2020年5月11日
「長期休校期間とどう向き合うか —ICT教育の始め方—」/奈良女子高等学校
奈良女子高等学校 英語科主任
木島 貴明
【寄稿】
奈良女子高等学校は、奈良県奈良市にある創立128年を迎える女子校である。今年度よりICT教育導入元年とし、今年度入学生より1人1台iPad環境など設備を整え、新校長主導の下ICT教育の充実を図っている。
新型コロナウイルスにより多くの小・中・高等学校では長期休校期間を余儀なくされているが、その間生徒たちの教育をどう保証していくのかということは、我々学校側にとって打開せねばならぬ最重要課題となっている。対策として各県教育委員会は在宅教育のガイドラインにおいて授業動画の配信を始めとした遠隔教育の展開を掲げているが、本校においても手探りながらいち早く対策に入った。その軌跡を紹介したいと思う。
自習課題としては量が多い、授業の代わりとしては物足りない
休校期間が始まると、教員たちで生徒たちにしてもらう課題を作成し発送を始めた。各教科からプリントが郵送されることになったが、既に新学期は始まっており授業を進めていかねばならないので予習も当然含まれてくる。プリントを授業の代わりとして生徒が一人で新しい単元を進めていくのは難しく物足りないし、自習課題としては量が多いイメージであった。そこで、補助として授業動画を作成することにした。
「奈良女子サプリ」と命名したYouTubeチャンネルへ特定の人間しか視聴することができないよう限定公開の形で授業動画を各教員が投稿した。その動画をどう生徒たちに届けるか悩んだが、①ネット上の情報にアクセスする際に煩雑なURL をタイプする必要がないこと②生徒たちはURLをタイプするというよりQRコードをスキャンする方が慣れていること。以上2点より、動画のリンクをQRコード化し、そのQRコードを印刷したものを郵送することにした。授業内容で質問がある場合は学習支援クラウドサービスであるClassiを通して対応している。
動画をただ届けるだけではなく、学習の定着を測るために確認テストを実施し視聴学習の成果を測ることは単位認定をしていく上で欠かせないため、もちろん各教科で実施しているが、更に深みのある視聴学習の成果を手に入れ、生徒個々の状況把握をできるようにしたいと考えYouTubeの機能であるチャンネルアナリティクスを活用するようにしている。動画の視聴回数や視聴された時間など、動画視聴に関するデータを分析することで、生徒たちの行動を少しでも把握できればとの試みである。このチャンネルアナリティクスで分析できる項目は多岐に渡り、詳細に分析することで視聴者の実態をより掴める可能性がある。動画の投稿先をYouTubeにすることのメリットの1つであろう。
「奈良女子サプリ」のチャンネルは全教員で管理しているのでアップされている全ての授業動画の視聴が可能である。普段はあまり見ることがない他教員の授業を視聴することができ、各教員様々な発見があったと言う。さらに、授業動画を投稿する際には内容を確認するので、自らの授業を見つめ直す機会にもなっている。生徒たちに発信することで自らの授業スキル向上にも繋がるというのは思い掛けない副産物であった。
環境の整備
ネット環境が整っていない家庭についてはWi-Fiルーターを、パソコンなど機器がない家庭には貸し出し用ノートパソコン60台を今回のために購入した。また、作成した動画をDVDに焼き、郵送する手筈も整えた。
生徒たちに授業を届けたいという想いは膨らみ、わずか一ヶ月足らずで授業動画は200本以上を越えた。そのうち100本以上は英語科の動画であり、今年度から英語教育に力を入れようとする心意気の現れとも言えよう。
学習サポートだけでなく、生徒の生活状況の把握も忘れてはいけない。毎朝と夕方には朝礼と終礼のメッセージをClassiを使って投稿し、要所で電話連絡も行っている。しかしながら、Classiは全国で幅広く使われており、本校の様にClassi上で課題や連絡を流す学校がこの長期休校期間に急増した。そのためアクセスが集中し、サーバーダウンが原因で連絡を送れない期間があった。これからも同様の事象が起こると想定し、学校公式LINEを開設し、HPにも情報を載せることで連絡漏れのリスクを最小限にした。
コロナ・レガシーをどう活かすか
この休校期間、未曾有の出来事に忙殺され、教育界は混沌を極めた。そして当面の間は同様の状況が続いていくであろう。しかし、その中でも我々教員が奮闘し築き上げたものは確実に「大いなる遺産(レガシー)」である。
具体的な話をすると、この期間で作成した授業動画や遠隔授業のノウハウを不登校・別室登校生徒の学習支援に繋げていけないだろうか。そうすることで今まではプリント課題を配布するに留まっていたものから、より手厚いサポート体制を敷くことができる。特に、本校はその様な援助を必要としている生徒が少なくない。上手く制度化できれば彼女たちの過ごす時間をより実りのあるものにできるに違いない。
今年度よりICT教育に踏み出し、授業を録画したり、デジタル教科書を投影することで板書時間を短縮したりと、従来の授業をより分かりやすくことには成功していると実感している。つまり、生徒へのアプローチの仕方が増えたのだ。しかしながら、ICT活用による教育の本質的革新にはもう一踏ん張り必要で、ICT教育先進校との差を痛感している。と言うのも、与えられたタブレットや電子黒板・プロジェクターの用途は画像・資料提示に留まっている場面が殆どなのだ。生徒たちの意見を集約・管理・提示し、教室全体を巻き込み、一方向授業だけでは見えてこなかった(テストの点数や通知表の評定値のみでは評価しきれてこなかった)生徒たちの新しい姿を評価していくアクティブラーニング・プロジェクト型授業に代表される次世代教育を展開していくにはもう一歩努力が必要なのだ。
終わりに
「生徒との関わりNo. 1」を掲げ教育を展開してきた本校であるが、それは生徒指導が手厚いイメージが先行している。実際に中学校で進路指導を担当される先生方が持つ本校の位置づけは10年以上「生徒指導が手厚い」というイメージだそうだ。裏を返せば学習指導についてはまだインパクトを与えられていないということだ。
ICT教育を奈良女子の柱の1つとして学習のスタイルを革新し、従来であれば陽の光が当たることがなかった生徒の姿を見出したい。奈良女子に対する固定観念を覆したい。その第一歩をこの休校期間から、Power of ICTをスローガンに攻め続ける。
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