2023年2月27日
AIを学び、その先へ導く – 体験と理論を組み合わせた、プログラミング未経験でも学びやすいAI授業
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AI時代に対応した人材の育成が論じられて久しい。内閣府は「Society5.0」の実現を通じて、世界規模の課題解決への貢献や日本の社会課題の克服、産業競争力の向上に向けて「AI戦略」を掲げている。小中学校ではプログラミングが、高校では「情報I」が必修化になるなど段階的に導入され、高専や大学では「数理・データサイエンス・AI」に係わる基礎や応用の習得に向けた、より高度な教育改革が進み始めている。
そうした中、2校の高専の連携によって生まれたAI授業の取り組みがユニークだ。両校では「MATLAB」(MathWorks提供)を活用し、各校の教員がコラボレーションすることで、「体験」と「理論」を組み合わせたAI授業を展開している。連携に至った背景や授業内容など、呉工業高等専門学校の平野旭教員(電気情報工学科)と新居浜工業高等専門学校の田中大介教員(機械工学科)に話しを聞いた。
AI教育のそれぞれの現在地
呉工業高等専門学校(以下、呉高専)には、機械工学科、電気情報工学科、環境都市工学科、建築学科の4学科がある。平野教員の専門は生体情報工学。生物の信号処理を測り、毒物検出やストレス分析など信号処理に特化した研究分野だ。
新居浜工業高等専門学校(以下、新居浜高専)は、機械工学科、電気情報工学科、電子制御工学科、生物応用化学科、環境材料工学科の5学科がある。田中教員はメカトロニクスやプログラミングの授業を担当。専門はロボットのセンサデータから物体の認識を行うためのアルゴリズムの研究で、機械学習やAIの分野に精通している。同校では数年前から「AI特別課程」を立ち上げるなど学校全体にAI教育の機運があるという。
AI教育について平野教員は、「非情報系の学生も、パソコンが苦手な学生も、いかに取り残さないようにするか。AIの技術だけを学ぶのではなく、学生自身の研究や分野へ活かすことができるよう“その先”へ導いていくことが大切だと考えています」と話す。
田中教員は、「たとえば、AIを活用している教員が電気系や情報系の学科にはいるけれど、他の学科にはいない、各学科に対して専任の教員がいないといった状況はとても問題です。AI教育と言った時、『何を教えたらいいのか』から疑問です。そのハードルを教科書的に教えることで超えたとしても 『実務でどう使えるのか』『どこが難しいのか』『応用先にどういうところがあるのか』など、使っている人だから語れることがあります」と話す。
また、「AIは自分たちには関係ない」という意識の学生も散見され、そうした学生に対してAIを学ぶ必要性を訴える難しさも感じているという。
まずは「体験」から始動、MATLABユーザー同士の出会い
高専は学科ごとに学生の特性が異なる。呉高専のAIの学びは学生も教員も戸惑いながらのスタートだったと平野教員は振り返る。2020年度から、同校は「MATLAB」を使って、初学者も取り組みやすい体験ベースの「AI基礎技術演習」を特別講義として実施しはじめた。
「MATLAB」は、MathWorksが提供するソフトウェア。世界中のエンジニアや科学者がデータ解析やアルゴリズム開発などに使用しているプログラミング言語であり数値計算プラットフォーム。実社会の多岐にわたる分野でさまざまに活用されており、学生向けのサービスも展開している。
平野教員はディープラーニング等で扱う「パラメータ」など、どこまで伝えるべきか思案した結果、それらはアドバンストコース(後の「数学」)として切り分けすることにしたという。しかし上手く伝えられるかどうか。AIの理論をどのように教えていくかを考える中、MathWorksから田中教員の紹介を受けた。「新居浜高専は以前から地域にAIに関する公開講座を開講するなど私も知っていましたし、田中先生なら高専生の特性もよくわかっておられる。ぜひお願いしたいとご縁をいただきました」。
「体験」と「理論」、学校間の連携が実現
新居浜高専でも「MATLAB」を活用していた。「呉高専のニーズを受け、平野先生と相談しました。『演習』で教えていない部分をカバーできるような授業ができないかと。本校で取り組んでいた『AI特別課程』も演習に近い授業でした。私自身が教えたいところ、必要だと思っているところが、平野先生がおっしゃった『パラメータ』などで、この辺りが理解できる授業がしたいと思いました」。そこで、「演習」からさらに詳しく知りたいという学生向けに「AI基礎技術数学」を実施する流れが生まれた。「AI基礎技術演習」が体験型であり、「AI基礎技術数学」は文字通り数学をベースにAIの中身がどうなっているのかを理解するというもの。AIの実装まで全てカバーする内容だ。
MATLABユーザー同士で繋がった両校。双方の方向性が合い、2021年度から特別講義として「AI基礎技術演習」(以下、演習)と「AI基礎技術数学」(以下、数学)を組み合わせた授業の実施が実現した。
1年生でもついていける授業づくり
受講者は高学年の学生が多いと予想していたが、実際には1年生も多く参加したという。「想定外だった」と平野教員も田中教員も声を揃える。
