2014年12月12日
DiTT/“未来の学び”シンポで藤原和博氏 「学校の教育力低下」を嘆く
デジタル教科書協議会(DiTT)は10日、シンポジウム「未来の学び~授業が変わる・学びが変わる!」を東京・港区の慶應義塾大学三田キャンパスで開催した。
DiTT中村伊知哉副会長の挨拶の後、同じく副会長である教育改革実践家の藤原和博氏が、「学校の教育力低下をどう食い止めるか〜『最高の授業net』のプラットフォーム始動!」と題して、大きな転換期を迎えている教育現場の抱える問題点などについて講演を行った。
「日本は1998年から成熟社会に入っている」。
冒頭、藤原氏はこのように語った。“みんな一緒の社会”から、“一人ひとりの考え方があっていい社会”に様変わりしていると事例を挙げて説明した。
そうした社会の動きとともにビジネスにおいて求められる能力にも変化が起こり、“情報処理能力”から“情報編集力”へと次第にウエイトが置かれつつある。従って教育・学習の現場でも、正解を早く言い当てる力(情報処理能力)より、問題点を把握し自分なりに納得のいく解を見つける力(情報編集力)を身につけさせることが必要だ、と藤原氏。そして、「小学校での計算の練習、漢字の記憶、社会や理科の暗記問題といった情報処理能力側の学習は、ICTの道具で効率的に行わせる。さらに学校ではなく家庭などで行うなど時間を短縮し、空いた時間を編集力側の学習に充てるべき」と述べた。
そして、教育界に激震が走るトピックとして、“学校の教育力”の低下を挙げた。
藤原氏は、教員の年齢別グラフ(公立小中学校)を示しながら、構成比率のもっとも多い50代教員がどんどん現場から去ってしまうという問題点を指摘。この世代の教員が生活・学習指導の要となっていたが10年すると一人もいなくなり、それによってこれまでのような教員による手厚い教育が行えない状況に来ているという。
次の問題として、児童の学力の2極化が進んでいる点を挙げた。これまで一斉授業では、7割程度の児童が授業内容をおおむね理解できたものだが、最近では同じ教室の中で、授業についていけない児童が増えている反面、塾などですでにその単元を終えている“お客さん”のような児童もいる。
指導力のある教員の不足、生徒の学力の2極化という2つの問題を解決するために参考となる事例として、佐賀県武雄市の取り組みがあるという。
武雄市では今春、タブレットを全小学生に配布。それを使って家でビデオ(動画)による予習をさせ、学校では、分かった児童が分からない児童に教えるといったディスカッションを重視した授業を行っている。教師による一斉授業ではなくビデオでの予習、そして児童間での教えあいといった反転授業の取り組みは、先の課題を考える上で参考になるものだ。
続けて藤原氏は、全講義のうちのビデオでの予習(知識学習)の比率として「中学で30%、高校では50%、大学では90%くらいあってもよい」。特に大学の政治倫理では、例えば「マイケル・サンデル教授の講義など優良なコンテンツを活用」すればよく、その上で大学が主に行うこととして「人が集まってできること、ディスカッション、ディベート、研究などに注力すべき」だと語った。
こうしたことを踏まえ、今後教育現場でのICT活用については「複雑なインタラクティブ教材を使った授業はなかなか普及せず、ビデオによる優良なコンテンツをシンプルに使うスタイルが残っていく」と持論を述べた。
また、広尾学園の金子暁教務開発部統括部長が、「未来は今ここから始まる-学校×新しいICT×感性-」をテーマに、ICT導入の経緯や広尾学園の考え方などを紹介した。
広尾学園では現在、MacBookとKindle(インターナショナルコース)、iPad(本科コース)、iPadとChromebook(医進・サイエンスコース)などタブレットを活用した教育を行っている。
広尾学園ではこうした活用について、まず教育活動がありそれに機器が付いてくるといった考え方でICT機器導入を決めているという。
金子統括部長は、教育現場でICT機器導入が進まない理由の一つとして、「授業の中でどのように使うかといった狭い枠の中で発想するからではないか」と言い、そうではなく教育活動自体を拡大・高度化する方向で考えてみることが重要で、「教育活動への強い意志なくして機器の活用はあり得ない」と述べた。
会場には、企業や学校の関係者など100名以上が参加し、講演者の熱心な語りに耳を傾けた。Dittは次回のシンポジウムを2015年2月23日に予定している。
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