2017年10月25日
SSHの横須賀高校がICTとロイロノート・スクールで取り組むPBL教科学習「Principia」
第4次産業革命がもたらす社会変革、そして2020年を起点とした大学入試改革。大きな変革の時代を迎え、高等学校教育は何処を目指して何を行うべきなのか。高大接続はどうしたらよいのか。確かな指針を示せないのが多くの高校の現状だろう。
そうした中、神奈川県立横須賀高校では、「SSH」と「理数教育推進校」を基盤に、独自の教育ビジョンを作成して高大接続や時代の求める人材育成に取り組んでいる。キーワードは「SSH」・「ICT」・「ロイロノート」・「PBL」そして「Principia」。これらの意味するものは何か。横須賀高校の目指すものは何か。順番に紐解いていきたい。
まず、SSHとは「スーパーサイエンスハイスクール」のこと。文部科学省が、将来の国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として指定し、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進、観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習等を2002年度から支援している事業である。
横須賀高校では、2016年度からSSH事業をスタート。また、神奈川県が計画している県立高校改革の一環である「理数教育推進校」にも指定された。
そして同校のSSH研究の目的は、「科学的な思考力と国際性をもち、自ら積極的に課題を発見する。そして解決に向けて主体的・協働的に取り組み、持続可能な社会の発展に貢献できる国際的なリーダーとなる人材の育成を図る」ことであり、地球規模で遭遇している諸課題への対応や、新たな課題の発見・解決を通して社会貢献につなげていくことを期待するもの、としている。つまり「論理的な思考力」と「課題解決能力」を育成することで、「科学的なリテラシー」と「国際性」を獲得すること目的としている。
さる10月6日、「課題解決型学習(PBL)~課題研究につながる教科学習~」という公開授業が同校で開催されたので参加してみた。
横須賀高校では、すべての教科・科目で、科学的リテラシーと国際性を育成するよう、単元構成や教材選択を行って授業を展開している。育成する力としては、「科学への理解・関心」、「論理的思考力」、「国際性」、「情報収集・情報処理」、「科学を応用する力」の5つを掲げている。
この日の公開授業は、そうした全体プランの一環としてロイロノート・スクールを活用したもの。1時限目は、2年生の数学B。数学では、「科学への理解・関心」、「論理的思考力」、「情報収集・情報処理」の育成を目指している。
本時の単元のタイトルは、「“演繹法”と“帰納法”、数学的帰納法の考え方」。見ただけでも「論理的な思考」が求められる難しそうな単元だ。同じ単元を「標準グループ(法文系)」と「発展グループ(理工系)」の2クラス分かれて学習する。
最初に教室を訪ねたのは「標準クラス」。授業がはじまって驚いたのは、ほとんどの生徒がタブレットではなく、自分の持っているスマートフォンをデバイスとして利用していることだ。ロイロノート・スクールへログインして、課題の配付~解答作成~解答提出まで、スマートフォンを使って難なく行っている。生徒にしてみれば、スマートフォンは一番身近で一番使い慣れているデバイスなのだから、負担無く使えるのだろう。
発展グループの教室では、隣同士2人グループで1台のタブレットを使って授業が進められていた。ロイロノート・スクールを起動してどちらかのIDでログイン。課題が配付されると2人で話合いながら解答を見つけ、提出箱に提出、回答を全体で共有する。教師はその回答を取り上げながら“帰納法”の説明を行い、また次の課題をロイロノート・スクールで配付するという流れ。
つづく2時限目は、1年生の国語総合「古文・歌物語」が、課題研究のために新設された「Science Room 1」で行われた。「Science Room 1」は、インタラクティブな授業を進められるよう、タブレット機能付きPC20台、タブレットPC(iPad Air2)30台、iPad mini(40台)、Wi-Fi環境、ロイロノート・スクールなどを導入してICT環境を整備。5台のプロジェクターによる同時のプレゼンテーションも可能になった。
