全体の研究テーマは「わくわくドキドキタブレット〜3C大作戦〜」。チャレンジ、チェンジ、クリエイティブの3段階で、授業づくりや授業改善に取り組んでいます。

小学部と中学部の児童・生徒には、GIGAスクール構想により1人1台のiPadが配布。高等部では家庭負担となりますが、就学奨励費などを利用してほぼ全員がiPadを所有しています。また全教室にiPadから直接印刷できるプリンタとモニターが常備。校舎にはくまなくWi-Fiが完備されているそうです。

藤田先生はそんな協和特別支援学校のICT活用をリードする指導研究部長。ICT環境の整備や校内の職員研修にも積極的に取り組まれてきました。またご自身でも「NHK for School」を活用した授業改善や、子どものクリエイティビティを引き出す授業づくりなど、段階に応じた授業を実践されています。

「自分ごと」として考える授業のしかけづくり

3人1組で「車いす」を体験する福祉の授業

そんな藤田先生の実践の1つが「車いすの操作」を学ぶ福祉の授業。生徒は3人1組のチームをつくり、1人が車いすに乗り、1人は介助者、もう1人はiPadを持って「要注意箇所」の撮影をします。車いすに乗っている人や介助者の視点も取り入れながら、時には役割を交代しながら進めていきます。

授業のまとめでは、撮影した写真やそのときの会話をもとに、危険箇所のスライドを作成。それぞれどの場面をまとめるのか役割分担を話し合って決めます。スライドは1人1台のiPadを使って「Keynote」で作成。お互いにコミュニケーションを取りながら協働でスライドをまとめていきます。

・「Keynote」:App Store

グループでまとめた資料を使ってプレゼン大会

スライドが完成すると、まずはグループ内で確認のための発表会。その後、3人が分かれて、他のグループの生徒と1対1のプレゼン大会がスタートします。互いにプレゼンをして、終わったら別の誰かと1対1でプレゼン。これをくり返す中で、生徒たちは話し方や見せ方を工夫し改善していきます。

「児童・生徒ができるだけ実社会と学習とを結びつけられるよう意識している」と語る藤田先生。担当する高等部では、ほとんどの生徒が3年以内に社会に出ていくそうです。だからこそ、知識や技能だけでなく、学習を通じて自分自身を知り、他者とのコミュニケーションスキルを向上させたいと話します。

【本日のワーク】「Finger Board Pro」でデジタル教材をつくろう!

藤田先生が作った「色の弁別」を学習する教材

「児童・生徒がiPad上で触って学べるオリジナルの電子教材が作成できるアプリです。プログラミングの知識も不要。ボタンから動作まで、児童・生徒の実態に応じてカスタマイズすることができます」と藤田先生がおすすめするのが「Finger Board Pro」。デジタル教材をiPad上で自作できるアプリです。

・「Finger Board Pro」:App Store

起動すると「Welcome to FINGER BOARD」という画面が表示されます。いきなり英語で驚くかもしれませんが、アプリ自体は日本語対応していますのでご安心ください。左下の3本線のアイコンをタップするとファイル一覧画面が表示されますので、(+)→「新規作成」で新しいファイルを作成しましょう。

アプリ内にもさまざまなイラスト素材が用意されている

今回はイラストの中に1つだけハズレがある「ロシアンルーレットゲーム」を作ってみたいと思います。まずは右下の(+)ボタン(=項目を追加)をタップ。「アプリ内画像」の項目を選択します。イラスト素材がカテゴリ別に用意されていますので、いくつか好きなイラストを並べてみてください。

次に配置したイラストの1つをタップ。ツールパネルが表示されますので、「タッチ機能を追加する」を選択します。ここでアイテムをタッチしたときのアクションが設定できます。今回は「表示/非表示の切り替え」を設定してみてください。さて、どんな動作になるのか一度確認してみましょう。

画面下の「学習」をタップすると、学習モードに切り替わります。この状態で先ほどタッチ機能を設定したイラストをタップしてみてください。イラストが消えましたでしょうか。同じ場所をタップすると再表示されます。正常に動作することが確認できたら「編集」をタップして編集モードに戻します。

タッチ機能をつければ双方向性のある教材に

同じように他のイラストにも「表示/非表示の切り替え」のアクションを設定していきます。最後に1つ(ハズレ)のイラストだけ、「タッチ機能を追加する」→「間違いマークを表示」に設定しておきます。これであっというまにゲームができあがり。学習モードに切り替えて遊んでみてください。

タッチ機能は配置したボタンなどにも付けられます。透明なボタンを使えば、配置した写真の上など好きな箇所で機能させることが可能。吹き出しや画像を表示したり、録音した音声を再生したり、自動で正誤判定する機能もありますので、工夫しだいで本格的なオリジナル教材が作れてしまいます。

なお、作成した教材を子どもたちに配布することもできます。AirDropやメール、クラウドなどオンラインで共有したり、PC(iTunes)を経由して有線で共有することも可能です。ファイルを送受信する方法やさまざまなタッチ機能など、くわしくは公式ガイドをチェックしてみてください。

・Finger Board Pro 公式ガイド

ICTは名脇役!学校だからできる社会につながる学び

社会につながる学びを実現する。特別支援学校に限らず、すべての先生にとっての大きなテーマです。もちろん、学校種や教科によってちがいはありますが、「誰かと一緒に◯◯する」という経験は学校だからこそできる貴重な学びの1つと言えます。ICTはそんな学びの媒体となるツール。ICTという名脇役を使って、主役である子どもたちのコミュニケーションを引き出してみてはいかがでしょうか。

【実践者プロフィール】
茨城県立協和特別支援学校
教諭・指導研究部長
藤田 武士 先生

指導研究部長として、「わくわくドキドキタブレット」という研究テーマのもと、NHK for Schoolを活用した授業改善、クリエイティビティを引き出す授業づくりなど、段階に応じた研究実践を推進。また、前任である情報部と連携し、ICT環境整備、校内職員研修に積極的に取り組む。NHK「ストレッチマン・ゴールド」番組委員。モリサワUDフォントエバンジェリスト。

【筆者プロフィール】
教育ICTコンサルタント
小池 幸司

教育現場におけるICTの導入・活用を推進すべく、講演や執筆活動を通じて導入事例やノウハウを発信している。2013年3月にiPad×教育をテーマにした国内初の実践的書籍「iPad教育活用 7つの秘訣」を出版。2020年10月より、YouTubeチャンネル「TDXラジオ(https://www.youtube.com/c/TDXRadio)」を開設し、「Teacher’s [Shift]〜新しい学びと先生の働き方改革〜」のメインパーソナリティを務める。NPO法人 iTeachers Academy 理事・事務局長。

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