2015年12月28日
知識と体験で驚きのICT活用法を学ぶ研究会/愛和小 × Ludix Lab
「“5-(-3)=8”、を身近なものに置き換えて小学生に説明できますか」。教育版レゴ マインドストーム EV3(EV3)の簡単なデモを終えた後、松田校長が参加者に訊ねた。答に困った参加者に、校長がEV3のプログラミングで説明する。「EV3の車輪を前進で5回転、マイナスは後ろに3回転で、セットします。これで走らせてみましょう」。
参加者の誰もが、「それって“5-3=2”じゃないのかな」と思う。床にEV3を置いてスタートさせる。「いーち、にーい、さーん」と松田校長がEV3の進行に合わせてカウントする。「ご」まで来たときに松田校長はEV3を持ち上げて180度反対向きにして床に置き、後進するEV3に合わせて「いーち、にーい、さーん」とカウントする。「8進みましたね。これが、“5-(-3)=8”です」と、満足顔の松田校長。
会場からは「へ~」とか「そんな~」といった納得できない感が漂うが、松田校長はおかまいなしに「人間でもできるんですよ。1、2、3、4、5歩進んで、くるっと回って、後ろ向きに1、2、3歩。はい、これで8歩」。
26日、ゲームと学習に関する研究・開発・実践を支える学術的な研究ユニットLudix Lab(ルディックス・ラボ)と多摩市立愛和小学校が東京大学福武ラーニングスタジオで開催した公開研究会、「愛和小学校 × Ludix Lab “i和 design 冬期講習会@東京大学”」の冒頭、1時間目として行われた愛和小学校 松田 孝校長の講話の一場面である。
確かに、面白い。“+”は順方向、“-”は、くるっと回って反対方向、プログラミング思考だから説明できることかもしれない。
20年後の2035年の社会のあり方から小学校教育を考えるべきだと主張する、松田校長。「日常生活のあらゆる場面でロボットが活躍し、デジタル機器やデジタル職業が溢れる時代。そんな時代に大人になる子どもたちに、20世紀の大量生産を支えた教育をやっていていいのか。学校は社会を生き抜くための技術を学ぶ場。デジタルが当たり前のプラットフォームになるのだから、教育現場だってICTを活用した21世紀のスキルを学べるものでなくてはならない。そのためにPCやタブレットを使うんです」と、強調した。
「最近公開された映画で登場するロボット、BB-8。映画のなかだけじゃなくて実際にあるんですよ。校長決裁で消耗品として購入しました」と、会場を暗くして光り走り(転がり)回るBB-8のデモが始まると、会場から歓声が起こった。
2時間目の授業は、設楽教諭によるプログラミングの模擬授業。EV3を使って実際にプログラミングの体験。「順次」「繰り返し」「条件分岐」など基本を学んだ後、2人1組で与えられた課題の走行プログラムを作成する。
コースの距離を測って命令をプログラミングする過程で、円周率を使って算出したタイヤの外周から走行距離を割り出したり、曲がる角度を決めたり、算数の加減乗除などの実際の使い方も学べるという。
また、計算上正しいプログラミングでも、床が歪んだり傾いたり、タイヤが滑ったりと状況が均一でないことが原因で結果が計算通りにならないということから、人間によるトライアンドエラーが課題解決に必要だということも学習できる。
3時間目の授業は、上田教諭と下鶴教諭による、バーチャル地球儀ソフト「Google Earth(グーグルアース)」と授業支援アプリ「ロイロノート・スクール」を使った社会の模擬授業。
はじめに、グーグルアースで日本の最四端(択捉島・与那国島・南鳥島・沖ノ鳥島)のひとつ、沖ノ鳥島を地球サイズから一気に肉眼サイズまで拡大し、その島が小さな岩であることを確認する。そしてその小さな岩の塊が、コンクリートや金属を使って守られているのはなぜかを考える。
グーグルアースは沖ノ鳥島のアップから日本の排他的経済水域を示す大きさに縮小され、「もし沖ノ鳥島が日本の領土でなくなったら、排他的経済水域はこんなに少なくなります」と、画面上に示された沖ノ鳥島中心の海域表示が消えて、その流域の広さを実感させる。
つづいて、グループごとに指定された特徴ある地形の場所をグーグルアースで探して、その場所の特長を分かり易く捉えた画面をスクリーンショットで保存、グループ内で見せ合って代表を選び、「ロイロノート・スクール」で教師に送付する。
送付された画像を大型スクリーンに映し出して、グループ代表がなぜこの場所、このサイズ、この角度の画像にしたかを発表する。愛和小学校の授業ではよく見られる光景だ。
4時間目の授業は、才記教諭と鈴木教諭による国語の模擬授業。「鳥獣戯画を読む」と題したこの授業では、鳥獣戯画の1シーンから「表情」「動き」「姿勢」などを手がかりに描かれている意味を読み解くというもの。
授業支援アプリ「スクールタクト(SchoolTakt)」を使い、それぞれの観察結果を鳥獣戯画の画面に印を付けたり文章を書き込んだ回答にして教師に送付する。
送付した回答が大型スクリーンに一斉に表示されると会場からは、「こんなっことが出来るんだ」「便利だ」などと驚きの声が上がった。これも、愛和小学校では見慣れた光景である。
この授業のもう一つの大切な要素が、「他者のものの見方を通じて、自分の考えを深める」ため、他の人の回答に意見や感想を述べるというもの。一斉に提出された回答は全員に配付され、誰の回答に対しても意見を書き込むことが出来る。さらに、スクールタクトには、誰が誰に意見を書き込んだかがマトリックスで表示される機能があり、クラスの状況を教師が把握できるという。
授業の最後に才記教諭が「さすがに大人相手だと、ふだんの子ども相手の授業と違って、様々な視点、深い洞察が出てきて思白いですね」と感想を述べた。教師が大人相手に授業を行う事が、授業の幅を拡げるのではないかという可能性を感じさせた。
ランチタイムには「学校を楽しくて学べる場にする方法をかんがえる」と題し、東京大学教養学部附属教養教育高度化機構 特任助教でLudix Labフェローの福山佑樹氏と東京大学 大学総合教育研究センター 助教でLudix Lab代表の藤本 徹氏がランチョンセッションを開催。
「ゲーム学習とは何か」「ゲーミフィケーションとは何か」といったアカデミックな知見や、米国の学校で行われているゲーム要素を取り入れたカリキュラム編成の実例紹介など「学校を楽しく学べる場にする」ためのヒントが提供された。
参加者からは、「自分の周りではまだICTの活用は進んでいないが、こうした先進的な取り組みを多くの人に伝えて欲しい」、「スクールタクトのようなツールがあることを知ることができて新鮮だった」、「期待以上に沢山の情報が得られて良かった」などの感想が訊かれた。
最期に松田校長から、「ICTは使えないとか効果が無いとか、使っていない人たちに言われたくない。今日手伝ってくれた愛和小学校の教師たちも皆、ゼロスタートでここまでになってくれた。凄いと思う。だから多くの先生方にICT教育を初めて欲しい。新しい時代の、新しい教育を作るために」と、参加者へエールが送られた。
今回使用した、EV3、BB-8、iPad、Windowsタブレット、Chromebookなど数十台の機器は、すべて愛和小学校の教師たちが持ち込みセットアップしたもの。2年間の経験と努力は、授業だけでなく急速かつ確実にICTスキルも向上させている。
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