2016年7月26日
佐賀県に学ぶ。自治体が失敗しない教育現場へのICT導入
佐賀県の取り組みを評価する
佐賀県の取り組みは本当に満足できる状況なのか。
改善検討委員会の委員でもある田中氏に、佐賀県のICT利活用事業の現状の総括をお願いしたところ、「昨年度1年間、改善委員会に携わらせてもらったが、そもそもの理念やビジョンがどういうものであったのかが明確になっていないという印象を受けた。成果にしても、過去に実施した調査などのデータがなかなか開示されないので成果も改善点も検討のしようがなかった。最後に出てきた満足度調査の結果では、生徒は概ね満足しているということだが、設問が大雑把であり主観的としかいいようがない。何に満足なのか、タブレット端末なのか電子黒板なのか、デジタル教材か授業の内容なのか、また不満という回答に何が隠れているのか」と、情報が提供されない事へのもどかしさを第一に挙げた。
では、実際のICT利活用状況はどうなのか訊ねたところ、「当初あった無線LANなど通信環境の課題がすべて解消したかというとそうではない。自治体の整備は臨機応変とはいかないので当初の設計や設定を簡単には変えられない。1人1台環境で常にストレス無く使えているわけではないというのが現状のようだ。2014年度に実施された教職員の意識調査からは、無線LANや学習者用PCに関する課題もさることながら、どういう授業をデザインするかや、研修内容に課題意識が現れていた。佐賀県は、環境構築とともに教員研修にも力を入れてきた。しかし研修といっても、高校は農業、工業、商業、普通科、進学系まで様々な学校があり授業内容も異なるので、一律に対応できない難しさがある」と、ICT環境の整備と教育活動のギャップに課題が多いという。
つまり、ICT利用環境はあるもの、ICT活用には至っていないということのようだ。教員研修では機器の使い方やWi-Fi対応が中心で、授業設計や実践教育は不足してたということか。
佐賀県の事業推進の課題とは
佐賀県のICT導入~利活用事業は進行中であり失敗、成功を言う段階ではないとしながら、田中氏はこれまでの課題について、「あまりに沢山のことを同時に進めすぎたかもしれない。学習者用PC1人1台の整備、電子黒板、通信設備などの他、クラウドを利用したSEI-Net (*1)の構築を佐賀県独自でやった。もちろん教員の研修や教育も。すべて同時進行でやった。あまりにも壮大な取り組みだったため、細かなところまで手が回らなかったのではないか」と、全てを同時進行で実施する難しさを語り、「全部まとめてやったから、ひとまずモノは整備された。、そのおかげで実現できたこともあるのは事実。学校種や教科によっては積極的に活用されている場合もある」と、メリットにも触れた。
佐賀県の取り組みと現状を踏まえて、ICT導入を考える自治体に対して、田中氏は次のように問いかける。
1)予算をあまり掛けずに、身軽に始めてみるのはどうですか。
2)PC教室の更新+αくらいで始められることはありませんか。
3)1人1台情報端末(PC、タブレット)は本当に必要ですか。
4)情報端末が何をするために必要か、自分(その地域の)の考えは整理されてますか。
そして、1人1台の情報端末を利用して授業をおこなうことと、児童生徒全員に1人1台持たせることは違うと力説。授業での情報端末利用は、1人1台だけでなく、グループに1台でも、教師に1台だけでも有効な利用方法があり、その使い方にあわせて、機種や台数を選択すればよい。授業者の視点だけではなく、学習者の視点から考えることも必要であり、授業外の活用(例えば部活動など)にも視野を広げることも求められるだろう。高校の場合、多くの生徒が所持しているスマートフォンの活用と情報端末の機能について整理が必要になる。スマートフォンと情報端末の相乗効果が期待出来る環境が望ましいと語る。1人1台といった型に拘りすぎず、何を学ばせるのか、そのためにICTも含めて何をどう使うのかを考えることが大切なのだ。
*1:SEI-Net(Saga Education Information-Network)は、佐賀県独自に構築した新教育情報システムのことで、「学習管理」、「教材管理」、「校務管理」の3つの機能を一元化している。
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