2021年8月20日
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第13回 通常学級に在籍する子どもへの具体的な配慮
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第13回
通常学級に在籍する学習に困難のある子ども達に対する授業での具体的な配慮。第1回−アナログからICTまで−
GIGAスクール構想による1人1台のICT端末環境が小中学校で整い、子ども達も授業の中で使うことに慣れてきたのではないでしょうか。今回は、GIGAスクール構想のデバイス仕様であるタッチパネル付きデバイス(以下、タブレット)の利用を念頭に、授業での配慮について2回に分けてお話したいと思います。1回目は、読み書きの困難への配慮について考えてみます。
これまで通級指導教室などの個別指導の場では、読み書きに困難のある子ども達に対してプリント教材などの紙を使った指導だけではなく、タブレットを活用した指導も行われてきました。そのようなこともあり、子ども達がタブレットを一人一台持つことで、読み書きに困難のある子ども達には特別な配慮など必要なく学べるだろうと、一部の先生が誤解しているといったお話を聞きます。ですが、タブレットが手元にあるだけで配慮は不要になるでしょうか。実在の子どもではありませんが、漢字を書くことに困難さのあるA君を通して、配慮について考えてみましょう。
A君は小学3年生です。A君の漢字ノートを見ると、マスから文字があふれ、一画が抜けていたり、縦長の字形になっていたりします。強い筆圧のためか、鉛筆の芯の粉で表面は薄い灰色になっています。また、消しゴムがけが苦手で、所々しわくちゃになっています。漢字の書き取りテストでは、誤字が多く空欄が見られます。
このような様子から、A君は書字動作の困難さや字形を理解することの困難さによって、漢字を書くことに難しさを持っているのではないかと推察されます。もしかすると、記憶することの困難さも持ち合わせているかもしれません。
書字動作の困難さへの配慮として、次のような配慮が考えられます。
まず一つ目は、A君が書きやすいと感じるマス目の大きなノートや用紙を提供することです。何年生だから何マスのノートに書けなければならないと言う先生もいらっしゃるかと思います。確かに年齢相応の書字動作が可能であれば、その考え方も間違っていないと思います。しかしA君は、漢字を書くときにマス目に収まるように頑張って書くことで神経をすり減らしているかもしれません。
ところで、漢字の学習では、漢字の読み方を理解し、字形や送り仮名を正確に覚えることが重要です。漢字を覚える方法や、さらに覚えたことを確認する方法として、書くという行為が求められますが、見方を変えると、書く方法以外で漢字を覚えられるのであれば、書かせることにこだわる必要はありません。注意しなければならないことは、決められた大きさのマスの中に文字を書くことは、漢字の学習ではなく目と手の協調性のトレーニングであり、漢字学習の本質ではないという事です。
A君は他に、字形を理解することの困難さもあります。字形の理解が難しい場合の配慮として、提示の仕方を変える方法があります。例えば、提示する文字の大きさを大きくしたり、一画やまとまりのある数画ごとに色を変えたりして提示します。
ここからは、このことをタブレットを用いた配慮の視点から考えてみます。
先ほど挙げたマス目を大きくする方法は、そのままタブレットでも活用することができます。マス目の書かれた画像ファイルを提示し、それに書かせるという方法です。漢字の書き取りテストのプリントをカメラで画像ファイルとして保存し、画像ファイルに書かせて提出させるという方法もあります。
また、提示する文字の大きさや色を変える方法では、マイクロソフトが提供するアクセシビリティ教材「小学校で学習する文字のPowerPointスライド」の活用をお勧めします。この教材は、画ごとに色を変更することができ、文字の形を一画ずつ理解しやすいように提示することができます。
このような書字動作に困難さのある子ども達は、また算数の筆算でも困ることがあります。よく見られるのは、正しい計算方法を理解しているにもかかわらず、数字を正しい位置に書けず、計算すべき桁がずれて、その結果誤ってしまうことがあります。例えば、教科書やドリルからノートに書き写す時にずれる場合は、表を活用してマス目の中に数字を書き写させて、問題を解かせるようにすることで、縦や横にずれなくなります。この方法は、タブレットではスプレットシートで行うことでできます。また、数字をセルに入力するにはキーボードを使いますので、書字の負荷を軽減することにもなります。
A君のような書字動作に困難さのある子ども達への配慮では、タブレットなどのタッチパネルを活用することは鉛筆と違ったメリットがあります。鉛筆などで紙に文字を書く動作では、私たちは無意識に行っていますが、その行為を詳細に見ると、筆記用具を握り続けること、筆圧を適度に保つこと、そして腕と手指を正確に動かすなど複数の動作を同時に行っています。しかし、タッチパネルを用いると、人差し指でなぞるだけで線を引け、書いた線を消すことができ、指先を動かす動作以外を除くことができます。漢字を正しく覚えていることの確認には、かならずしも鉛筆を使う動作は必要ないのです。
今回は、書きの困難さを中心に具体的な配慮をお話ししてきました。書きの困難さに対する配慮には、他に音声入力を活用するという方法もあります。しかし、音声入力は文字変換時に未習の漢字が表示されることが多くあり、音声入力では、子ども達が正しい漢字を理解できている必要があります。子ども達への配慮を考えるとき、利用者の状態を十分に把握することが大切になります。
イラスト提供:Atelier Funipo
執筆者プロフィール
富永 大悟
山梨学院大学専任講師
特別支援教育士スーパーバーザー
主な著書に、「発達障害のある子の学びを深める教材・教具・ICTの教室活用アイデア」(明治図書)「小・中学校国語科スクリーニングテスト 聞く、読む、書く能力の認知特性・発達状況を把握する」(明治図書)「教職をめざすひとのための発達と教育の心理学」(ナカニシヤ出版)など。
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