2017年5月24日
道徳でICT+図工はプログラミングでアートに挑戦、府中第三小
2020年学習指導要領の改定に向けて、「ICTの活用」だ、「プログラミング教育」だ、といっても、何からどう始めて良いのかさっぱり分からない。無闇に手を出して失敗もしたくない。というのが、多くの学校関係者の正直な気持ちではないだろうか。
そんな学校現場を支援しているのが、東京都教育庁が進める「東京都公立小中学校ICT教育環境整備支援事業」だ。
昨年9月に同事業でICT機器を導入して、ICT活用に取り組んでいる東京都府中市立府中第三小学校で公開授業を行うというので訪ねてみた。
府中第三小学校では、ICT機器導入の第1の目的を「児童が主体的に課題に取り組むためには、興味・関心を持ち、学習の見通しが持てるようにする」、第2に「教科・領域の学習内容の定着を図ることはもちろん、学習した内容をまとめたり、発表したりすることでコミュニケーション能力をみにつける」と設定、「教科・領域の指導におけるICTの活用」をテーマにした実践を重視してきた。
1クラス分の1人1台タブレットPCという環境が用意されたが、はじめに教師のみが使用する「一斉授業」での利用を開始。ICT支援員の協力を得て機器設定やデジタル教科書、授業支援アプリなどの活用研修を実施しながら、徐々にグループで1台を使用する「協同学習」、児童1人1台で使用する「個別学習」へと技術やノウハウを向上させたという。
最初の公開授業となった、市原正輝教諭の3年生の道徳では、1人1台のタブレットPCを投票装置として利用して、児童の感じ方の変化を視覚化、共有化しながら授業を進めていた。
「決まりは何のために」をテーマとした本時は「わりこみ」を資料にして、社会の規則や決まりの意義を知り、決まりを守って行動しようとする心情を育むというもの。
例え話として、プレゼントがもらえる行列に並んでいる主人公の男の子が、後ろの方に親友と弟の2人を見つけ、自分の前に入れてあげる。あなたならどうするか。赤「自分の前に入れてあげる」、青「入れてあげない」、緑「どちらでもない」。タブレットの3色のボタンにタッチして投票する。投票後は、画面全体が投票した色になるで、教師は机間指導の時、児童の考えを容易に把握することができる。
大型画面に教師が結果を表示させると、半数以上が「赤」の答え。多くの児童は、親友のために入れてあげたいと思っている現状が把握出来る。
例え話の続きは、前に並んでいた女の子が一気に友だち10人を前に割り込ませる。主人公の男の子は「何で割り込ませるんだ」と怒るけれど、女の子に「あなただってやったじゃない」と言われてしゅんとするというもの。
ここでみんなもう一度考える。「男の子はどんな気持ちになったのだろう」「どうすればよかったのだろう」。「割り込ませるのは良くない」「女の子は10人入れたから8人分ずるい」「やっぱり友だちは入れてあげたい」などなど意見が出て、再度3色ボタンで投票。
「赤」の数が減って「青」や「緑」に変わっている。大型テレビに1回目と2回目が並べて表示され、その変化は一目瞭然。赤から色の変わった児童の意見を聞くと「ずるいから入れない方が良い」「けんかになるから止めた方がよい」といった答。「緑」と答えた児童は「友だちだから入れてあげたいけれど、割り込ませるのはよくないし、どうしたらいいのか」という現実的な迷い。
「赤」から「赤」と答が変わらない男子児童は、「まわりになんと言われようと、親友は入れてあげる」という男気あふれる答え。さあ、どうする。この答えに対する、小学校3年生の議論を聞いてみたいところだが、残念ながら時間となってしまった。
2時間目の授業は、山内佑輔教諭の6年生の図画工作。テーマは、「プログラミングでアートに挑戦!」。本時のめあては、ビジュアルプログラミング言語「Viscuit(ビスケット)」を活用してつくる、動く模様の形や色の美しさ、面白さに関心をもって見ることを楽しむ。
「Viscuit」を開いたらはじめに、シンプルな図形である「線」と「丸」を描く。パーツはこの2つだけ。つづいて、「Viscuit」のプログラミングの基本である、動きの命令を与えるための「めがね」の使い方を簡単に説明する。線が回転しながら増えるよ。増えながら移動すると模様になるよ。丸も動きながら増えると模様になるよ。
線と丸しか使っていないのに、すべての児童が異なる模様を描き出す。
一旦手を止めて、先生が面白い模様を紹介する。「いいかな、綺麗だな~とか、凄いな~って驚かせるのがアートの楽しみなんだ。他に人のいいなと思うのを見て、真似してもいいよ」と、他の作品の鑑賞タイム。
「すげー」「なんだこれ」「どうなってるんだ」と、子どもたちの驚きの声が湧き上がる。
子どもたちは、これはと思う作品は、動きを止めてどういうプログラミングになっているのか「めがね」を表示して確かめる。
あんな色にしたい、形は、動きは、こんな風にしてみたい。浮かび上がるイメージを、プログラミングというツールを使って形にする。デジタルアートである。
山内教諭に、「Viscuit」を使ってアート作品をつくるメリットを訊ねると、「やはり“動き”ですよね。色や形だけならふだんのツールでも描けますが、動きはプログラミングでないと表現できません。それと、偶然性ですね。めがねのちょっとした操作で、おもいもよらない模様や動きが現れて驚きがあります」とのこと。
線と丸を描くだけでアートが作れるんだから、ふだん絵の下手な子でも能力を発揮するチャンスがあっていいですよね。と訊ねると、「普段から絵の上手な子だけが能力を発揮できるような授業はしていませんけれどね」と、窘められてしまった。
山内教諭は、「Viscuit」の開発者である原田康徳博士直伝のビスケットファシリテータ講習を受講して、「Viscuit」のノウハウを会得している。だからこそ、シンプルな素材で複雑で感動的なアート作品を創作できる、プログラミングの良さを活かした授業を提供できるのだろう。こんな素晴らしい授業が、7月の支援事業終了後提供できなくなるのは、とても残念なことである。
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