国語の授業、本時は、「秋をテーマに折句の技法を用いた和歌を個々に作成し、グループで合評会を行い代表作品を決め発表する」という内容。早速生徒たちはタブレットを使って季語を検索したり、秋のテーマを探したりしている。中にはスマートフォンを辞書代わりに利用している生徒もいる。机もグループにまとめられ、合評会の雰囲気も出てきた。
和歌の作成という、苦手意識の高そうな単元でまさに苦吟の状態に見受けられたが、タブレットやスマートフォンを使いこなして必要な情報に辿り着き創作する姿は、まさにデジタルネイティブを感じさせるものだった。
振り返りの研究会で授業を担当した山崎教諭は、「ICTはまだまだ活用し切れていませんが、ロイロノートを使って、意見を集約したり、個人で考えてグループで検討し提出・発表するという使い方をしています。板書も減っています。考える授業を実践して、課題研究につながる教科研究にしたい」と、語った。
質疑応答では、今回の公開授業とタイトルにあるPBLの関連について質問があった。PBL(Project-Based Learning)とは、「課題解決型学習」のことであり、身近な課題や事例を素材としながら、具体的な課題解決に向けてチーム学習を行っていく学習方法のこと。
その答は、SSH担当の岩本総括教諭の発表「課題研究(Principia)の取り組みについて」で明らかになった。横須賀高校の「課題解決型学習(PBL)」は、授業の中だけで行われているのでなく、学校全体の取り組みとして行われているのだ。
横須賀高校のSSHの取り組みは、5本の柱を相互に関連付けながら、科学的リテラシーと国際性を育成することにある。
1.全教科・全科目における論理的思考力の育成
2.学校設定科目「PrincipiaⅠ・Ⅱ・Ⅲ」における課題研究
3.「横高アカデミア」の充実
4.国際性育成のための取組
5.科学部等の理数系活動の活性化
5本の柱の中でも、2.の学校設定科目「PrincipiaⅠ・Ⅱ・Ⅲ」における課題研究は、SSH、理数教育推進校の研究開発課題の中心となるもので、基礎的な知識を活用して、最先端の学術研究を進める研究機関等での体験活動など研究活動により「学び」・「研究の奥深さ」に触れ、生徒の課題発見能力・課題解決能力を高める課題研究を中心とした科目だという。
「Principia」では1学期に、研修旅行・研究テーマ決定・夏休みの各自研究活動、2学期には、グループでの探求活動・PCアプリを利用した中間報告、3学期には論文提出・ポスターセッション・課題研究発表会と、1年間を通した活動を展開している。
こうした「Principia」の活動を支えているのは、全教科における科学的な思考力を高める授業方法の開発と指導方法の研究であり、アクティブ・ラーニング等の手法を取り入れた組織的な授業改善だという。
また、大学・大学院から講師を迎え、考古学、宇宙物理学、古生物学、建築学、経済学、古典文学など様々な分野の専門性の高い講義を受講し、「学び」の楽しさ・大切さを学ぶ横須賀高校独自の教育システム、「横高アカデミア」では、SSH・理数推進校の開発課題に併せてフィールドワークなどの要素を組み込むなど、さらなる探求活動への計画的な支援を行っているのだという。
つまり、横須賀高校におけるPBL(課題解決型学習)とは、SSHと理数推進校としての開発課題に基づく「教育活動のグランドデザイン」全体での取り組みなのである。
研究会の最後に、生徒3名が登場し「Principia」で取り組んできた課題研究の成果を、ポスターセッションで発表した。発表テーマは、平野友夏子さんの「A New Environmentally-Friendly Light」、中谷樹莉奈さんの「トウキョウサンショウウオの観察」、喜安千香さんの「昆虫GO」。そのプレゼンテーションは堂々としたものであり、研究テーマから研究結果に至るまで見事に整理されていた。また、参加者からの矢継ぎ早の質問に対しても、手元のタブレットで資料などを提示しながら的確に対応していた。
ICT関係の公開授業を評価する場合、授業の中でどのようなツールがどう使われているか、それはどのような効果を生み出しているか、などに目が奪われがちだが、その背景にあるビジョンやプランが重要なのだということを考えさせてくれた今回の公開授業であった。
さて最後に、まだ、「Principia」の言葉の意味について説明していなかった。「Principia」は、プリンキピアと読むらしい。その意味は何なのか。あなたの興味と探究心に従って是非“検索”してみて欲しい。
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