2014年9月16日
先生のための初級ICT教育講座 Vol.5「あなたは大丈夫? ICT教育に欠かせない著作権の知識」
先生のための初級ICT教育講座 Vol.5
「あなたは大丈夫? ICT教育に欠かせない著作権の知識」
紙の時代から、デジタルの時代となり、学校教育でも、画像や動画といった様々なデータを教材作成などに手軽に利用できるようになった。しかし、デジタルデータは便利な反面、紙と違った著作権法の条文に抵触するなど、知らず知らずに教師が著作権を侵害してしまうケースも少なくない。
そこで、今回の初級ICT教育講座では、学校教育でのデジタルデータを使った教材の作成から、その利用までシーンごとに著作権の線引きについて確認するとともに、ICT教育を行う上で重要になる「著作権法第三十五条」について紹介する。
「著作権法第三十五条」とは、著作権で保護されていて著作権者の承諾なしに使ってはならない画像や映像、音楽や書籍などの著作物を、著作権者の承諾を必要とせずに教育の現場で使えるようにする法律で、使っても良い教育機関、立場、使い方などが規定されている。
「教師が使うんだから、どう使っても大丈夫だろう」ということでは無いことを、十分に認識して欲しい。
インターネットの画像や動画、音楽などを使って教材を作成するのは大丈夫?
インターネットに公開されている画像や動画、音楽など創作物は、一般的に作った人に著作権があり、著作物として保護されている。しかし、学校など非営利の教育機関の授業で使用する場合、「著作権法第三十五条(以下 三十五条)」で、必要と認められる限度内であれば、公表された著作物を利用することが認められている。そのため、誰かが作った画像や動画、音楽などを、教材やプリントを作る際に使用し、それを授業で使ったり、配布したりしても問題はない。もちろん、市販の写真や音楽なども公表された著作物になるので使用することができる。ちなみに、営利を目的とする予備校や私塾などには「三十五条」は適用されない。
ネットの素材を集めて作った教材をほかの教師も使いたいと言うんだけど大丈夫?
「三十五条」は、「教育を担任する者」のみに適用される。つまり、著作物の利用を許されるのは、教師自身が担任する授業のためだけであり、ほかの教師に第三者の著作物を利用させることは認められていないのだ。
また、生徒の著作物の利用も同じことで、「授業を実際に受ける生徒」だけに適用される。たとえば、美術の授業で漫画のキャラクターをダウンロードして使用するなど、授業内で生徒自身が著作物を利用することが認められている。
市販の問題集をスキャンしてプリントに使うのは大丈夫?
「三十五条」では、ただし書きで「必要と認められる限度内において」利用できると規定されており、「著作権者の利益を不当に害すること」は認められていない。この条文から考えてみると、市販の問題集は、学習教材として販売されることを目的に発行されており、これを無料で配布することは、著作権者に経済的損失を与えることになってしまう。そのため行ってはいけないことが分かるだろう。参考書やドリル、資料集、白地図、教材として使われる楽譜なども、問題集と同様に考える必要がある。
また、市販のソフトウェアの場合は、購入分を超えてダウンロードすると、教育目的であっても著作権者の利益を不当に害することになる。そのほかに、著作物の複製に関しては、1クラスにつき50人の複製部数までという目安があるということも覚えておこう。
授業参観やオープンスクールで著作物を含む教材を使用するのは大丈夫?
学習指導要領に沿った授業であれば、「三十五条」が適用される。そのため、授業参観も学習指導要領に沿った内容の場合、著作物を含む教材を使用できる。しかし、授業を受ける生徒にしか適用されないため、参観に来た保護者に教材を配布することは認められない。また、生徒以外への模擬授業や先生同士の研修会(教育委員会など主催の定期的な研修などは除く)などは、指導要領にもとづいていないため、許諾が必要になる。どのような授業ならば使用していいのか下記にまとめたので参考にしてほしい。
学校のHPに生徒がネットで素材を集めて作った資料を載せるのは大丈夫?
「三十五条」では、「授業の過程における使用」は認めているが、「公衆送信権(以下 二十三条)」を侵害するとして、校内LANサーバーを含めた蓄積行為そのものを禁じている。学校などのホームページに掲載するには、サーバーへの蓄積が必要になることから認めていない。また、サーバーを使ってほかの教員と共有するのも、著作権者の許諾が必要だ。なお、授業のために一時的にUSBやCD-ROMなどのメディアへの複製は容認されているが、授業後の配布は禁止されている。また、データは授業後に消去するのが原則なので注意が必要だ。
eラーニングに利用するのは大丈夫?
「三十五条」の適用は、授業を実際に行う教員と、授業を実際に受ける生徒が教室に一緒にいることが前提になる。指導教員がいない場所で、生徒がeラーニングを利用することは「三十五条」で認められていない「二十三条」を侵害する行為となる。また、同時性も求められるため、終了した授業を後日見たり、教室で行われていない授業を視聴できるようにすることも「二十三条」を侵害するので、適用外となってしまう。
遠隔授業の場合は、両中継地となる教室にそれぞれ指導教員と授業を受ける児童がおり、リアルタイムに行われる場合は問題ない。しかし、教師や生徒のどちらかしかいない、遠隔地への送信のみによって行われる授業の場合には「三十五条」は適用されない。
反転授業の場合は大丈夫?
最近、話題の反転授業だが、自宅や自習室など指導教員がいない場でeラーニングを行う場合は、やはり「三十五条」は適用されない。反転授業のeラーニングで予習教材に著作物を使う場合には、原則として事前に著作権者から許可をもらう必要がある。ただし使い方によっては、「引用」として著作権者の許可を得ずに利用できる場合がある。「引用」は、第三者の著作物を許諾なく使えるため厳格な条件がある。引用部分とそれ以外の部分が「主従関係」にあること、引用部分を括弧で囲むなど明瞭に区分されていること、引用部分は必要最小限であること、改変をしないこと、出典を記しておくことなどだ。
様々なケースを見ながら、教育現場での著作権の線引きについて紹介したがどうだっただろうか。著作権は知らなければ、無意識に侵害してしまうこともある。ICT教育を実践するためにも、しっかりとした著作権の知識を身につけて欲しい。
◆(監修)一般社団法人 日本著作権教育研究会
日本著作権教育研究会は、教育現場で著作物の利用を円滑に進めるための著作物利用許諾申請代行業務を行う非営利団体。現在、中学、高校、大学延べ200を超える団体の入試問題、教育教材、学校広報に関わる著作物の権利処理を行っている。
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