2019年7月11日
『すらら』活用で「努力の過程」を評価/開星高校CBT入試が話題
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多様化進む、中学・高校の入試制度
近年、急激に多様化が進む中学・高校の入試制度。純粋な教科学力だけでなく、さまざまな評価基準を設けた新しい選抜方法を導入する学校が増えている。例えば、過去に力を入れてきたことなどをアピールする「自己推薦型」、知識の運用力や表現力などを問う「適性検査型」、正解のない問いを課して思考力や発想力を評価する「思考力型」などがその代表だ。
この背景には、2020年度から始まる新しい大学入試への対応や、間口を広げてより多くの受験生(生徒)を確保したいという経営的な側面もあるが、いずれもその大前提にあるのは、知識量のみでは計れない児童・生徒の能力を、多面的に評価したいという考えだ。
島根県松江市の開星高等学校(学校法人大多和学園)が2016年度から導入している『CBT入試』もその一つである。
『CBT』入試で「努力できる」力を評価
一般的にCBTとは「Computer Based Testing」の略称で、コンピュータ上で受験するシステムのことを指す。次世代型の試験モデルとして注目されているが、同校のCBT入試が特に話題を集めたのは、そのツールとしてネット学習教材の『すらら』を採用したことだった。
『すらら』は、学習者個人に個別対応するアダプティブな出題機能や、アニメーションキャラクターやゲーム性を用いた親しみやすい学習環境が特長で、多くの学校や学習塾などが導入している。しかしその用途は、家庭学習のサポートや補習授業用の教材としての利用が主戦場であり、同校のように入試に用いる事例は極めて画期的だ。対象となるのは同校の『キャリアデザインコース』。同コースは、卒業後の進路として大学から就職まで幅広い選択肢を視野にしている。
具体的な活用手順はこうだ。まず、『CBT入試』での受験を希望する志願者全員に、『すらら』のユーザーIDを発行。志願者は『すらら』で数学・英語の学習範囲(試験範囲)の指定を受け、同じく『すらら』で日々の家庭学習に取り組む。そして入試本番も、『すらら』を用いて学力試験を受験する形だ。ここだけ見ると、従来の教科学力型の入試と大差ないように思えるが、同校が評価基準として最重視するのは「過程」だ。
『すらら』は、学習者の利用時間(=学習時間)や頻度、学習した範囲や傾向などのログをすべて可視化・データ化できるため、志願者のそれは、高校側で一目瞭然となる。それを参考に、志願者がどれだけきちんと課題に取り組んできたかを評価しようというのが同校の考えだ。
その意図について、大多和聡宏 理事長兼校長はこう語る。「いわゆる自己推薦型入試の一環として、本校では『努力できる』力を評価したい。こつこつ頑張れる、粘り強い生徒に入学して欲しいのです。たとえ現有学力がいまひとつ及ばなくても、一発勝負の試験で実力が発揮できなくても、努力を継続できる力があれば、今後の伸びが大いに期待できます。通常の学力試験ではなかなか計りにくいこういう力こそ、大切にしたいと考えます」。昨今の探究型学習の潮流などもふまえ、そこで求められる粘り強い探究心に活きる素地を重視したい考えもあったと言う。
受験勉強中の「見守り」まで踏み込む
加えて同入試制度において光るのは、受験本番までの家庭学習の「見守り」まで、同校教諭らが関与していくことだ。『すらら』のコメント機能を利用して「頑張っているね!」「その調子!」「最近、ちょっと学習ペースが落ちているんじゃない?」など、励ましやアドバイスを送るのである。つまり、直接対面することはないものの、教員と生徒が入学前からお互いを知っているかのような状態だ。
同校副校長で数学を担当する村本克 教諭も、こう言って笑う。「入学後の生徒から、『ああ、あのコメントをくれていたのは先生だったんですね!』と言われることもあります」。生徒募集という経営的側面で考えるなら、学校と志願者の関係性を深める、エンゲージメントマーケティングの効果もあったことだろう。結果として、全体志願者のうち約1/3ほどがCBT入試を利用、受験者総数も増加した。CBT入試対象外となる特別進学コース(従来型の一般入試のみで受験可能)を除けば、実に約半数がCBT入試を利用したことになる。
「学び直し」の先を目指したブランド構築
同校での『すらら』活用は、入試のみにとどまらない。入学後の高1を対象に、数学と英語のリメディアル(学び直し)授業にも用いている。こちらは、『すらら』の中心的な強みを活かした形だが、先述したように、同校キャリアデザインコースは多種多様な進路目標を設定している。そのぶん生徒たちの学力幅は広いうえ、努力の過程を重視する『CBT入試』の特性上、必ずしも現有学力が高いとは限らない。中学校の学習内容の再復習・定着が求められる生徒も少なくなかったため、余計に効果的だった。
学び直しそのものには以前から力を入れていた同校だったが、かつては「課題もあった」と明かす村本副校長。『CBT入試』導入前は、5教科合計点で合否を決める一般入試だったため、生徒個々の学力を総合点でしか把握しにくく、重要教科である英語や数学の学び直しが後手後手に回ることもあったのだ。しかし、『すらら』と『CBT入試』の活用で、入学時にはそれらの把握がある程度完了している状態になる。
つまり、受験勉強、入試、入学後の学習が『すらら』を介して連動する形で、手厚さを発揮しているのだ。おかげで同校の「学び直し」に対する姿勢や対応は、一つのブランドとして定着。保護者や受験生から高い信頼と認知を構築することとなった。
しかし、ここまで、効果的な成功を積み重ねてきた同校だが、全体としてはすでに次のフェーズに入りつつある。「学力的な面でも全体的な底上げを目指したい。『すらら』を学び直しだけに使うつもりはありません」「『CBT入試』も含め、他校がやっていないことに率先的に取り組んでいく姿勢が本校の強みです」と大多和理事長。学校そのものが未開の地へ挑戦を続ける姿勢を示すことで、生徒にも同じくチャンレンジ精神あふれる人間に育って欲しいと言う。
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