2022年2月21日
教室を拡張し世界とつながる学びの中核に電子黒板「ミライタッチ」/鎌倉市教育委員会
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神奈川県鎌倉市では教育ネットと呼ばれるプライベートクラウドの構築や、市内各校のICT教育推進担当者の活動など、ICT教育に関する取り組みを積極的に行っている。先進的な同市が2021年春に小中学校全25校に整備した大型提示装置が、インクルーシブ電子黒板「ミライタッチ」(さつき提供)だ。電子黒板の魅力や具体的な活用法など、鎌倉市教育委員会と鎌倉市立腰越中学校の方々に話しを聞いた。
「社会に開かれた教育」のための媒介が必須
教室にある従来の教育ツールだけではなく、もっと幅を広げて「社会に開かれた教育」の実現に力を入れたいと鎌倉市教育委員会 岩岡寛人 教育長は話す。
子どもたち自身が主体的に学んでいく環境として、1人1台端末は有益で今や欠かせない。しかし、端末だけでは学びが孤立する傾向もある。自分だけの世界に閉じこもらず、個人の学びの成果を他者と共有し、それについて意見交換し、さらに考えを深めていく。そうした協働的な学びにつなげていく媒介として活用できる機器が大型提示装置だ。
電子黒板の選定時、「端末の画面を映す機能で十分と思っていたのですが、いろいろな方の話しを聞く中で、それだけでいいのかという課題に私自身気づきました。電子黒板『ミライタッチ』はそれが良い意味で裏切られた。電子黒板自体にOSが入っていて、Zoom等で外の世界ともつながる。絶対に良いと感じました」と岩岡教育長は振り返る。2021年春、小学校16校と中学校9校の全25校に電子黒板「ミライタッチ」を466台導入した。
ICT活用の手始めにしやすい電子黒板
鎌倉市教育委員会 教育指導課 濱地 優 指導主事は、はじめて実機に触れた時、見やすさと操作性、特に書き心地がチョークで書く感覚に似ていることにとても驚いたと語る。電子黒板にどちらかというと消極的な声も学校現場からあったというが、「触った瞬間に先生方の反応がガラっと変わるんですね。あの瞬間に数々立ち会えたことが忘れられません」と明かす。「ミライタッチ」は専用ペンが不要で指先で書くことができる。今までの黒板がそのまま電子になったような使いやすさが先生方にも好評で、その感覚がポジティブな印象に転じた大きな要因だったようだ。
教育指導課 上 太一 指導主事も書き心地に注目する。「デジタルの反応の良さはもちろん、摩擦抵抗の感じ。書く際のすべりが先生方には嬉しい感覚なのでしょう。特に板書が得意な先生の職人的な部分を引き出しやすい。書くことも生徒に視覚的に訴える一つの芸術。黒板と違和感なく書ける電子黒板に心的なハードルの低さが生じたのだと思います」。
GIGAスクール構想に伴い1万2000台のiPadを一斉に導入した鎌倉市。いきなり端末活用となると先生方に困惑も多かったというが、「ミライタッチ」が入ったことでICTに苦手意識を持つ先生も、従来の黒板の“置き換え”から取り掛かれたことは、この電子黒板がICT化に支援的な役割を担ってくれたと感じるという。もちろんiPadとも親和性が高い。結果として端末活用へのスモールステップになった気がすると上 指導主事は分析する。
教育指導課 太田 洋 課長はデータ保存できる機能を高く評価する。「黒板と違って書いた内容を保存し、振り返りでまた提示できる。事前に用意された教材ではなく、自分が参加している授業の中で教材ができ上がっていく喜びを子どもたちは持てるようです。まさに主体性につながる良さを感じます」。電子黒板ならではの機能が子どもたちの学びに変化をもたらしている様子だ。
「ミライタッチ」で進行するスムーズな授業
鎌倉市のGIGAスクール推進校である腰越中学校では、2021年4月から120名の全校生徒が1人1台iPadの活用を開始。同時期に普通教室と特別教室に計16台の電子黒板「ミライタッチ」を導入した。
中学2年生の地理の授業を見学した。3~4名のグループごとに、各自iPadを使いながら自分で調べた画像データをグループに共有したり、集まったデータを入れ替えて整理したり、グループで決めたテーマに沿って素材を精査する生徒たち。Googleのアプリケーションを多用している。
