2020年1月27日
GIGAスクール構想とは(2) 校内 LAN 整備の標準仕様をチェックする
はじめに、「GIGAスクール構想」の取りまとめに関わったという教育関係者の一言を紹介します。「今回の校内通信ネットワーク整備事業の補助金は凄いよ。震災復興対策並みだ。表といわれる“国庫補助”で5割、裏と呼ばれている“交付税措置”で3割。全体の8割が補助される。これだけ手厚い補助があって、この機会に学校のICT環境整備をしない自治体があったとしたら、本当に完全に取り残される。そんな自治体の児童生徒は不幸すぎる」。たとえ首長や議会、教育委員会や校長会が、なぜそこまで早急にICT環境整備をやれなければならないのか、どうやったらいいのか、わからないとしても、いまはとにかく始めなければなりません。あなたの自治体の子どもたちのために。いますぐ。
学校内の情報端末(PCやタブレット)とインターネットを接続する重要な設備、校内LAN。中でも無線LAN(Wi-Fi)は、ICTの俗称(I:いつもC:ちょっとT:トラブル)の代名詞といわれ、多くの現場の教師たちをICT活用から遠ざける大きな原因となってきました。授業を始めようとしたらアプリや資料がダウロードできない、回答を回収しようとしたら繋がらない、動画を再生しようとしたら固まった、などなど、ICTを授業で使いたくなくなる大きな原因とされてきました。しかし、その原因の多くは利用状況に適した設備が整備されていないことです。端末10台~20台接続可能なAP(アクセスポイント)機器で1クラス40台を一気に繋いでみようとしたり、6クラスあるフロアに1台のAPだったり。以前は、とくに先進校などで公開授業を行ったときに限って、普段利用しない環境になって「Wi-Fiがつながらない」実態を見てしまい、「やっぱりICTは使えない」となることも多かったようです。もちろん校内LANには問題ないのに、学校から外部への接続で容量不足やセキュリティ管理でつながらないというケースもあるようです。そうした課題も一気に解決しようというのが「GIGAスクール構想」です。
GIGAスクール構想とは、Society 5.0 時代に生きる子供たちの未来の見据え、児童生徒向けの1人1台学習用端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する構想です。GIGAスクール構想のGIGAとは通信速度で使うギガビットではなく、Global and Innovation Gateway for Allの略。誰一人取り残すことなく子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けた施策です。平たく言うと児童生徒に1人1台の学習者用端末と、クラス全員が一度にアクセスしても利用できる通信環境を整備するものです。
今回は、GIGAスクール構想推進に向け「1人1台学習者用端末」と両輪となる「校内 LAN 整備の標準仕様」について、2019年12月20日に文科省が公開した「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」に沿って紹介します。このなかで文科省も「この標準仕様書はあくまでモデルである。各自治体におかれては、ICT 活用教育アドバイザーも活用しつつ、このモデル例を参考に各学校での ICT 活用を想定して独自に仕様書を作成し、安価で簡便な調達と持続可能な学校 ICT環境の運用を実現していただきたい。」としているのであくまで参考です。
文科省の標準仕様書では「調達仕様書の作成に当たっては、安価に導入を進めるために、アクセスポイントやハブなど、整備に共通して必要なハードウェアについて都道府県単位等複数自治体での共同調達を検討することが望ましい。」とした上で「校内LAN整備に当たっては選定する機器の数量や性能によるネットワーク上のボトルネックが生じる場合があるので、調達仕様書案の作成後は、有識者や複数業者から意見を得ることが望ましい。また、既設のネットワーク機器や、LAN配線がある場合、可能な限り有効活用することで調達を安価におさえることができる。ただし、既設機器との整合性を取ることは専門家でも慎重に検討を行う必要があるため、有識者や、既設業者、保守業者などから意見を得ることがスムーズな調達につながる。」と、外部の声をよく聞くように薦めています。なにより安価で導入することが望まれますが、機能・性能が利用状況に対応できにないというのでは、導入する意味がありません。