平野教員による「演習」では、「MATLAB」の豊富なサンプルコードを利用。プログラミングやパソコンが苦手な学生でも、「このぐらいのデータがあればAIはこう勉強をするのか」と感じられるよう授業を設計し、身近な課題解決にチャレンジする機会を作ったという。
田中教員による「数学」の最終ゴールはAIの中身の理解。しかし、そこに辿り着くまでに必要な数学は1年生では授業で習わないことが含まれる。田中教員は、「たとえば微分であれば、『接線の傾き』で伝えると実は中学校ぐらいの知識で話ができます。そうした形で厳密性をいったん問わず、感覚で伝えられるところは伝え、あとは演習問題をしっかり入れる。自分の手で解いてみて『計算できるかも』とついていけそうな気にさせることを意識したコンテンツにしました」と語る。
取り組みは広がり、2022年度からは両校に加え、松江、徳山の2高専が参加、計4高専での実施となった。前年まで課題としてあった、対面とオンラインでの学生の理解度の違いや質問しやすい環境づくりなどを考慮し、今年からはTA(ティーチングアシスタント)の配置も始めた。「1人で学生全員をカバーすることはできないので、4・5年生の学生にTAをお願いしています」(田中教員)。内容がわからず学びが止まってしまう状況を避けるための体制をしっかりと講じている。
プログラミング未経験の学生も学びやすい「MATLAB」
「演習」では全15回の授業で「MATLAB」をフル活用した。平野教員は「MATLAB」を活用するメリットの1つに「インストールのしやすさ」を挙げる。学校に設置されたパソコンでも学生個人が保有するパソコンでも、「MATLAB」は学習環境がとても整えやすい。また、プログラミングの未経験者でも取り組みやすい「ローコード」のため、苦手意識のある学生も無理なく学ぶことができ助かっているという。
「数学」では複数のMathWorks製品を活用。授業ではブラウザ上で利用できる「MATLAB Online」を採用した。呉高専はBYODが導入されており学生は自身の端末を所有しているが、インストール版の環境を整えることが難しいスペックの端末も中にはある。ブラウザ上であればスペックに関係なく利用できることから「MATLAB Online」を選択した。
田中教員は「MATLAB」を活用する理由について、「数学」の場合、数式とプログラムとの関連を違和感なくリンクさせたいからだと説明する。「『MATLAB』で書くコードは、数学の記述と似た形で書くことができます。行列の計算など、まず自分で計算して、その後に『MATLAB』で計算してみるという順番で展開するのですが、みんなそれほど違和感なくプログラムが書けているようです」。
さらに、学生自身がWebにアクセスしてコーディングの課題を解き、解答を自動採点してくれる「MATLAB Grader」も活用。授業で取り組んだ内容の別のアプローチとして、学生が「MATLAB Grader」でもう一度自分の理解度を確かめるといった使い方に役立てられるという。
AIを理解して自分の専門に繋げていく
受講した学生からは、「知りたかった、やってみたかったど真ん中だった」「応用が効きそうな内容で良かった」など嬉しい声が届いているという。
「演習」の最終に近い回では、MathWorksのエンジニアが講義を行った。学生に好評で、「それまでに学んだことから話の内容がわかった」「講義の内容が一貫して活きている感じがした」など喜びの声も上がった。また、最後の課題では、建築学科のある学生が、屋根づくりのパターンをAIに学習させ、分類や推論を試した発表なども見られたという。AI戦略で言われる「AI×専門」にあたる実践でもあり、こうした成果を嬉しく思うと平野教員は話す。
「数学」では、特に1年生は数学の「先取り」ができて良かったとの声が多くあるという。AIもプログラミングも数学と関係があり、自分の専門に対して勉強していく必要性が身に染みてわかったという声もあった。また、「この授業はあなたにとって意味がありましたか?」との問いには、「意味があった」はもちろん、「意味がなかった」と答える学生もいたという。その真意は、AIの中身がわかった上で、やはり自分には関係がないと言えるだけの理解を得られたということ。こうした回答もこの授業の成功と意義を裏付けている。
「その先」に続く学びを目指して、さらに深化させたい
「『MATLAB』がもしなかったらこの授業は成立していないと思う」と田中教員。ローコードであることも、全員が同じ環境を整えられることも「MATLAB」以外は考えられなかったと明言する。
4高専まで広がった現在。教員、学生、TAの間にもこれまでになかった交流が生まれた。AIという題材を介してコミュニケーションの輪も広がっている。
今後は、「演習」では低学年と高学年それぞれのレベルに応じて「数学」への学びを踏まえた展開をしたいという平野教員。田中教員も、「演習」で謎になっている部分を解き明かすようなストーリー上の流れを整理し、学生がAIを吸収できるようさらに深化させたいという。そして、学校間で連携しているからこそのPBL(課題解決型学習)やスケールメリットを活かした教育も考えていきたいと展望を語る。
「MATLAB」を軸とした高専のAI教育。有機的な広がりを感じさせる同取り組みから、学びの可能性がまだまだ期待できそうだ。
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