2016年11月28日
ICT活用授業、極めれば“ハイブリッド” つくば市40年の成果
ICT活用公開授業といえば、従来の授業の中にタブレットや電子黒板、授業支援アプリなどのICT教育ツールを無理矢理組み込んで利用するか、ICTツールを使うために苦労して新しい授業を設計して、見ている側も緊張してしまうようなものが見受けられる。
ICT教育導入初期ならやむを得ないことだが、先進的な取り組みをしてる自治体や学校の公開授業から学ぶのは進化を速めるのに最適だろう。もちろん先進的だからと言って、文部科学省が危惧する高度で真似できないようなものではない。
11月22日、茨城県つくば市とつくば市教育委員会は、「2020年の学びを変える 先進的ICT・小中一貫教育研究大会」を開催。市立春日学園義務教育学校(小中一貫校)では、「文部科学省教育課程指定校研究(論理的思考)」の研究発表会が行われた。研究主題はもちろん、「ICT活用」、ではない。「論理的思考力を育む学習指導のあり方~教科横断的な能力としての思考スキルの習得・活用を通して~」となっている。
具体的には、児童生徒に思考スキルを身につけさせるために、筋道立てて考えを構築して表現する力、いわゆる論理的思考力と、その力を活用して自他の考えを協働で良い考えへと再構築していく力の、両方を育む学習指導のあり方を追求するというもの。その手段としてICTが利用されている。
同校の発表会は昨年も参加したが、とにかく公開授業が盛りだくさん。公開授業1では、1年生から9年生まで7つの授業。公開授業2でも7つの授業が行われる。昨年はグルグル回って視点が定まらなかったので、今年は、それぞれ1教科に絞って取材することにした。
公開授業リストを見ると、算数・6年・単元名「円の面積」・授業の見所「8年生から6年生に挑戦状(応用問題)を出します。タブレット1人1台を効果的に活用した協働授業をおこないます」・活用するICT機器「電子黒板、タブレット、スタディネット」とあった。
これはもう、ICTバリバリ活用に違いない。早めに移動して、最前列を確保、授業開始を待った。多くの参観者を予想してか、武道場に机が並べられ、特設教室が設定されていた。子どもたちの机の上には既にタブレットが設置されていて授業開始の大勢は万全だ。
小島 桂 教諭による授業が始まった。まずは、これまでの学習の振り返り。図形の面積の出し方をお復習いする。
円の面積の公式は、「半径×半径×3.14(円周率)」。
三角形の面積の公式は、「底辺×高さ÷2(×1/2)」。
台形の面積の公式は、「(上底+下底)×高さ÷2(×1/2)」。
正方形の面積の公式は、「一辺×一辺」。
長方形の面積の公式は、「たて×よこ」。
ひし形の面積の公式は、「対角線×対角線÷2(×1/2)」。
平行四辺形の面積の公式は、「底辺×高さ」。
子どもたちの答を聴きながら、小島先生が黒板に公式を書いた紙を貼っていく。「いろいろな図形の面積の出し方を習ったね」。一度貼ったら、授業が終わるまでそこにある。それがアナログのいいところ。
準備が整ったところで本題。電子黒板に流された“小芝居”の映像の流れで「複雑な図形の面積を求めろ」という先輩からの挑戦状が明らかになる。もちろんこれまでに習った、図形の面積の公式を活用するのだ。
ここで、紙のワークシートが配付される。ICT活用が目的なら、ここは授業支援アプリで一斉配信も可能だが、思考スキルのためなら紙の方が有効なのかもしれない。まず、予想を書き込んでから、自分の考えをまとめる。
自分の考え方、面積の公式が決まったら、スタディネット(授業支援システム)でタブレットに配信された問題シートに書き込んで提出(送信)する。電子黒板に全員の答が表示されていく。同じ画面は子どもたち全員で共有し、まわりの子と相談したりしながらその中から代表的な答を選んだり、自分と異なる公式をワークシートに書き写したりする。その答えについて、説明できる子や答えた本人が考え方を電子黒板の前で解説する。
いて2倍し四角形から引くという公式。2つ目は、1/4円から三角形を引いて2倍するという公式。
なるほど、2種類の公式があるのか、と思ったところで8年生からのビデオレターが電子黒板に映し出される。なんと、第3の公式を提示する。
1/4円+1/4円-四角形。なるほど、そんな考え方もあったのか。
もちろん、小島先生が最後にその答が残るようにコントロールしているのだろうが、「いろいろな公式の考え方がある」ことが強調される、見事な授業構成になっていた。あわせて、アナログとデジタルの使い分けが見事な“ハイブリッド授業”だった。
振り返りでは「面積を求める公式は、ひとつだけということはなく、いろいろな考え方の公式があることがわかりました」という感想が述べられた。
続いて取材したのが、佐々木香織教諭の4年生「音楽」。作曲ソフト「VOCALOID Education(ボーカロイド 教育版)」を使って「1年生にプレゼントする歌をつくろう」という全7時間の学習。
本時は、その6時間目。授業が始まった時には、すでにプログラミング作業は終わっていて、グループ毎に自分たちが作詞作曲した歌をうたっていた。
本時のねらいは、「進化のまほうを使って歌を仕上げよう」。音楽の「旋律」「速さ」「くり返し」「問いと答え」などの要素や仕組みを使って、曲の完成度を高めようというもの。
ここでも見事なでアナログとデジタルの“ハイブリッド授業”が展開された。
「黒板・模造紙・マグネットシート・プリント・手書きノート・ワークシート・グランドピアノ」などのアナログツール。「電子黒板、タブレット、作曲ソフト、電子ピアノ」などのデジタルツール。必要なときに必要で最適なツールが使われる、見事な“ハイブリッド授業”である。
小学4年生が、プログラミングツールを使って作詞作曲する。という、従来の教育では想像も出来ない学びの授業が実に自然に行われている。もちろん、授業を進める先生や学習する子どもたちのポテンシャルが高いから実現していることもあるだろう。しかしその背景には、こうした授業を自然に行うことができる、つくば市が積み重ねてきたノウハウがあるのは間違いない。
それは、昨日今日、5年10年で築かれたものではない。つくば市は40年以上も前からコンピュータ利用学習~ICT活用学習に取り組んでいるのだ。市内の全小中学校52校が日本教育工学協会(JAET)の“学校情報科優良校”に認定されているほか、今回、2016年度“学校情報化先進地域”の認定も決定した。
これからICTの導入・活用を目指す自治体、教育委員会、学校関係者に言いたい。つくば市が40年掛けてやってきたことをみなさんは2020年までにやらなければならないのだ。そうしなければ、「次期学習指導要領」に対応できない。そして、それは必ず出来る。つくば市がチャレンジした40年は、ICT機器やデジタルツールが埋めてくれる。道具で埋められないことは「つくばの歴史」に学べばいい。きっと良い智恵を授けてくれるだろう。
追伸:つくば市をはじめICT活用教育に先進的な地域に学びたいと思ったら、みなさんの自治体の首長を「全国ICT教育首長協議会議」に参加させることをお薦めする。「大海を知る」ためには、それが一番の近道かもしれない。
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