2020年12月8日
教員コミュニティMIEE Talks@Admin.によるICT活用実践集 「特別支援学級でのICT活用」
『読み書きの支援だけじゃない、特別支援学級でのICT活用』
つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵(専門:特別支援教育)
【寄稿】
はじめに
特別支援学級でのICT活用は、読み書き困難への支援に対してのことが多いと思います。読み書きの支援以外で、ICTをどう使うのか?私は主に個人や小集団の自立活動で、ICTを用いた授業実践をしています。
特別支援学級を利用している子どもたちの多くは、読み書きの困難さや障害特性等から普段失敗体験を多く重ねており、自己肯定感が低くなっています。「苦手なことを頑張ってできるようにする」ことよりも、「好きなことを生かす」支援が、子どもたちの心理的な安定や、学習を頑張る力のベースに繋がると考えます。みなさんも、自分のことを知ってもらったり共感してもらったりすることは、大人になっても嬉しいものではありませんか?どうか、その気持ちを子どもたちに実感させてあげてください。そのためのツールとしてのICT活用を、いくつかご紹介します。
① PowerPointで表現
PowerPoint(パワポ)は、表現等のクリエイティブな活動をするのに、一番手軽でとてもよいツールです。
余暇時間に自由を与えられると何をしてよいか決められず、休み時間ごとに「することがない!」とプチパニックを起こす子がいました。鉄道や街づくりに興味をもっていることを知っていたので、それを元にどんなことを表現したいかを聞き取っていきました。すると、「自分で考えた路線図を作りたい」「緊急地震速報の動画を作りたい」などの意見が出てきました。そこでPowerPointの使い方をレクチャーしてみると、操作をあっという間に覚えて、どんどん作品を作っていきました。
その後は、休み時間に自分からパソコンに向かうなど、余暇時間をうまく使えるようになり、普段の生活でも格段に落ち着いてきました。
PowerPointで絵本作りを体験したのは、当時2年生の子どもたちです。生き物好きな子たちの多い学年だったので、SDGsも絡めて「森の生き物を守るために、私たちができること」を多くの人たちに知ってもらう絵本を作りました。絵本はコンクールにも出し、入賞こそ逃しましたがWWFのHPにも載せていただけたことで、控え目だった子どもたちも自信をつけました。
②Minecraftを使った学習
Minecraft(マイクラ)を使った自立活動は、コミュニケーションを軸にしたり、自己表現を軸にしたりと、毎年子どもたちに合わせていくつか実践しています。いくつか実践してきた中で、子どもたちの食らいつきが一番良かったのは、サバイバルモードでのコミュニケーションや協働力向上のための学習です。この自立活動は、プロマインクラフターのタツナミシュウイチさんの全面協力により実施することができました。今、コロナ禍で先生たちもようやくZoomなど使用するようになってきていますが、2年前にこの自立活動でもオンラインを取り入れていました。オンラインなしに、私一人ではとてもこの学習はできませんでした!あくまで実験的な取り組みではありましたが、今後GIGAスクール構想により学校のネット環境等が整えば、このサバイバルモードでのマイクラを使った自立活動は、あちこちの支援学級と繋いで実践することが可能だと思っています。
タツナミさんがまとめてくださったこちらの実践記録も、よかったらご覧ください。
③ プログラミングで自己表現
viscuit(ビスケット)は直感的に操作できるプログラミングツールなので、自己表現するにはもってこいです。登校渋りや、普通教室で不適応を起こしている子たちには、これでゲームなどの作品を作らせています。作ったものを見ながら一緒に、本人の思いを共有してあげることを繰り返すと、心理的に安定していく子たちが多いと感じています。
2~3年生の子どもたちに、embotを使った自己表現にもチャレンジしてみました。embotは段ボール素材なため、子どもたちがキャラクターに愛着をもちやすかったですね。また難しいプログラムを組まなくとも表現することも可能でした。2年生は自分たちで作った【お話作り】、3年生は海の生き物を守るための【プラスチック分別のための動画作り】に取り組みました。作った動画を多くの人に見てもらうことで、子どもたちも達成感を味わい、自信につなげていました。
プログラミングを用いた個人での実践も紹介しましょう。学校(支援学級)に5分しか居られない状況が2年近く続いた子がいます。諸々の事情で、学習に気持ちが全く向きませんでした。しかし、元々美術センスのある子だったので、『Springin′』や『Makecode Arcade』 を使ってゲームを作り、発信することを提案しました。
「作ったものは、必ずUPする。」と制限をかけて取り組み、学校に居られる時間をスモールステップで増やしていったところ、4カ月後には60分学校に居られるまでになりました。現在継続中の取り組みで、今後が楽しみです。
④ 作ったものは、Flipgridに記録・共有
子どもたちの取り組みや作品を、動画に撮っておくことが多いですが、ここ数年それをすべてFligridで行っています。QRコードにして家庭に持ち帰り、家族に手軽に見てもらうことができて子どもたちも喜ぶし、満足感が高まります。
教室で不適応を起こして毎時間教室を抜け出してしまう子がいましたが、支援学級で毎日1時間預かることにしました。スモールステップの学習を組み立てながら、合間にレゴブロックで作品を作ってもらうようにました。毎日毎日、できた作品のポイントなどを話してもらいながら動画に記録していきました。箱庭療法的な取り組みだったのですが、数カ月後にはほとんど不適応行動がなくなり、今ではもう教室を飛び出すことはありません。
おわりに
先生方が受け持っている子どもたち一人ひとりを思い浮かべて、その子がいきいきと輝くにはどのICTを活用したらよいかを考えてみてください。「その子に合わなかったらどうしよう」という心配があるかもしれませんが、ICTなんて、使ってなんぼです!!失敗したら、また別のものに取り組めばいい。そういうスタンスで取り組んでいただければ、きっとその子に合った、オーダーメイドの支援ができると思います。
イラスト:Atelier Funipo
《執筆者プロフィール》
山口禎恵
つくば市立学園の森義務教育学校教諭。自閉症情緒障害学級担任と特別支援教育コーディネーターを兼任。特別支援学級・通級指導教室の子どもたち一人一人に合わせたオーダーメイドの支援に様々なICTを組み合わせて実践中。支援学級でのプログラミング授業も色々試しており、embot認定teacherにも選ばれている。2016年よりマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)としても活動中。MIEE Talks@Admin.メンバー。
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