2019年12月2日
イースト、2020年代の英語教育に「辞書の有効活用」を考えるセミナー
イーストは11月23日、三省堂、大修館書店とともに、辞書活用シンポジウム「英語×ICT 2020年代の『辞書の有効活用』を考える」を同社セミナースペースで開催した。会場には学校教諭をはじめ教育関係者などが集まった。
第1部の基調講演では、大阪大谷大学 教育学部の小山敏子教授が英語教育と辞書活用の研究内容を紹介。1990年代に電子辞書が登場した当時には、紙の辞書との比較研究を行ったという。大学生などの学習者を対象に調査したところ、総検索語数や再確認語数など、紙の辞書よりも電子辞書のほうが明らかに調べる頻度が高い結果に。さらにインタビューでは、「たぶんこういう意味だろうと思いながらも電子辞書なら引いてしまう」といったコメントも得たという。手元にあるのが電子辞書であれば引いてみる気になり、結果、検索頻度が自然に増加するというとても興味深い結論に至った。
近年の調査研究ではどうか。ICT活用など学習環境は大きく様変わりしている。高校生や大学生のスマホ所有率はほぼ100%で、使い始めは高校1年生からが多いが年々早期化の傾向にある。「辞書アプリはあるものの、GoogleなどWebにある無料翻訳機能を利用している学生が8割を超えています。英語辞書の利用状況は、読むときは『電子辞書』、『Web翻訳』、『スマホ辞書(アプリ)』、『紙の辞書』の順番。書く場合も同様でした。書くときにWeb翻訳の利用が増えるのは、辞書を引いて活用するスキルがなく、自分が思っている日本語が英語にできず、翻訳機能を使ったほうが早いじゃないかということ」だと解説。今後は、これらの辞書を学習補助のツールとしてどう組み合わせていくか、学習者の現状に合わせて考える必要性があるだろうと見解を述べた。
続いて、学習院女子大学 国際文化交流学部の萓忠義教授は、「英語4技能に求められる語彙習得法とは」をテーマに論じた。
「たとえば、これからの高校生の英語教育は、言語活動の高度化(発表、討論、交渉等)が必要です。『書くこと』『話すこと(会話・発表)』が重要で、『意味が分かる』から『実際に使える』ようにならないといけません」と萓教授。使える語彙力を駆使して英語で自己を表現すること。理解語彙(読む・聞く)から発表語彙(話す・書く)が大切だと明言。
語彙の例に「Animals」を挙げ、「『動物』だけでなく、『動くもの』という意味もありますね。これを先生がすぐに答えられるか。子どもたちもこれを学ぶ必要がある。他にも、複数形や、はじめの文字は小文字か大文字か、『a』や『the』の法則など、センシティブさを持って一歩進んだ正しい使い方まで教えないと生徒は英語を使えるようにならず、4技能に対応できません。自然で正しいインプットを与えるのが先生の役目です」とし、これからの語彙学習法については、「個々の単語に時間をかける。見るだけの情報では不十分で、全ての感覚を使って学習すること。そして必ず反復練習。記憶を確実に定着できます」と語った。また、自分が調べたい時にさっと取り出せて、ぱっと調べられる、どこでも単語検索が可能なのがスマホ利用。「学生がこの単語は何だろうと思った時が学習に最適なタイミング、そこを逃さないこと」と、スマホの携帯性や敏捷性に着目し、デジタルの辞書活用の有用性を説いた。
第2部では、中学校・高等学校の3人の英語科教諭による発表が行われた。
浦和実業学園中学校・高等学校の唐澤 博教諭は、「『辞書はオワコン? 辞書にアタル』~辞書(は)(が)(の)問題~」と題して登壇。助詞を「は」「が」「の」としたのは、単に辞書問題で済ませず、根本的に辞書そのものを見直していい時期ではないかとの考えからだという。「辞書を引くのではなくて、今はタップして、ホールドして、ハイライトする時代。紙の辞書なしでもスマホを使って大学受験に合格する生徒が8割出てきています」。自身が教諭になってからはじめて購入したのが1992年発売の電子辞書で、フルコンテンツ辞書と呼ばれたもの。以降の20数年間、紙の辞書を教室に持っていったことはないという。
