2019年4月11日
大阪体育大学教育学部、小学校歴史学習でのICT教育実践報告
【PR】MetaMoJi ClassRoomを活用した「主体的・対話的で深い学び」の授業づくり
大阪体育大学 教育学部 教授
岡崎 均
タブレットと共有型アプリで授業が変わる
新学習指導要領では「主体的で対話的な深い学び」が重要とされ,ICTの積極的活用が求められている。特に携帯性に優れ、簡単な操作でタブレットはこれからのICT活用の核となっていくだろう。教育に活用可能なタブレットPC用のアプリは数多くあるが,その学習機能別に分類するとドリル型,提示型,シミュレーション型,調べ学習型,共有型に分けることができる。これらのタイプは,例えばドリル型がパーソナルコンピュータの普及に伴うCAIの教育実践が基になっているし,ブラウザを活用した調べ学習型はインターネットの発達に応じた実践が基になっている等,これまでのコンピュータ活用の教育実践と技術を背景としている。
これらのアプリのタイプの中で,薄く軽く可搬可能なタブレットPCの登場とインターネット,クラウド技術の進展が背景となり開発された共有型は最も新しい。教室や運動場,郊外でのあらゆる教育活動に,教材の一斉提示,資料やワークシート,写真の配布や共有,それらへの書き込みや共同編集といった学習活動が,学習者相互,教師と学習者の間で共有される。しかも,それが小型軽量で誰もが簡単に使えるデバイスで提供される。
大阪体育大学教育学部では時代に対応した教員の資質育成を図るため,ICTを活用した新しい授業づくりの一環として,学生一人1台の使用環境の下,タブレットPC(iPad)を導入して取り組んでいる。本稿は,共有型アプリ「MetaMoJi ClassRoom」の小学校歴史学習への活用について,その方法と実践を通した効果についての報告である。
「MetaMoJi ClassRoom」の共有機能を活用した小学校社会科の授業づくりの視点
MetaMoJi ClassRoomは幾つかある共有型のアプリの中でも,手書き入力の機能を備え紙に近い感覚で表現することができる。さらに,画面共有がリアルタイムにでき学習の進捗状況が共有できる点,学習者のどのノート間でも共同編集が可能な点など共有機能にも優れている。さらにネットへのアクセスやカメラ,写真の活用などタブレットPC特有の機能が加わるから,教室の黒板や子供たちのノートが,教室内外のあらゆる学習情報を含めネットワークを通してタブレットで共有されるといってよい。
今回,このリアルタイムに学習の状況を共有できる機能を活用し,学習者の議論を活性化しより深い学びへと発展させる小学校社会科の歴史学習の授業のあり方について考えてみたい。社会科は暗記中心,知識詰め込みの教科であると誤解されがちだが,問題解決学習を通して歴史的,社会的な見方や考え方を獲得する教科である。そのため,発問(学習問題)を工夫した学習活動を構成することで,子供たちの興味関心を高め,質の高い知識を獲得でき,より深く考える学習となる。
今回は明治維新の単元において,興味関心を高める導入段階,明治の国づくりに関して事実を知る段階,事実に基づき考える段階の3つの学習段階を想定し,画像資料を組み込んだシートを作成した。そして,MetaMoJi ClassRoomを活用し学生たちを対象にした模擬授業を通して,その有効性について相互に意見を出し合い議論を深めた。
興味関心を高める導入の学習段階では,江戸時代と明治時代の日本橋の2枚の資料を示し「どこがどのように変わったのだろうか。」という問いにより比較させた(図1)。事実を知る学習段階では,明治の改革のさし絵や地図を組み合わせたシートを作り「大久保たちが行った改革は何か。」と問い,学生たちに教科書を調べさせた(図2)。事実に基づき考える学習段階では,ペリー来航後の政策について「もし,あなたが幕府の大老ならどのような政策を行うか。」と問い,学生たちに小学生の立場から政策を考えさせた(図3)。
それぞれ3つの問いについて,一人一人にiPadを配布し,MetaMoJi ClassRoomで資料に書き込ませ,学習内容のモニタリング機能を用いて学習の状況を共有し模擬授業を進めた。
「MetaMoJi ClassRoom」の共有機能を活用した小学校社会科の授業の実際
共有型アプリによる各学習段階での概要は次の通りである。