金子達也教諭(生徒指導担当、2年生・社会科)は、授業展開の中心に「ミライタッチ」を据えてテンポよく進行していく。「ミライタッチ」の画面上のアイコンに指先でポンと触れ、表示するスライドを素早く切り替え、次にするべき内容を示しながら生徒に解説。操作は滑らかで、授業全体がとてもスムーズな印象だ。解説後は歩いて生徒を見回り、躓いている様子があればiPadを覗き込んでポイントを促す。
黒板と電子黒板のできること・できないこと、用途は異なると思うと金子教諭は話す。「黒板には基本的に1時間を通して消さない内容を書き、『ミライタッチ』には授業の流れに合わせて内容が動くものを表示して差別化しています」。それぞれの特質を利用して効果的に使い分けている。
オンラインで動画もすぐに見せられる手軽さと機能が魅力
金子教諭がよく使う機能は「ブラウザ」だという。見せたい画像や動画を検索してすぐに見せることができ、ブラウザ版のアプリにも入っていける。次に、HDMIで自身のiPadをつなぐなどしての「教材提示」。そして、書き込みする「ホワイトボード」機能と続く。
生徒からの提出物は全てデジタルに移行した。Googleなどのアプリケーションを使えば回答の集計が手間なくできるため、正答率や平均点を「ミライタッチ」で即座に提示することもある。「データ集計を瞬時に見せてあげれば子どもたちのフィードバックにすごく役立ちます。従来だと順番に『1番の正解は1。次は…』と、それでは授業の半分を使ってしまいます。生徒が間違えやすい部分はもう一度テストで確認して苦手を補う手立てにもなりますし、生徒にもそう伝えます。ここみんな引っかかったよねと『ミライタッチ』にドンと出してあげると、理解が進みます」。
グループワークにおいても、その場で出た生徒たちの意見の集約や確認も簡単にできる。その様子を「ミライタッチ」に映して、先生が「この班のこの意見に注目して」と差し示せば、生徒も手元のiPadを操作してサッと確認できる。いわば「指示書」のような役目で電子黒板を使えることも時短になりとても便利だという。
「『ミライタッチ』は機能の充実度が高いですが、使い方はいたってシンプルで難しくありません。その引き出しを我々がどのぐらい使いこなせるか」。今後は、学習のためのICTとして、より正しい使い方を学校・生徒・保護者も巻き込んで考えていきたいと話す。
世界と子どもたちをつなげる橋渡しに
「ミライタッチ」がやってきたことで学校活動全般において取り組み方の選択肢が増えた。岩岡教育長は、「導入から1年目ですが電子黒板のポテンシャルを活かした教育活動がかなり生まれています」と事例を挙げる。
たとえば、核兵器の問題を取り上げた小学校の授業では、長崎大学の准教授の先生方と「ミライタッチ」を介してオンラインでつなぎ、場所の制約を越えて話しを聞く経験ができた。また、調べ学習の一環として取り組んだ地域学習では、修学旅行先がお互いの地域だと判明した姉妹都市の栃木県足利市の子どもたちと、それぞれの地域の魅力を伝え合うプレゼン大会がオンラインで実現した。他校との交流はもちろん、調べ学習をする必然性も生まれたという。いずれも教室を拡張して外の世界とつながる好例となった。
「ICTはシンプルに学習者中心の学びを創り出すためのもの。当然、子どもたちのアウトプットを重視しますが、動画や音楽、3Dプリンターでも、主体性の発揮の仕方はいろいろあっていい。その発揮できる環境を全体として調えていきたいです。ただ、学ぶことを自分一人で完結してしまってはもったいない。クラスのみんなに提示する、説明する、共感を得る、意見をもらう。場合によっては対外的な発表やフィードバックの機会を作ることも大切でしょう。30数名いる教室では、やはり電子黒板がその中核になっていくのではないかと思います」と語る岩岡教育長。
一人ひとりの端末、外の世界と子どもたちをつなげるための橋渡し。今後も電子黒板を活用して、社会に開かれた教育と学びの本質を追求していく意向だ。
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