2019年6月17日
広陵高校、可動スクリーン『Ninja』活用で授業バリエーション拡がる
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2011年、文部科学省が掲げた「教育の情報化ビジョン」。その施策の一つに「1校につき1台の電子黒板を配備」があった。しかし残念ながら、この施策で配備された電子黒板が大いに活用されたかというとそうではない。最大の課題は物理的問題だ。基本的に電子黒板は、大きく、重い。授業のたびに持ち運ぶのは困難だったのだ。
設置スペース・費用面の問題で導入進まず
時は流れて2017年。広島県の私立広陵高等学校でも、似たような問題を抱えていた。高校野球の名門として知られる同校だが、他方で、全校をあげて教育のICT化にも挑戦中だった。
落合幸良教頭は、当時を振り返ってこう語る。「本校では電子黒板ではなく、プロジェクタとスクリーンが中心でしたが、やはり機材の移動や設置などの問題に直面していました。教員らはICT教育に強い関心を持ち、挑戦してみたい授業案もたくさん持っているのに、やりたくてもやれない、というのが実情だったのです」。
可動式スクリーンを検討も、新たな問題発生
当初は、吊り下げ式のプロジェクタや液晶ディスプレイの導入・増設を検討するも、やはり設置スペースや、費用の問題から断念。次に検討されたのが、黒板に貼り付けるタイプのマグネットスクリーンだが、同校の黒板は比較的小さなサイズで、その大半を常にスクリーンが占拠しているようでは困る。収納・展開が容易に行える必要があったのだ。
それが可能なスクリーン類は、当時すでに多数あったが、先述したように同校の黒板は小さなサイズだ。加えて、近年の黒板は緩やかな弧を描くように湾曲している。いっぽう、一般的な可動式マグネットスクリーンは、上下方向での出し入れを想定しており、同校の黒板で展開すると、どうしてもスクリーン下部に「たわみ」ができてしまい、視認性が著しく下がってしまうのだ。
次々と発生する問題に計画は暗礁に乗り上げつつあったが、それらを一気に好転させたのが『Ninja』の導入だった。
レール式スライドスクリーン『Ninja』の活用
『Ninja』は、ガイアエデュケーションが提供する可動式スクリーンで、プロジェクタ、教育支援ソフト、タブレット等がセットになったパッケージコンテンツ。
デジタル教科書やペンタブと連動して書き込みなども可能だが、同校にとって何より大きかったのは、レール式でスクリーンが横方向に展開すること。マグネットによる脱着も容易で、設置スペースの問題もクリアしていた。プロジェクタと教育支援ソフトを組み合わせることにより,プリントや動画を見せるだけでなく,配布プリントを映し,そこに書き込みをしたり,またタブレットと連動して生徒の書き込みを映したりすることもできる。もちろん固定式で落下の恐れがないという安全面にも配慮された。
落合教頭は「ICTツールの定着は『どの教室でも同じ環境で授業ができる』ことと,『使いたいときにすぐ使える』ことがカギではないかと感じています。全教室に配備してそれがスタンダードだと示さないと、教員は使わないと思うのです」と語る。
そこで,全教室への配備を実施。
各教員が描いたICT教育の実践、ついに動き出す
落合教頭の言葉を裏付けるかのごとく、全教室へプロジェクタとスクリーンを設置したことで、これまで「やりたくてもやれない」状態だった教員らも、そのうっぷんを晴らすかのように、次々と新たな授業実践に取り組み始めた。
国語科の山田由紀子教諭は、教科書を投影しながら、マーキングすべき箇所や書き込み事項をスクリーン上で実演して示すようにした。これまではどうしても口頭での指示だったが「耳からの情報を処理するのが苦手な生徒もいます。視覚的に見せられるのは、小さいことのようで大きいです」と語る。
英語科の竹本淳一教諭も、長文問題を投影して直接マーキングを示している。長文はすべてを板書するわけにもいかず、以前は授業のたびにロール型スクリーンを持ち運んでいたので大変だったそうだ。
数学科の松島勇太教諭は、演習の解説をパワーポイントで段階的に表示するように変えた。それまでは一気に板書するしかなかったが、生徒の理解度を見ながら対応を変えられるようになった。「いきなり正解を示すのではなく、生徒に考える時間と機会を作りたかったのですが、ようやくそれができるようになりました」と嬉しそうだ。
同じく数学科の金光秀幸教諭は、板書とスクリーンを柔軟に併用している。授業中に何度も見返す必要がある基本情報を板書で残したまま、スクリーンで動的に授業を進めていく形だ。これにより生徒は、常時基本に立ち返りながら授業を受けることができる。
全校的なICT教育が加速
こうした動きは、スクリーンの使用にとどまらず、同校の全体的なICT教育活性化にも変化を起こしつつある。
保健体育科の中井惇一教諭や石井将貴教諭は、授業にiPadを活用。ソフトボールやダンスの授業で「生徒が実践→録画→視聴→手本動画を見る→再び実践→録画→ふりかえりの視聴」というステップを踏むのだ。これにより生徒たちは、ビフォアアフターを比べながら、具体的に体をどのくらいどう動かせばいいのか、視覚と実感をもって理解できるようになった。
総じて各教員が口をそろえるのは「板書や準備の時間が減って、より発展的な授業ができるようになった」「黒板ではなくもっと生徒自身に目を向け、反応を見ながら授業展開できるようになった」「生徒は視覚的なものに興味を示す傾向が強いせいか、授業への主体性が増した」といった効果だ。
「ICT教育導入」と聞くと、抜本的な改革など、ハードで大がかりなイメージがつきまとう。もちろんそれが必要なときもあるが、同校のように、スクリーンの導入ひとつで加速することだって十分あるのだ。できることから、必要なことから小さく始める――それもまた、ICT導入成功の一つのカギではないだろうか。
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