興味関心を高める導入の学習段階では,各自のiPadに配布した資料に江戸と明治の日本橋の様子の考察結果を書き込み,学習内容のモニタリング機能で一覧し発表させた。この場合,問いに対する答えはどれも正解であり,2枚の資料の比較から数多くの変化を発見させればよい。多ければ多いほど,「なぜ,20年ほどの間に,このように大きな変化が起こったのだろうか。」という今後の学習へ発展する問いを導きやすくなるからである。しかし,学生たちの考察は,例えば,かごが人力車や馬車に変わったなど,目に付く大きな変化に着目したケースがほとんどで,学習内容のモニタリング画面の結果はほぼ同様の書き込みとなってしまった。導入部分のねらいを達成するには,各自の持つiPadで学習の進行を提示するより,できる限り大きな画面で提示し一斉に考察させた方が目的を達成しやすい。MetaMoJi ClassRoomの共同編集機能を用いる方が効果的であろう。
事実を知る学習段階では,学生たちは配布した教科書から廃藩置県や地租改正など該当する用語を探し出しiPadに記入していった。その状況をモニタリングしたが,各自の学習の進行状況が一覧できるものの,いわばワークシートの作業の進行が一覧で見えることの意味はそれほど重要ではない。歴史用語の記述とその内容という事実を調べる場合,紙媒体の教科書やノートを活用する方が学習として有効であろう。
最も効果的であったのが,事実に基づき考える段階における「もし,あなたが幕府の大老ならどのような政策を行うか。」という問いである。模擬授業において,学生には自分が小学6年であることを想定して,考えたことをMetaMoJi ClassRoom上のノートに書くように指示した。その回答の様子はモニタリング機能で一覧できるので,学生たちは自分の考えを書き終えると同時に,他者の考えも確認することができた(図4)。
図4には,開国を迫るペリーに対して,これからとるべき政策についてそれぞれ異なる学生たちの考えが書かれている。学習のモニタリング機能により,その状況が映し出されるので,周りの進行状況を参考にしながら自らの考えをまとめることができる。しかも,同じ答えにはならない問いだから,学習のモニタリングにより個々の答えの違いを踏まえて,学習者は自らの考えを説明することになる。
指導する教師は,学習者一人一人の考えの違いを踏まえて,答えの根拠を学習者に説明させ,当時の尊皇攘夷と開国の立場に整理し,それぞれの意見を意味づけし理解させていくことになる。特に「もし攘夷(開国)を実行したら,どのようなことが起こるか。」と起こりうる状況を予想させながら議論を展開し各学習者の意見を取捨選択していくことで,当時の幕府がとった政策の意味が共感的に理解できる。このような学習者の説明と教師の指導によって思考を深めた学習が可能になる。
考えを深める対話的な学習における「MetaMoJi ClassRoom」の共有機能の効果
模擬授業後に学生たちとMetaMoJi ClassRoomの効果について話し合った。学生たちの意見をまとめると,小学校の授業での活用にはICT機器使用の習熟する時間が必要だが,それでもなお,圧倒的に効果があるというものだった。彼らは幕府の大老として考えた自らの政策について,その進行途中から互いの考えを確認し,全員が書き終わったと同時に全体の結果を共有した効果を実感していた。これまで教師は「できた人は手を挙げて。」「全員ができましたね。では,発表してもらいましょう。」「黒板にみんなの意見をまとめてみましょう。」といった指示と学習活動の手続きを経て,討論や話し合いという学習に移行していた。授業を受ける側も,このことは決まり切った手順で当たり前に待つ時間であった。この従来なら当たり前であった学習の手続きの時間を省き,学習者が考えたことを間髪おかずに説明し違いを分かり,対話と思考へと発展させることができる。クラス全体の思考のスピードを上げ深く考えることで,学習の質を高めることが可能となる。
以上のように,タブレットPCを用いて瞬時に各グループや個人の意見を集約,提示し共有できるネットワーク型のアプリは,学習者の深い思考と相互の対話というこれからの学習に非常に有効に機能するであろう。今回,小学校社会科の歴史学習を対象に様々な学習段階を想定した問い毎に,共有機能の有効性について模擬授業を通して検討した。しかし,重要なのはこれらの優れたICT機器とアプリを使えば必ず思考が深まるのではないことである。学びの質を高め深い学びにするには,教師の教材研究と指導力が必要であることは今も昔も変わらない。
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