実際に校内LANの導入においては、「1人1台学習者用端末」以上に自治体や学校によって状況が異なっていますので、まず自分たちの現在の環境を確認するとともに、校内LANを活用してどのような学びを実現にしていくのかを明確にする必要があります。
では図1で、校内LAN全体をイメージしてみましょう。校内LANだからといって学校内だけのネットワークを考えれば良い訳ではありません。校内LANの目的は学習現場となる教室などとインターネットやクラウドを繋ぐことです。この図は校内LANが教育委員会や自治体のデータセンターを経由してインターネットに接続されているものです。もちろん、学校から直接インターネットに接続しているケースもあります。この経路によって、設備はもちろん利用状況も変わってくることがあります。自治体のセンターに集約して接続しているため、セキュリティが行政機関と同等となり、動画配信サービスやクラウドサービスが利用できないというケースもあります。
仕様書では、2つのインターネットへの接続構成について、センター集約は「学校からの回線接続を、一旦、教育委員会など市町村の建物にあるサーバ室等や、データセンターに集め、そこからインターネットに接続する方式。インターネットへの出入口が一箇所にまとまるため、攻撃からの防御がし易い反面、通信が集中するとボトルネックになりやすい」。学校個別接続については、「学校からの回線で直接インターネットに接続する方式。通信が分散されるため、ボトルネックが生じにくい。一方、インターネットへの出入口が学校毎になるため、攻撃からの防御は学校毎に行う必要があり、ファイアウォールなど設置機器を考慮する必要がある」と解説しています。それぞれの適性を理解して運用する必要があります。
ネットワーク環境の整備で最も重要なのは、安全・快適に利用できることです。快適に利用するためには、「通信速度」と「接続ポート数」が重要です。仕様書では、必要機器の数量及びスペック算定方法について下記のように示しています。
□LAN ケーブル
10Gbpsで接続可能なCat6A以上ケーブルの利用を指定する。
□無線 AP
無線APの機種により同時接続数が異なる。1教室に1つ設置。1教室 40 人であれば
40 接続のものを1台、20 接続のものであれば 2 台必要となる。
複数台設置する場合、電波干渉による障害が発生する可能性があるため、干渉を調査して設置場所を調整する必要がある。
□フロアスイッチ
各階に一台設置し、無線 AP と接続する。
その階の無線 APの台数分接続可能なポート数以上のものを選定する。
□電源の確保
スイッチ、無線 AP などのネットワーク機器用に電源の用意が必要なので、電源の工事
を、施設課等で通常依頼している、電源工事業者に別途依頼する。
□建物構造の確認
複数棟を渡り廊下でつないでいる場合などは、渡りのケーブル配線を考慮する必要がある。
□必要帯域の算定
各学習活動に必要となる帯域と、同時に使用する台数から、教室ごと、フロアごと、学校ごとで必要な帯域を算出する。
下表は、学習活動ごとの使用帯域の目安である。
<学習活動:1台当たりの使用帯域目安>
遠隔授業の実施(テレビ会議): 2.0Mbps
NHK For School :0.7Mbps
YouTube(HD720p 画質): 2.5Mbps
例えば、40人がそれぞれテレビ会議を利用すると、2.0Mbps×40 台=80Mbps の帯域が必要となる。
前述した、ICT(I:いつもC:ちょっとT:トラブル)の原因の多くは、APのポート数が足りなかったり、必要帯域が不足しているのが原因と思われます。校内LAN環境整備にあたっては、校内LAN環境と1人1台学習用端末を使って「何を行うのか」を検討整理して利用状況を想定することが重要となります。「導入出来るときにしておいて、使い方は後で考える」という、どこかの失敗例を繰り返してはいけません。
「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」では、「1人1台学習用端末」と「校内 LAN 整備」の他、「クラウド環境等構築」や「学習用ツール」、「充電保管庫」などについても標準仕様を示しているので、ICT環境整備全体を捉えて考察、検討してほしい。わたしたちが想像する以上に、今回の政府の取り組みは“本気”なようです。(編集長:山口時雄)
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