「辞書は紙かデジタルの代替かでずっときてしまって、本来はもっと違うところを求めないといけないのにそこまで至っていません。たとえば、語源が一緒の2つの単語があっても、それが辞書に載っていなければ生徒はわからない。しかし大辞典になら載っています。語彙習得はそうしたことでだいぶ成長するもの」と唐澤教授。その他、自身が考えるデジタルノートと辞書の連携や、単語にCEFR(Common European Framework of Reference for Languages)基準の定義がわかる仕様のWeb辞書などの例も紹介した。
就実高等学校・中学校の姜 英徹教諭は、「コロコロイングリッシュ」という語彙学習のためのデジタル教材を岡山県の研究会を中心に作り上げたという。
同校は2017年に新校舎が完成したのを機に、全教室にWiFiを設置。2019年から新高校1年生を対象にChromebookを1人1台導入。教科書だけの授業を離れ、世界とつながりあらゆるものが教材になる環境を得たという。文法や語彙など英語の基礎は、「コロコロイングリッシュ」や辞書アプリ「DONGRI」、Google翻訳などテクノロジーを活用し、そのうえで動画などを使って活動するのが授業であり教師の役割だと語る姜教諭。「生徒たちは英語で表現したいことがあるけれどできない、そのもどかしさを辞書アプリ『DONGRI』やGoogle翻訳などを活用して自由に話せる喜びを感じているようです」。
授業で実践している活動の一つが「アテレコ」。映画などを利用し、セリフを「DONGRI」やGoogle翻訳を使ってテキスト化、キャプチャした動画に生徒自身がセリフを録音して編集するというもの。これをすると、俳優のセリフのリズムや音を真似て何度も発話練習するため、いわゆるカタカナ英語が1人もいないのだという。生徒にとっては何より楽しい授業のようだ。
昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校ではBYODを実施し、英語科では2019年から新中学1年生に「DONGRI」を導入。多読ソフトも活用している。同校の進学担当教頭で英語科の藤原敏晃教諭は、一学習者として英和辞書に違和感を持っていたという。「訳語はあるが定義が載っていない。いわば巨大な英単語集。英英辞書には定義が載っており、これを英和辞書に活かせないかと。学習者が英英辞書を使いこなしにくい理由は全て英語だから。日本語のヘルプがあるとだいぶ違います」。そこで自身は、「定義」を「定義訳」し「訳例」も掲載した「ワードパワー英英和辞典」を2002年に出版したという。
「DONGRI」には英和も英英も収録してある。ジーニアス英和辞典やCollins COBUILD Learner’s American English Dictionaryなどいくつかの辞書を組み合わせて引けば、より本質的な単語の理解を得やすい。「たとえばsee、look、watchなど、英和だけではニュアンスの違いがわからないものでも、英英は類義語の区別に威力を発揮します。さらに、発信力を鍛えるのにも最適」と説明する。
同校で授業のはじめに行っているという2つの活動を、この日の参加者も体験した。1つ目は、提示された「定義」を読み、その「英単語」を当てるというワーク。2つ目は反対で、ある「英単語」を見て、その「定義」を英語で説明し、他の人に当ててもらうワーク。いずれも現在の自分の語彙力で考えたり話したりするのに良い訓練になる。
「紙の辞書では英英と英和を合わせると分厚くて重くて結局使いづらい。しかしデジタルの辞書であればコンテンツを気にすることなく載せられるはず。英和に英英をくっつけてもらえると英英和辞典がデジタルで日の目を見るのかなと期待しています」と藤原教諭。
今後、ますますグローバル化する社会で大切さを増す英語。その基礎を支え、学習に欠かせない辞書。ICTを活用した学習がスタンダードになりつつある今、辞書そのもののあり方も、使える英語の習得のための有効的な活用方法も、新たな探求の段階を迎えている。
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