2019年11月11日
減らそう、荷物と費用。増やそう、ボキャブラリー。辞書アプリ『DONGRI』活用/東海大大阪仰星
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登山家レベルの装備で学校に通う子どもたち
小学生:5kg、中学生:10kg、高校生:15kg――何を示す数値かご存知だろうか。
実はこれが、児童・生徒の「通学用カバン(とその中身)」の平均的重量だという。さらにお弁当・水筒、体操服やその他学用品が加わる場合もあり、こうなるともはや重装備の登山家に匹敵するレベルだ。これを問題視した文科省も2018年、教科書などを学校に置いておく“置き勉”を認める通知を出したが、根本的解決にまでは至っていない。
中でも重量・大きさともに“強敵”なのが辞書類だ。確かに、近年は電子辞書を活用する学校も多く、一見この問題は解消したかに見えたが、タブレット端末の導入が進んできたことで、今度は電子辞書とタブレットの「2台持ち」が発生。両者を使い分ける非効率性と不経済性という問題も生じてきた。
東海大学付属大阪仰星高等学校中等部・高等学校(大阪府)もまた、同様の課題に直面していた。同校は早くから教育のICT化に積極的で、2019年度時点で中1~高3の全生徒がiPadを所有しているが、iPad導入当時はやはり電子辞書を併用していたと言う。
タブレットでオールインワンの辞書活用を
タブレット端末の魅力のひとつは、その応用性だろう。搭載された様々な教育系アプリを連携活用するプラットフォームとなることで、利便性と効果をより強く発揮する。そこで同校が行ったのが、タブレット導入とほぼ同時に、辞書機能もそこに持たせることだった。
導入した『DONGRI』(イースト株式会社)は、オフライン・マルチデバイス対応可能な辞書アプリだ。電子化された各種辞書データを自由に選んでインストールすることができ、手書き文字による検索機能や、英語の読み上げ機能も搭載している。
「電子辞書は1台で数万円しますからね。やはりiPadとの2台持ちは保護者さんにも大きな金銭的負担を強いることになります。その点、iPad上のDONGRIを使えば英和・和英辞書のインストールで4000円程度、国語系の辞書を入れても6000~7000円ほど。iPadにはその他の参考書などもインストールしていますから、オールインワンで便利なうえ経済的です。“最初は”とにかくそこでした」と、導入の経緯を語る英語科の西村由香教諭。
紙の辞書との比較でいうと、生徒の所有する辞書が統一されていないことも問題だった。同校は兄弟姉妹での入学が多く、それに伴って辞書の「おさがり」を使う家庭も少なくない。すると、たとえ同じ辞書でも版によっては内容が異なり、授業で「辞書の〇ページを開いて」と指示しても生徒ごとに掲載ページがバラバラ、といったやりにくさも発生していた。
辞書引き学習の効果を最大限に発揮
西村教諭が“最初は”という言い方をしたのは、利便性や経済性だけでなく、本来の「辞書引き」が持つ学習効果にも意義があったからだ。
辞書学習には「ひとつの語句を調べることで、副次的に複数の学びを得られる」という効果がある。例えば「Run」という英単語は「走る」と訳されるが、他にも「経営する」「流れる」といった意味を持つ。ところが、ディスプレイが小さくなりがちな電子辞書では、一度にそれを表示するのは難しく、「走る」で学びが止まってしまいがちだった。「タブレットならこれらの第二義、第三義も同時に表示できて一斉に指導がしやすい」と西村教諭。
これは、小さなことのようで非常に大きい。現代の子どもたちは、やたら「最短ルートで」「必要な最適解のみを」「手軽に」欲しがる学習傾向が強いとされる。「Run=走る」と知った時点でミッションコンプリートだ。
副次的に学べる辞書引き学習の良さを活かせる環境を指導者が意図して作る必要があり、DONGRIの導入はその意味において大きな役割を果たした。
また同校では、あえて中学生と高校生で異なる英語辞書を使用させている。初めて「教科」としての英語学習に取り組む中学生に、大学受験生も使用するような難易度の高い辞書は不向きなためで、その逆もしかりだ。
一方で、2020年度からの小学生英語教科化に伴い、ゆくゆくは中学生にも文法や語法に強い辞書『ジーニアス』『ウィズダム』などを使用させたいと考えている。このように自由に辞書を選べるのも、同校にとって重要なことだった。開発したイースト株式会社も「DONGRIは、そのものが辞書なのではなく、いわば持ち歩ける本棚」だと説明する。
抽象思考と能動的学習姿勢にも成果
同じく辞書活用が必須の教科・国語はどうだろうか。すべて「ヤバイ」で表現するなど、いわゆる“若者ことば”的な符牒のせいもあってか、現代の子どもたちはボキャブラリーが貧困だと言われる。同校国語科の狩谷直志教諭もそこに危機感を抱き、なんとか生徒たちの語彙力を高めたいと考えていた一人だ。
以前から、新しい単元に入るたびに生徒各自で分からない語句を辞書で調べたのち、授業で共有する取り組みを行っていた同教諭。しかし、多義語を文脈とは違う用途で解釈する生徒も多く、その都度こまめに訂正指導するなど腐心していた。
例えば「表白」という言葉は「言葉にして表わす」という意味だが、「表」には「おもて」という意味もあれば、「あらわれる」という意味もある。「白」も同様で、「告白」「白状」など「発言する」という意味を持ち、単に色の種類だけを示す語句ではない。ここを理解できる力があれば間違いも減るのだが、生徒たちはそれが苦手だ。
しかし「DONGRIで『表』と入力すれば「表○○」といった候補が次々と羅列されますよね。それを調べて比較したり、共有したりすることで『表』や『白』の持つ意味を抽象化して学べます」と同教諭。生徒も面白くなるのか、他の応用や語意をもっと知りたくて自ら調べる能動的な学習姿勢さえ見せるなど、一石二鳥だと言う。
これらの取り組みをふまえつつ、今後について「せっかく学校という集団で学習しているのだから『みんなで学べる』ことを意識しつつ、こだわってDONGRIを活用したい」と語る両教諭。「個別最適化」はICT教育アプリの一つの強みだが、マスだからこそ応用できる場面もあるという好事例だろう。
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