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2021年7月1日

ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第12回 ICTを活用して自信をもって活動しよう

ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第12回
ICTを活用した感情表現が苦手な子どもへの合理的配慮(後半)

ICTを活用して、自信をもって活動しよう

子どもたちの中には、取り組む活動の内容は分かっていても、どのようにするのかが分からなかったり、どのようにするのかは分かってはいても、失敗が怖くて自信がもてず、自分から取り組むことができなかったりする人がいます。授業をしている教師は「大丈夫だから自信を持ってやりなさい。失敗しても大丈夫だからやってみてごらん」と促すのですが、自分からはなかなか取り組むことができないのです。ASDのある児童に「どうしてしないの?」と聞いてみたことがあるのですが、その児童は「したくないんじゃないよ。やろうと思っても動けんのや」と言っていました。安心して活動できないことに原因があるようです。

授業中に行う活動の注意事項等について、多くの教師は、音声で伝えていると思います。「このときにはこの点に注意するように。この活動の後にこれをしてください」等です。活動の全体像が見えている場合は、教師が言った内容を関連付けて考えることができるので、見通しを持って活動することができます。しかし、ASDなどの発達障害のある児童の場合は、一つ一つの言葉はちゃんと聞いていたとしても、活動の全体像を想像することができにくいために、先に言われた注意事項等と、これからする一つ一つの活動を関連付けて考えることができにくくなっていることがあるのです。例えると、「木を見て森を見ず」というような状態になっているということです。その結果、見通しを持つことができなくなり、活動できなくなると考えられるのです。

その上、分からなかったときに尋ねるということも苦手です。話はちゃんと聞いていたけれど、活動と関連付けて理解することができていない場合、「これはどうするのですか?」と質問をしても、他の児童が活動できている場合、「さっき言いましたよ。あなただけ聞いていなかったのですね。何回も同じこと言わさないでください」というようなことを言われた経験も多いと考えられます。加えて、その場の雰囲気や状況を考慮せずに質問することも多くなるため、「今言うことではありません」と注意されることにもなるでしょう。この結果、話を聞いていない自分が悪いので尋ねることはいけないことと考え、質問することに消極的になってしまうことがあるのです。

また、見通しが持てなくなっているので、何をどのように尋ねてよいのかも分からず、その結果、質問することができなかったりすることもあります。分からなかったときに質問することは決して悪いことではないはずですが、ASDなどの発達障害のある人の中には、その場の状況等を考えながら質問することも苦手な人もいるので、発達障害のある子どものことを十分に理解していない教師の対応は、質問する意欲を失わせることにもなっているのです。

ASDなど発達障害のある児童への理解が不十分な教師が作り出す学級環境と、その子どもの気質との相互作用が、コミュニケーションができない状況をより顕在化させているということです。

このようなとき考えなくてはならないのは、児童が自信をもって活動することができるようにすることと、教師が今は不必要ではないかと感じるような質問が出ないような環境をどう作るかです。上記の例でいうと、活動に見通しを持って取り組むことができるようにするということです。見通しが持てる環境を作ることができれば、教師が期待している行動が伝わるようになるので、理解できるようになり自信を持って活動に取り組めるようになります。その結果、今は不必要ではないかと感じる質問も減るということになるのです。

では、そのときどのような合理的配慮が必要となるのでしょうか。合理的配慮を考える上で忘れてはならないことは、視覚的に示すことの重要性です。音は消えて無くなってしまうので、何を言われたのかわかなくなることがありますが、視覚的な情報は残しておくことができるからです。音声で伝えられたことがわかりにくくなってしまっているのであれば、視覚的に示して理解しやすくするということです。

これまでも、手順表やすべきことなどを視覚的に視える化して示していた人もいるのではないかと思います。手順表などを印刷して作る場合は、活動内容を課題分析し、活動ごとに分け、それらを順番に並べて印刷して見せるようにするという流れでした。この場合、突然の手順変更などには対応することは困難で、臨機応変な対応を取ることはできませんでした。また、丁寧に作った物も、一回しか使われないといったこともあったでしょう。しかし、このようなときにICTを活用できれば、これらの問題は解決します。

課題分析した一つ一つの活動を写真にしておき、それを順番に並べて示せばよいのです。
下記の写真は、ソフトバンクと香川大学が共同で完成させた「アシストガイド」というアプリの予定表の画面です。カメラで撮った活動の流れなどを時系列で並べることができます。

実証研究時に開発途中のアプリを使用

このアプリでは、その場でカメラで撮って写真にし、それを解説とともに並べ替えることが可能なので、簡単に手順表を作ることができます。同時に使用するものや持ち物、注意点なども書き込んでおくこともできるので、これを見ながら、安心して活動に取り組むことができる子どももいるはずです。安心して見通しを持って活動することができるということは、自信に繋がります。自信があると不必要な質問はしなくなるでしょう。そして、活動のなかで、自分から積極的にコミュニケーションする姿も見られるに違いありません。


学校生活を安心して過ごすことができるということは、学習活動を支える重要なポイントです。不安な状態で緊張している状態では、理解できないことも多いはずです。安心できる環境を作ることが重要で、それは自発的なコミュニケーションの指導の場をつくることにもなるのです。

アプリ「アシストガイド」のダウンロードはこちら

イラスト提供: Atelier Funipo

執筆者プロフィール
坂井聡
香川大学教育学部 教授
附属坂出小学校 附属幼稚園 校園長
香川大学バリアフリー支援室 室長
日本特殊教育学会常任編集委員
自閉症スペクトラム支援士 エキスパート
特別支援教育士スーパーバイザー
国土交通省 公共交通事業者等における接遇ガイドライン等改訂のための検討会 委員
文部科学省 「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」実証研究委員会委員
主な著書
知的障害や発達障害のある人との コミュニケーションのトリセツ エンパワメント研究所
発達障害のある子の学びを深める教材・教具・ICTの教室活用アイデア 共著  明治図書出版
自閉症スペクトラムなど発達障害がある人とのコミュニケーションのための10のコツ エンパワメント研究所 など

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