2017年10月30日
前原小、6年生がフィジカルコンピューティングで「電気」を学ぶ
IoTやAIなどに関連し、教育でも注目されているのが「フィジカルコンピューティング」と呼ばれるもの。人間とコンピュータをさまざまなセンサー技術を使って結びつけるシステムなどを指す言葉だ。
東京都小金井市立前原小学校は20日、「『電気の性質とその利用』でフィジカルコンピューティング」と題した6年生理科の公開授業を実施した。
同授業は、前原小学校、東京学芸大学加藤直樹研究室、アーテック、CA Tech Kidsの4者による産学連携事業の第2弾。今回の授業は、単元計画にある「身の回りの電気の利用」の中に位置付けたという。どのような展開になるのか、同日、前原小の理科室へ向かった。
担任の蓑手章吾教諭が編成したという16グループ(1グループは2人または3人)には、1人1台のタブレットPCと各グループに1つのコンピュータ基板「Studuino(スタディーノ)」が用意されていた。そして今回は、CA Tech Kidsから8名の大学生メンターが生徒のサポートとして同席、2グループに1名という体制が取られていた。
授業冒頭、代表して2グループのアイディアが生徒から発表された。「人の気配が数分なければ自動で電源を落とすストーブ」と「部屋の温度を感知して調節ができる扇風機」。どちらも暮らしに便利そうである。早速、各グループによる制作が始まった。
扇風機作りに挑戦するグループの様子を覗いてみた。電池のプラスとマイナスを確認し直列につなぎ、温度センサーや手の平サイズの扇風機を基板に接続、順を追って一つひとつ組み立てていく。その傍らで手順を促したりアドバイスしたり、メンターが生徒をさりげなくフォローしていく。
接続が完了すると、タブレットPCでプログラミングを確認しながら、与えた条件に扇風機のプロペラが動作するかテスト。25℃以上になったら回りはじめるという設定。温度センサーにフーっと息を吹きかけ温めて試してみるが、「う~ん 反応しない」と表情が曇る。
「もう一度頑張ってみよう」というメンターの声かけに調整を繰り返す生徒。すると何度目かのトライでプロペラが勢いよく回り出した。この後さらに、温度に応じてスピードが変えられるようにもなった。
次に、回るプロペラに触れると危ないので、赤外線センサーを利用して、人やモノが近づいたらプロペラが止まるというプログラムに挑戦。「もし・・なら・・する」という条件で赤外線センサーの値を設定していく。ところが、また思うように動作しない。「タッチセンサーは反応しているけど、モーターが動かないのは?」とメンターが原因を一緒に考えていく。しばらく続く試行錯誤、踏ん張りどころだ。やがてセンサーに反応してプロペラの動きが止まる。「やった!」と思わずガッツポーズの生徒。乗り切った彼らに笑顔が戻った。
6年生は、プログラミングに使用しているScratchで順次・繰り返しはすでに理解しており、今回は条件分岐と変数の使い方がポイントだったという。
最後に振り返りをSchoolTaktに書き込む。タイピングは6月から朝学習などで練習を重ねているという。その成果は画面を見れば一目瞭然。5分もない中、80字程度を打ち込めている生徒もいた。できたことやできなかったこと、気づきなどを記録して授業は終了した。
その後、研究協議会が行われた。
授業計画などを担当する東京学芸大学の加藤准教授は、「電気はつくること・ためることができ、光、音、動力などに変換できる。電気の流れはプログラミングで制御できる。自分でさまざまなモノを考えて道具を開発してみる。理科なのにここまでできます」と授業概要を説明。一方で「論理的思考とはいったい何か、どう捉えるかはチャレンジの段階。模索を続けている」と率直に語った。
前原小の蓑手教諭は、「プロトタイプを作るのは今回がはじめて。モノがあるから気づけることがある」と振り返る。例えば、ドアを開けたら、閉めるには逆回転させないといけないと気づいた生徒がいたという。体験の中で出る発想。それが身の回りのモノに思いを馳せることや社会参画につながるのではないかと述べた。
CA Tech Kidsの上野朝大代表取締役社長は、今回の大学生メンターの派遣について、「メンターなしでこの授業を再現できるかと言えば非常に難しいだろう」とした上で、それでも8名(述べ12名)ものメンターを用意した理由を「ベストプラクティスをつくるため」と説明した。
「どこでもできることではないだろうが、場合によっては可能な小学校もあるはず。例えば、ある自治体では市民ボランティアをメンターとして育成してデータベースに登録し、学校から要請があれば派遣ができるという体制を作っている。メンターを揃えるのはできないと決めつけず、地域によって状況の差はあっても、教員のみなさんがリーダーシップを発揮し、子どもたちに必要であればその素材を揃えてあげる気概を持つことを松田先生から感じた」と経緯を語った。
「ベストプラクティス」の言葉を引き継ぎ、「私が願っているのは、子どもたち一人ひとりの豊かな学びの実現」と松田校長。「人的リソースが使えるなら使う。物的リソースも、学校の配当予算を校長がうまくアレンジすれば使いようで揃えていける。それでも限界があるから民間との協働。だからこの授業が展開できた」とまさに気概を示す。「教員のレベルに合わせるのではなく、あくまでも子どもたちのためにどうするか。今日は、可能性の一つのあり方として見ていただけたらありがたい。それぞれの地域や学校にある条件の中で最善を目指そうと思ってほしい」と呼びかけた。
質疑応答では、参加者から「評価にプログラミングを反映する場合どう考えるか」との質問に松田校長は、基準を設けて「できた・できない」の意味はあまりないように考えていると回答。「本時でもあったように、授業が終わるたびに振り返りを書き、毎時間重ねるたびに自分でメタ認知(自己評価)するような感想に対して、信頼できる他者である教師が共感したり、理解したり、次の示唆をしたり、そうしたコメントがあればそれでいいのではないか。これから情報化社会で大きく変わっていく中で、そこにいかに自分たちが主体的に関わっていけるか。評価は、基本はモチベーションを高めて上げればいいのではないかと考えている」とした。
さらに、「プログラミングは新しい教育のあり方、授業展開、評価、指導法まで影響が及ぶもの。単に今までの授業に付け足して、教員が効率的に何かを教えるためのものではないということ。新しい学びとして教育は抜本的に変わっていかないといけない」と加えた。端的に言えば「基準は無理。昭和の教育やめようよ」ということだ。
「フィジカルコンピューティング、子どもたち本当に楽しそうじゃないですか」。
松田校長の軸足は常に変わらない。子どもたちのために必要なことの具現化に労力を惜しまない。校長の言葉を借りれば「思いがあれば実現できる」からだ。このベストプラクティスから、気概の呼応が広がっていくことを期待する。
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