2017年10月17日
テスト結果を分析、個々に異なる復習問題をスピード配布 「学びなら」の試み
~ICT機器を用いた先端授業で楽しそうに学ぶ子どもたち~
一般的に「教育のICT化」といわれると、電子黒板やタブレット、便利なアプリケーションなどを用いたデジタル授業を思い浮かべがちだ。もちろんそれは間違いではないが、ある意味で表層的な事象に過ぎないともいえる。それらの機器や技術を使って授業でどのように学ぶかという、最も分かりやすい・目につきやすい「教育のICT化」だからだ。
しかし、当然ながらICTは、授業現場・学習者用ツールとしてのみ用いられるものではない。“授業のバックヤード”にも利活用されている。その一つとして注目を集めているのが、奈良市が取り組んでいる「学びなら」である。
「学びなら」では、児童が取り組んだ紙媒体のテストを教員のPC上で採点し、クラウド上にアップすることで、その正誤結果をAI的に自動分析して習熟度の傾向をつかみ、一人ひとりに異なる内容で復習問題(紙)を配布する。いわゆるアダプティブ・ラーニング(個々に合わせた学習内容を提供すること)の後方支援にICTを活用している。この取り組みを実現しているシステムが、DNP(大日本印刷)が開発した学習クラウド『リアテンダント』である。
『リアテンダント』をいち早く取り入れた奈良市では、月1~2回単元の学習が終わるたびに単元テストを行うが、従来の教育モデルでは、テストを実施して分析を行おうとしても、そこに多大な時間と労力がかかり、現実的な実施は厳しい環境に置かれていた。分析が終わるまでには数カ月かかり、そのころには授業単元もはるか先に進んでいるため、着実な理解定着をしながら進めることが難しいのだ。
加えて、学年が上がるごとに学習意欲・学力とも低下する傾向があるため、「分かるよろこび」を土台にした、学習モチベーションの向上も喫緊の課題であった。奈良市の担当者は「とにかく求めたのは処理のスピード。苦手な単元をその場で分析し、即座に対応することが永年の課題だった」と語る。
そこで同市では、学力向上システムの一環として『学びなら』を構築。2016年度から市内の小学校3校に『リアテンダント』をモデル導入し、実証を図った。
『学びなら(リアテンダント)』の大まかな流れは、DNPが提供する単元・期末テスト(紙)を実施→教員が解答用紙をスキャニングしてデジタル化、専用のシステムを使って採点→採点後の正誤データをクラウドにアップ→AI的に分析を行い、「レコシート」と呼ばれる児童個々に応じた復習問題を個別に作成→各校に送付、授業や朝学習の時間で復習問題に取り組む、というもの。テストを実施した翌週にはレコシートが送付されてくるため、課題であったスピード感も解消されている。
分析はIRT・LRTなどの現代テスト理論に基づいて行われ、単なる正誤を見極めるだけに終わらない。例えば、比較的簡単な問題を間違っているにも関わらず難易度の高い問題に正答している場合、当てずっぽうで正解した可能性が高いと判断することができる。これまでのテストでは正答数のみで点数化され、合計得点で優劣を判断していたが、それが覆る格好だ。この仕組みにより、仮に同じ正答数であっても、児童の能力を見極めることが可能になっている。
また、全般的に正答率の高い児童には、一歩進んだ応用・思考型の問題が課されるようになっており、落ちこぼれも吹きこぼれも作らない、従来の狙いであったアダプティブな対応ができるという仕組みだ。またそうした傾向分析から、教員自身の授業改善へのフィードバックにも利用できる。
これをふまえ、9月27日、モデル校の一つである市立あやめ池小学校(西浦克博校長・児童数521名)の4年生を対象にした公開授業が実施された。この日行われたのは、実際に返却されてきたレコシートをもとに、児童らが復習問題に臨む授業だ。
レコシートの問題は3枚(分析に基づく、3つの重点復習ジャンル)で構成されており、通常なら15分程度で回答可能だ。細かな授業運営や判断は教員の裁量に委ねられるが、まずは授業開始とともに復習問題に取り組ませながら、個別の質疑応答などに対応する。添付された正解例をもとに児童が自己採点したあとは、同じ単元の復習や演習などを授業内で行っていく。レコシートに黙々と課題に取り組む児童もいれば、互いに教え合う児童もいるなど、主体的な姿勢が目立っていた。
4年3組を受け持つ鎮西良太教諭(53)はこう手応えを語る。「児童自身が、自らの得手不得手を自覚できるのがいい。同時に、教員として自分自身の教え方の課題も見えてくる。他の教員とも情報をシェアしつつ、全体で学力向上に取り組んでいきたい」
児童からも「自分は得意(な分野)だと思っていたらそうでもなかったり、意外な発見があるので面白い」「自分のためだけに作られているから、他の子とは問題が違うので、一人でチャレンジする気にもなるし、逆に得意なところを教えあうのも楽しい」という声が多数挙がった。
もうひとつ、大きな特徴がある。教育のICT化過渡期における橋頭堡(きょうとうほ)モデルであることだ。
教育界では「児童・生徒1人1台のタブレット配布」「校内全域をWi-Fiでカバー」といったニュースが話題をさらいがちだ。しかし、実際にその環境を整えるのは容易ではない。導入に向けての合意、予算、時間、労力、インフラ整備など様々な壁が立ちはだかる。意思決定系統が複雑な公立校ならなおさらだ。また、ICTそのものを苦手とし、初めから拒絶感を示す教員もまだまだ多い。
その点においても、本ケースは適性が高いと言える。アナログとデジタルが絶妙な融合をしていて取り組みを始めやすい。実際、このモデルにおいてはWi-Fiもタブレットもいらないし、テストも紙媒体だ。にもかかわらず、ICTを活用した個別学習を実現できている。DNPでは、復習問題をタブレット上で行える仕組みも構築予定で、自治体のICT環境に応じて、フレキキシブルに対応したいとしている。
派手さはなくとも、ICT技術をうまく活用した好事例といえるだろう。
極論すれば、これまでテストとは、児童・生徒を「評価する」仕組みでしかなかった。いわば、成績をつけるためのチェックツールとしてのみ機能していたのだ。しかし、この『学びなら(リアテンダント)』は違う。テストの概念そのものを変える試みだ。「チェックのためのテスト」から、「学習のためのテスト」への変革であると言えよう。
次世代の教育への対応がおおいに期待される。
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